障害年金に関する広報周知と相談対応の現在地
安部敬太
(4) 「障害基礎年金および障害厚生年金」と障害基礎年金の同時請求
(5) 初診日が別の制度加入の時点と認められた場合の請求への差替え
厚生労働省と、厚生労働大臣から年金の審査について委託された日本年金機構(以下「年金機構」)の障害年金制度の広報と障害年金についての相談対応に関して、様々種類のパンフレットやマニュアル等が作成されている。特に、2015年頃からは立て続けに出ている。国としても、障害年金についての広報・周知施策と相談対応について、改善を図ろうとしていることはうかがえる。
本稿は、厚生労働省(以下「厚労省」)と、厚生労働大臣から年金の審査について委託された日本年金機構(以下「年金機構」)の障害年金制度の広報・周知施策と障害年金についての相談対応の現状を確認しつつ、障害年金が障害のある人の生存権・生活権の中核をなす制度であるという観点から、その問題点をあぶり出すことを目的とする。周知については、広報が十分でないことにより、障害年金を知っている人が限られている現状について、その広報・周知施策の方法が抱える表面的な問題のみならず、日本の障害年金制度が内在する根本問題(国が説明する稼得能力の喪失分の補填という目的と認定のあり方の齟齬[1])[2])、障害の捉え方が医学モデルに基づくものであること等)が関わっている可能性があることについても、ふれる。相談対応については、障害年金の相談窓口となっている年金機構や市区町村の窓口が参照するマニュアルを参照しつつ、それらに何が欠けているものは何で、また、ここでも障害年金制度の根本問題がどのように関わっているのか、という点についても述べていく。つまり、①明確に障害年金の対象となる障害状態にありながら、何十年も請求機会を逸することが多々ある現実は広報・周知施策の内容が原因ではないか、②信義則違反がたびたび判決等(嘉藤論文参照)で指摘されている窓口対応の問題は、相談対応のマニュアルにもその根拠が見出せるのではないか、③広報周知施策と窓口対応の不十分で分かりづらい現状は現行の障害年金制度の根本問題に関わるのではないか、という3つの視角から、障害年金の広報・周知施策と相談対応の現在地を論じていきたい。
障害年金を知っている人の割合は、藤原論文で述べられたとおり、6割前後であり、すべての市民が、(障害を有する時期が20歳前と否かにかかわらず)障害を有する可能性があり、障害を有する者の家族や支援者となりうることを考えると、障害がある人が生きていくうえで欠くことのできない社会的な支えの中核である障害年金のことを知らないということは、障害のある人の生存権・生活権が保障されないことに直結する。
障害年金の存在を知って、自らの受給可能性について相談しようと考えて、相談窓口を探す前の段階、つまり、障害年金制度の存在自体をどうやって知るのか、自らが障害年金の受給可能性があることをどうやって知るのか。この点が、広報と周知の段階であって、この点について、事例をみたうえで、国の施策とその問題点について検討する。
外部障害のうち肢体障害で多いが、物心がつく前に障害を有し、その後、障害者教育を受けることなく、受診も必要がないという場合には、明確に障害年金2級以上でも、障害年金を受給権があることを知らずに、何十年も経過することが珍しいことではない。たとえば、次のような事例がある。①2歳のときに破傷風により右上肢の半分以上切断し、障害年金2級の程度であったものの、障害年金のことは誰からも聞かされることはなく、71歳で初めて障害年金のことを知った。老齢年金との差額は月数千円であったものの、自分の障害についての社会的承認が得たいと請求したところ、20歳時で障害福祉年金が裁定された。知らなかったことで受給できなかった期間は46年間になる。②ポリオのため、8歳時から肩関節と肘関節の筋力は「消失」であったので、障害年金2級の程度であったものの、障害年金のことは誰からも聞かされることはなく、61歳で初めて障害年金のことを知り、事後重症でのみ2級となり、審査請求で20歳時遡及2級となった。しかし、時効により受給できたのは55歳分以降のみであった[3])。③幼児期(小児麻痺)から障害状態にあったものの、65歳まで誰からも聞かされることはなく、65歳になる2か月前に初めて自治体障害者相談支援センターのワーカーから障害年金のことを聞かされて、請求日の状態について事後重症(国民年金法30条の4第2項)で請求を行った。④難病のために、家族全員で世間から離れて暮らしているような場合は、どこからも情報が入らない。シャルコー・マリー・トゥース病[4])が4歳で発病し、中学時にすでに歩けなくなって、自宅で学習していた。8歳から通院していたが、治療の効果が期待できなかったので、20歳前後数年間は通院しておらず、27歳の時、母親が病院のワーカーから障害年金のことを聞いた。友人もなく、親同士のつきあいもなく、学校関係の書類も全部廃棄していて、20歳ころの症状を証明できるものが何もなく、認定日請求ができなかった。結局事後重症で2級となり、8年間分を受け取れないことになった。
