目次
2020年6月5日東京地裁判決の肢体障害認定からみた意義.. 245
1.はじめに.. 245
2.本判決の両下肢障害3級認定.. 245
3. 国の両下肢・両上肢に関する障害認定と本判決.. 245
4.おわりに.. 247
安部敬太
2020年6月5日東京地裁判決の事案は、線維筋痛症における初診日が確定診断を受ける前と認められるかどうかが、提訴時点では争点となった事案であった。この点については、国は提訴後に確定診断前ではあるもの線維筋痛症に起因する症状での受診日を初診日と認めたため、裁判の主な争点は障害認定日(平成27年2月)の状態が、障害年金の対象となる障害の程度と認められるか否かであった(本号第18回研究会報告参照)。
本判決は障害の程度を3級と認めて請求を認容している。その判断の根拠は、両下肢や両上肢において動作制限による認定をどのように行うべきかという重要なポイントに関わることであり、判決が認容に至る根拠とした枠組みは、これまで国が認めてこなかったものである。本小稿ではこの点について論じていく。
本判決は「原告は,平成27年3月現症時において,下肢の機能におおむね関連するとされる『片足で立つ』ないし『階段を下りる』の動作について,『一人でできてもやや不自由』,『一人でできるが非常に不自由』又は『支持又は手すりがあればできるが非常に不自由』とされていたものであるが,障害認定基準において,日常生活における動作の一部が『一人で全くできない場合』又はほとんどが『一人でできてもやや不自由な場合』には,当該動作に係る身体機能につき『機能障害を残すもの』とされるべき旨が示されていること(第3第1章第7節第4・2(5)ウ)に照らせば,上記にみた原告の下肢の機能は,少なくとも,両下肢にわたって『機能障害を残すもの』と評価されるべきものということができる。そして,障害認定基準において,両下肢に機能障害を残すものは,『身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの』に該当するものとされている(第3第1章第7節第2・2(1)キ。なお,一下肢に機能障害を残すものが,『身体の機能に,労働が制限を受けるか,又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの』に該当するものとされている(同ケ)。)。」として、線維筋痛症の重症度分類でステージ〈2〉に該当するとされていることと併せて、「本件障害認定日に比較的近接した平成27年3月現症時における本件傷病による原告の下肢の機能の障害は,日常生活能力の点からみて,少なくとも,両下肢にわたって『機能障害を残すもの』と評価されるべきものであって,『身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの』に該当するものといえる上,本件傷病に対する重症度分類による評価(ステージ〈2〉)も,原告の労働能力に相応の影響があることを前提とした評価であったといえる。」とし、線維筋痛症が,「長期にわたり,患者のADLを低下させる旨指摘されている病気である」ことも考慮のうえ「本件障害認定日における原告の障害の状態は,身体の機能に,労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものであったと認められ,障害等級3級に該当する程度のものであったというべきである(障害認定基準第3第1章第18節1参照)。」と判じた。
厚労省通知である障害年金認定基準には、両下肢の3級について「両下肢に機能障害を残すもの(例えば、 両下肢の3大関節中それぞれ1関節の筋力が半減しているもの)をいう。 なお、両下肢に障害がある場合の認定に当たっては、一下肢のみに障害がある場合に比して日常生活における動作に制約が加わることから、その動作を考慮して総合的に認定する。」との記載があるのみで、どのような動作制限の場合に「両下肢に機能障害を残すもの」に該当するのかについて、国は公式にはまったく表明していない(これは、2級「両下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」についても同様である)。
2012年の改正前までは「肢体の機能の障害」(第7節第4)にあり、両下肢に係る動作のほとんどが「やや不自由な場合」等であれば「機能障害を残すもの」と認定されていた3級「両下肢に機能障害を残すもの」、および同動作のほとんどが「非常に不自由な場合」等であれば「両下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」と認定されていた2級「両下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」は、同改正により「第7節第2 下肢の障害」に移動した。このときの年金機構の内部文書によると、認定部署が、「機能障害を残すもの」とは「肢体の機能の障害」(第7節第4)の「機能障害を残すもの」と同様に動作のほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」に該当するか否かで、[1])。
審査請求でのやり取りにおいても、当初は「肢体の機能の障害」(第7節第4)の動作制限による判断の仕方を準用すると表明する厚労省年金局担当官もいたものの、現在、厚労省の見解は「肢体の機能の障害」(第7節第4)の動作制限による判断の仕方を準用するのではなく (ア)片足で立つ、(イ)歩く(屋内)、(ウ)歩く(屋外)、(エ)立ち上がる、(オ)階段を上る、および(カ)階段を下りる、の動作を考慮して、認定医が医学的見地に基づいて総合的に認定する、というものに統一されている。しかし、このように「総合的に認定する」などという、認定部署が混乱するほどの具体的内容のない説明の仕方であれば、同一内容の診断書に対して、認定結果が相違するという不公正が是正されることはない。
それに対して、本判決は3級「両下肢に機能障害を残すもの」について、「肢体の機能の障害」(第7節第4)の動作制限による程度判断の記載(日常生活における動作の一部が「一人で全くできない場合」又はほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」には「機能障害を残すもの」とする)に照らして、その該当性を判断した点で、現在の国の両下肢(両上肢)に関する動作制限による認定方法に真っ向から異議を唱えたものということができる。
判決の判断枠の仕方は、両下肢3級にとどまらない。当然に、両下肢に係る動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」には両下肢2級と判断すべきことになるし、当然に、両上肢2級「両上肢の機能に相当程度の障害を残すもの」および3級「両上肢に機能障害を残すもの」にも及ぶものと考えられる。
認定基準では、両下肢(両上肢)に関す箇所と「肢体の機能の障害」(第7節第4)の箇所において、「機能障害を残すもの」および「機能に相当程度の障害を残すもの」との同一の文言が記載され、その該当性判断の仕方は、「肢体の機能の障害」(第7節第4)の第2(5)にしか記載されていない。そうすると、両下肢および両上肢に関して動作制限を考慮して認定する場合に、「肢体の機能の障害」(第7節第4)の該当箇所と同一の判断枠組みを使用することが文理上も妥当であるといえよう。
このように、両下肢(両上肢)障害について動作制限により認定する方法を示したという点からも、本判決が評価され、行政争訟において活用されることが期待される。
了
[1]) 年金機構「疑義照会2012-12」, 安部敬太・田口栄子編『詳解 障害年金相談ハンドブック』日本法令2016, 1090-1092頁。