眼の障害についても、周知不足により、請求が遅れることがある。⑤眼の障害で、小学生で身体障害者手帳を取得し、ほぼ継続的に通院していた。遅くとも22歳頃に2級に該当していたと思われるにもかかわらず、役所も病院も教えてくれず、20歳時及びそれ以前の診療録は廃棄されていたため、1級の状態になるまでの約23年分の障害年金が受給できなかった。
精神障害でも請求が遅れることがしばしばある。⑥統合失調症で18歳時に初診日があり、障害福祉年金に2級が法定された1974年(23歳)に2級状態にあり、その後、ずっと仕事ができなかったものの、60歳時に障害年金を知って、1974年のカルテがあったことで遡及請求をした。しかし、32年間分の受給はできなかった。⑦精神障害で請求の6年前から働くことができなかったにもかかわらず、それ以前から通院していた病院から障害年金のことを教えてもらえず、ネットで調べて障害年金を初めて知って事後重症請求をした。⑧23歳の時、会社を休み自宅に閉じこもって独り言を言うようになり退職し、その後、自宅に引きこもった生活となり、27歳で初診し、統合失調症と診断され、入退院を繰り返した。56歳から現在に至って長期入院となり、63歳時に妹が病院のPSWに相談し、障害年金のことを知って事後重症請求した。
知的障害でも、知らされないことがある。⑨IQは20代後半で、小中と生活学級だったが、その後家業の農業手伝いを続けていた。本人が55歳のとき、初めて、家族が障害年金のことを知り請求したものの、事後重症1級だけが認められ、20歳時の診断書が提出できていないため、再審査請求でも遡及請求は棄却された。⑩IQ46で中学1年(普通学級)の時に療育手帳を取得していたものの、障害年金を知らずに、父の死亡後の39歳時に母親が将来を案じて相談した。認定は事後重症のみで19年間の年金が受給できなかった。⑪知的障害(IQ30代前半)のある人で、23歳の時に初めて精神科に受診し、28歳の時、父親が仕事で知り合った社労士から障害年金のことを初めて聞いた。23歳の診断書で認定日請求をしたが、再審査請求でも事後重症しか認められなかった。⑫知的障害(IQ20前後)のある人で、近所で問題を起こして警察に通報されることが多く、警察から都の福祉に相談し、都の方から連絡が来て他の支援制度と一緒に障害年金のことを聞いた。20歳当時の推定の診断書を書いてもらったが、返戻され、様々な証明書類を添付して、2年がかりで認定日での認定が下りたものの、2年分は時効のため、受け取り損ねた。
重度のてんかんでも、誰からも知らされず、請求を逸する場合がある。⑬20歳の頃は年2回以上の転倒発作があり、現在(55歳)は大きな発作はなくなっているものの、行為が中断するような発作は頻繁にある。てんかんにより、判断力と記憶力も制限されており、20歳以降、ほとんど稼働はできていない(相談のみ)。
内部障害についても、請求が遅れることがある。⑭血友病で20歳前から両足関節の可動域が半分以下で、就労もほとんどできなかった。46歳の時に初めて障害年金のことを知り、23歳時の診断書と第三者証明を提出して20歳到達時請求をしたものの、事後重症でのみ2級となり、再審査請求でも棄却され、遡及分の支給はまったくなかった。この場合は、血友病関節症だけでなく、血液製剤により肝炎にも罹患しており、稼得活動は大きく制限されていた。
等級が明確な人工透析でも、障害年金が受給できることを知らない場合がある。⑮6年前から人工透析をしていたものの行政も病院も障害年金のことを教えてくれず、腎臓移植直後に入院患者から障害年金のことを聞き、移植2か月後に移植前の現症診断書を提出し障害厚生年金を事後重症請求したものの、移植後の検査数値が3級にも該当しないとして不支給となった。移植後1年間は2級とするという認定基準により2級の受給権発生を主張した不服申立てに対して、移植後1年間2級は受給権者に限るとして、裁決でも棄却され、障害年金はまったく受給できなかった。⑯糖尿病性腎症で人工透析開始した1年半後に知人から聞いて事後重症請求をした。
障害年金のことを知らなかったために、初診日から年数が経過して、初診日証明ができずに受給ができないことも多い。たとえば、⑰統合失調症で24年前の厚年加入中に初診日があったものの、障害年金のことを知らなかったために初診日を証明するものが第三者証明だけで受給権を得られなかった事案がある。
このような周知不足によって、障害のある人が失うものは非常に大きい。障害年金が受給できないことで、障害のある人は生存権・生活権が保障されていない状況に長きにわたり置かれ続けていることになる。
以下では、このように、多くの市民が障害年金を知らない状況に置かれている最大の原因と考えられる広報の仕方について、障害者手帳を受けている人の障害年金受給状況、時期ごとの順に問題点をみていく。
国は、2011年11月〜2012年2月に、身体障害者の障害年金の受給状況に係るサンプル調査を実施した。自治体から提供された身体障害者手帳保有者情報のうち、65歳以上、障害年金の受給者、身体障害者手帳4級から6級(障害程度が明らかに非該当のもの)を除いた355人に対してアンケート調査を行い、295人から回答(複数回答可)があり、障害の程度が年金の基準外等(受給権がなかった) [143件(48%)]、障害年金の制度を知らなかった[58件(19%)]、障害年金に該当しないと思った[41件(13%)]、手続き方法がわからなかった[15件(5%)]、他制度を受給[12件(4%)]、よくわからない[41件(13%)]との結果となり、「このうち、『障害年金の制度を知らなかった』、『手続方法がわからなかった』などと回答した102人に戸別訪問などにより年金請求の勧奨を行った結果、27 人が障害年金を受給することとなった。」[5])
身体障害者手帳保持者にしても、制度を知らなかったという人が2割近くいるばかりか、「障害年金に該当しないと思った」、「手続き方法がわからなかった」、「よくわからない」など、自分が障害年金の支給対象となる障害状態かどうかを十分に確認したとは考えられない人も、かなりに上っている。
国はこれを受けて、「障害年金を受給するための要件を満たす方が障害年金を受給することができるよう」、「20歳の国民年金の加入時の案内や、国民年金保険料納付書の送付の際に同封するチラシにより障害年金を周知、厚生労働省や日本年金機構のホームページに障害年金受給の案内を掲載、市町村に対し、障害年金に関するリーフレットを障害者手帳交付窓口へ配置して周知を行うよう依頼」を行い、2014年8月に、都道府県及び市町村に対し、「障害者手帳の交付担当窓口において手帳交付時に障害年金のリーフレットを挟み込んで配布、障害者の方が利用する行政手続きの窓口や相談支援事業所へのパンフレットの配置・都道府県や市町村等のホームページ・広報誌への記事の掲載」への協力依頼を行ったとし、今後の取り組みとして、①「公的年金のわかりやすい情報発信モデル事業」[6])において、障害年金の請求手続きを促進するためのパンフレットや動画等を作成し、これらを活用して市町村などで障害年金制度についての周知も行う、②一般の方に幅広く周知するため、ねんきん定期便を活用した障害年金についての周知を検討する、③障害年金を受け取れる可能性のある方への周知を図るため、地域年金展開事業を活用し、関係団体に対して障害年金についての説明を行う、④医療関係団体に協力を求め、医療機関に対し障害年金についての周知を行う等と表明している[7])。上記①については、市町村国民年金事務サポートツール[8])が主なものである[9])。②については、2021年度のねんきん定期便に「障害年金」についての記載はない[10])。③の地域年金展開事業は、「令和2年度業務実績報告書」[11])では「年金制度に対する正しい知識と理解を深め、制度加入や保険料納付に結び付けるため、地域、企業、教育等の様々な場において年金制度の普及・啓発活動を行う」ものとされ、年金セミナーと年金制度説明会等、年金委員(厚生労働大臣からの委嘱を受けて、政府が管掌する年金事業について、会社や地域において啓発、相談、助言などの活動を行う[12]))に対する活動支援の強化等が挙げられている。④の施策については後述5で述べる。
なお、「令和2年度業務実績報告書」[13])における「年金給付の請求勧奨の充実」の「年金」とは老齢年金に限られ、障害年金はそもそも請求勧奨の対象になっていない。
年金機構では、将来の被保険者・受給権者である若年層に対する適切な年金知識の提供と理解を促進するため、高等学校、大学、専門学校等において、公的年金制度の周知活動(年金セミナー)を、2019年度は全国で延べ3,834回開催し、約26万人の学生・生徒にレクチャアを行っていて、この際に配布しているのが、「知っておきたい年金のはなし」である[14])。これはA4で38頁の小冊子である。
ここでは、まず、老齢、障害、遺族という3種の給付について半頁で簡単に紹介した「3つの安心」において、「『老齢年金』のほか、若くても万が一のときは『障害年金』や『遺族年金』も受け取れます。」と冒頭にあり、障害年金の説明としては「病気やけがで障害が残ったとき、障害の程度に応じて国民年金から『障害基礎年金』を受け取ることができます。また、厚生年金に加入している人は『障害厚生年金』が上乗せされます。障害基礎年金では子がいる場合に加算額が加算され、障害厚生年金では配偶者がいる場合に加給年金が加算されます。」との記載がある。そのほかには、「年金もの知り情報」(資料・データ)の箇所に、障害年金について1頁が割かれ、①年金を受けるための条件と②年金額が、障害基礎年金、障害厚生年金について、それぞれ表形式で示されている。①については「保険料の納付について」、「初診日について」および「障害の程度について」の項目について説明があり、「障害の程度について」は、障害基礎年金が「1級または2級に該当すること」、障害厚生年金は「1〜3級に該当すること」という記載があるだけである。この記載からすると、等級について、障害者手帳の等級の1級か2級に該当しないと障害基礎年金は受給できず、同様に手帳の3級以上に該当しないと障害厚生年金が受給できないと捉えられてしまうことは想像に難くない。
この冊子の最後には、「わたしと年金」エッセイの令和2年度受賞作品として2作品が掲載されていて、どちらも障害年金に関わるものである。また、公開されている日本年金機構の動画「知っておきたい年金のはなし」[15]) には、「病気やケガで障害が残った時に障害の程度において、国民年金から障害基礎年金を受け取ることができます。また障害を負ったときに厚生年金に加入している方は障害厚生年金を受け取ることができます。」、「公的年金は高齢者の生活を支えているだけではありません。令和元年度、事故や病気で障害基礎年金を受け取っているのは212万人で、このうち20代は約1割を占める22万3千人です。長い人生の間で、事故や病気などのこの先自分の身に何が起こるかは予測できません。まさかは他人事ではなく、そのまさかの事態に支えてくれるのが年金なのです。人生にはおもいがけないリスクがあります。重い障害を負ったときに障害年金を受け取る場合があります。令和元年度、20歳以上の日本の総人口は約1億514万人。そして、事故や病気で障害基礎年金を受け取っている方は約212万人です。20歳以上の約50人に一人は障害基礎年金を受け取っていることになります。」と障害基礎年金について説明している[16])。このように、公的年金の広報では、公的年金は老後に備えるためだけではなく、突然の事故や病気、稼ぎ手の死亡にも給付があるのだから、万一に備える保険として意義があり保険料納付は必要である、という文脈で、障害年金はふれられることになる。しかし、ではどういう障害状態にある場合に障害年金が受給できる可能性があるのかについて、その広報を受け取る側がイメージできるほどに説明されてはいないというほかない。
また、年金セミナーを受けた26万人は、全国の高等学校、特別支援学校、大学、短大、高等専門学校および専門学校の在学者の総数[17])に対して3.8%にとどまっている。
年金機構は、20歳到達日からおおむね2週間で、国民年金の被保険者となったことや基礎年金番号等を通知する「国民年金加入のお知らせ」(A4 1枚)を送付するときに、保険料の納付や免除等の保険料関連の書類とともに「国民年金の加入と保険料のご案内」を同封している[18])。これはA4で8頁のパンフレットで、この冒頭には、国民年金のメリットとして、①「老後を支える終身保障!」、②「万が一の障害や遺族を保障!」、③「保険料が控除!」および④「基礎年金の半分は国が負担!」の4つが挙げられている。②の説明としては、「老後だけではなく現役世代の保障も充実しています。」とあるものの、給付に関する文言はこれだけで、あとは保険料の納付や免除等の説明のみである。
ここには、障害年金という文言もなく、どのような障害が支給対象となるのが記載もない。これでは若い世代ほど障害年金を知らないのは当然といえよう。
厚労省が「学生等、若い世代のみなさんに国民年金について考える機会を作ってもらいたい」と作成し、公開されている動画「国民年金ってホントに必要なの!講座」には、突然の事故や病気で障がい者になった場合に受け取ることができる障害年金があることだけが紹介されている。公開されている日本年金機構の動画「20歳になったら国民年金〜国民年金制度の内容やメリット編」でも、国民年金は老後だけのものではなく、病気やけがで障害が残った場合に障害基礎年金を受け取ることができると紹介されている。ここでも、上記2で述べたとおり、加入や保険料納付のメリットとして、障害年金が紹介されているだけで、どういう障害状態について支給されるのかという説明はない。
高校や大学で年金セミナーを受けることがなく、20歳の国民年金加入時や厚生年金への加入時に、障害年金の説明を受けられないとすると、病気やケガなどをして、医療機関に受診した時に知る可能性が一番考えられる。大学病院等の高度医療を行う医療機関であっても、障害年金について適切に相談に応じられるスタッフが配置されているかというと、日々障害年金実務を行い医療機関とやりとりすることが多い筆者からすると、非常に心許ない状況であるといえる。
厚労省は、2020年9月に、傷病手当金受給者や疾病・負傷により療養中の者に対する障害年金制度に係る周知広報について、 傷病手当金受給者や疾病・負傷により療養中の者が、障害年金制度の仕組みや事後重症請求などの請求方法を知らないために、障害年金に係る請求が遅れてしまう場合があるとして、広報チラシを作成して年金事務所で配布し、市区町村の窓口での配布も促している[19])。
しかし、このチラシを見て、自分は障害年金が受給可能性を判断できる人がいるだろうか。書かれているのは、認定基準のなかの一般的障害の程度を記述した「障害の状態の基本」と同内容の記載だけである。2級であれば、「必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害。例えば、家庭内で軽食をつくるなどの軽い活動はできても、それ以上重い活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅で、活動の範囲が病院内・家屋内に限られるような方が2級に相当。」とある。これでは、視力、視野、聴力、言語、嚥下、上肢、下肢、四肢などの外部障害の場合には、障害年金2級の障害があっても稼働していたり、屋外で活発に活動している人は多く、そういう人は自分は2級に該当しないと判断してしまう。人工透析をしている人や、人工肛門と新膀胱を造設している人で屋外活動している人も対象外だと判断してしまう。精神障害の人で、就労継続支援事業所B型に通所している場合や、内部障害の人で、稼得活動はできないが、近所に買い物程度であれば行けるという場合も、活動範囲が家屋を超えているために、2級ではないと判断してしまう。
このため、これらの人たちは相談窓口に出向くことはなくなる。ここでは、障害認定日の時期、2階建になっている年金制度および受給3要件について説明するのに8〜9割のスペースを割いている。一般の人には何のことかわからない。まずは、自分の障害が障害年金の受給可能性があるかどうかを判断できないと、相談窓口に行こうとしたり、ウェブサイトで細かく調べたりすることはない。3要件や初診日の特定は相談に来た人に対して説明すればいいことである。
本稿では、時期別にみてきた。しかし、障害年金制度を知り、自分または家族が対象となるかもしれないと思う契機は様々である。障害年金制度をどこで知り、どこで教えてもらわなかったのかについて、事例を集めて、分析する必要があろう。そのうえで、これまで筆者が請求代理を受任したケースについて、どういう場合に請求が遅れるのかについて述べたい。
第一は、医療機関や福祉サービス、手帳取得をしているのに請求が遅れるケースである。これは、適切な案内がなされていないことが原因である。国は、障害、疾患により生活や労働に支障が生じれば、障害年金受給可能性があり、窓口に相談し、請求を勧めることを、医療機関、地方自治体の障害関係窓口、就労支援・生活支援事業所、基幹相談支援センター、社会福祉協議会等を通じて、いっそうの周知、勧奨を図るべきであることはいうまでもない。特に、医療や福祉に関わるソーシャルワーカーの役割は重要となろう。
第二に、幼少の頃から障害を有することになり、障害者教育も、福祉サービスも、医療機関にも、障害年金が請求可能な20歳までにつながることなく、家庭や地域で生活していたケースである。この場合には、医療、福祉、教育の窓口にそもそもつながっていないが故に、請求は数十年単位で遅れ、その分支分権を失うことになる。このように埋もれた障害年金未請求者をなくすためには、障害年金が広く一般に知られる必要があろう。また、おぼろげながらも、障害年金の存在を知っている人が増えれば、そのような人が当事者や家族に対して、上記の医療や福祉の窓口に聞いてみるように勧める機会も増えるものと思われる。その意味からも、医療、福祉、教育、行政の窓口に限らない、市民に広く知らしめる広報は、予算をつけて国の責任として行うことが求められている。
広報が困難で、周知が広がらない理由として、日本の障害年金の場合、各等級の一般的程度を、障害種別に共通した内容で説明することができないことが根本にあることを指摘したい。いい方の視力が0.03、両耳が90dB、一足関節で切断、精神障害で就労できない状態、内部障害[20])で中等度の異常検査成績があり軽労働もできない状態などがどうして同一の2級という等級になるのか。これについては、認定基準の基本的事項において、2級とは日常生活に著しい制限を受ける状態(国民年金法施行令(以下「国年令」)2級15号)であり、その状態とは、上記5のチラシにある「日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度」、「家庭内の極めて温和な活動(軽食作り、下着程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないもの」および「活動の範囲が活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの」との説明がある(「障害の状態の基本」)。しかし、上記5のとおり、外部障害の場合に2級程度であっても、活動範囲は屋外に及ぶ人は多いし、稼働との関係でも外部障害での2級は、認定基準の個別基準で、就労状況との関係は問われておらず、2級受給者で稼働している人は多くいる。そうすると、実体からして、この説明は外部障害、内部障害、精神障害等すべての障害についての共通の障害の程度の説明となっていないことは明らかである。
そもそも「日常生活」がどこまでの範囲を指すのか。身辺処理なのか、家庭内の活動なのか、家庭周辺の地域での活動なのか、稼働も含めた社会参加まで含めるのかは、百人百様の捉え方ができる[21])。「著しい制限」にしても、抽象的すぎて解釈の幅は大き過ぎる。これに対して、1985年改正前の厚生年金保険が2級を高度の労働制限としていた。これであれば、稼働ができなければ少なくとも2級に該当するであろうことが一般的に了解可能である。また、たとえば、100%稼働できない場合を2級とし、50%稼働できない場合を3級とするなどが明確となれば、自分が障害年金をもらえる可能性があるかどうかが判断できる。しかし、日本の障害年金の等級は、そのような明確な形で定義されていない。国は国会において障害年金の目的を稼得能力の喪失の補填と説明しつつ[22])、等級認定においては、稼得能力をモノサシとせず、それよりも基礎的な能力である日常生活能力をモノサシにしているが、これについての合理的説明はなされていない。
このような日本の障害年金が抱える根本的な問題が解決されていないがゆえに、どう広報すればいいのかはっきりせず、広報してもあいまいで、どのようにも受けとられる表現しか使えない。そのような広報の困難性の結果、広報を受け取る側も、自分が対象になるかどうかがさっぱりわからないため、相談行動や請求につながらないのが現状といえよう。
障害年金のことを知り、障害年金が受給できるかもしれないと考えた人が、接する情報と相談対応のマニュアルについて、検討していく。
自分が障害年金に該当するかもしれないと考えた人が手に取り、相談した時の制度説明にも使うツールとして、年金機構は障害年金ガイド[23])を、20歳前からの障害者や1号被保険者期間中に初診日がある場合に、原則として相談窓口となっている市区町村への支援ツールとして、厚労省は「障害基礎年金」というパンフレットを用意している[24])。また、初診日の証明方法についてのチラシについても検討する。
表紙含め12頁のパンフレットである。目次は以下となっている。
障害年金とは………………… 1
受給要件………………………… 1
請求時期………………………… 4
障害年金・障害手当金の額…… 5
障害年金に該当する状態…… 6
Q&A…………………………… 8
手続き…………………………10
お問い合わせ先………………11
冒頭の「障害年金とは」には「障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。」とある。導入部分はいいとしても、このあとは受給要件、請求時期まで、「初診日」、「障害認定日」、「納付要件」という障害年金独特の専門用語が頻繁に出てくる説明が延々と4枚続く。年金の2階建て構造の図とともに、年金額の計算式が出てくる。これらが、自分が障害年金を受給できるかもしれない、と思って初めて相談に訪れた人に必要な情報だろうか。
やっと、6枚目に半頁で「障害年金に該当する状態」の記載があるものの、これは「障害の状態の基本」の内容であり、上記IIの5のチラシの内容と同一であるので、この問題点については繰り返さない。
7枚目で障害等級表が、国年令、厚生年金保険法施行令(以下「厚年令」)から全文が引用されている。この政令の等級表は、不支給通知が送付されたときにも添付されているものである。しかし、この等級表を穴が開くほど見たとしても、自分の障害の状態が障害年金の対象となりうるかどうかは判断できないケースが圧倒的である。たとえば、2級については、具体的な障害事項は1号〜14号しか規定されておらず、15号は、「前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」という包括条項が規定され、16号は「精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの」であり、最後の17号は「身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であって、その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの」である。16号と17号の「前各号」とは主には包括条項を指すと解されるため、1号〜14号以外の障害は外部障害も含め、「日常生活が著しい制限を受けるか、又は、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」に該当するかどうかで2級かどうかが画されることになる。他の等級および障害手当金も同様の等級表の構成となっている。つまり、等級表を掲げても、相談者にとって自分が障害年金を受給できる可能性があるかどうかは皆目わからないケースがほとんどだということである。このような等級表だけを示すことは、これを見た人は障害年金には自分は該当しない、または該当するかどうかさっぱりわからない、と捉えてしまい、請求をあきらめさせるようとしているのではないかという疑いすら生じさせる。
8頁からのQ&Aの1問目にやっと「障害年金の対象となる病気やけがとは」、「障害年金の対象となる病気やけがにはどのようなものがありますか?」とのQが建てられ、「障害年金は、年金加入中の病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて請求することができます。障害年金対象となる病気やけがは、手足の障害などの外部障害のほか、精神障害やがん、糖尿病などの内部障害も対象になります。病気やけがの主なのは次のとおりです。1.外部障害:眼、聴覚、肢体(手足など)の障害など、2.精神障害:統合失調症、うつ病、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害など、3.内部障害:呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど」とある。しかし、これでは障害種別が並んでいるだけで、各障害種別の場合に、たとえば2級はどの程度なのかがまったく不明である。
相談者にとって、まず一番に確認したいのは、自分の障害の状態が、障害年金の対象となる可能性があるのかないのか、ということである。それには、障害種別や部位を確認して、A4で100頁を超える認定基準に照らしてみないとわからない。それをなるべくわかりやすく、事例を交えて、障害種別ごとのパンフレットにして、年金機構や市町村窓口に置くべきではなかろうか。初めて相談に来た人に示すべきはそのようなパンフレットであろう。障害年金の対象となる可能性があることを確認した後に、障害は受給対象となる可能性はあっても、要件を満たさないと受給はできません、と言って、受給要件、請求時期、「初診日」、「障害認定日」、「納付要件」という障害年金独特の専門用語が頻繁に出てくる説明をしていくという順序になるのではないか。
障害年金ガイドはあまりに官僚的で、専門知識を有していない相談者を煙に巻くものであると言わざるをえない。
表紙含め、A4で6頁のパンフレットである。表紙には導入文として「長い人生、この先なにが起こるかわからない。たとえば事故や病気で障がい者になることもあれば、そのために働けなくなってしまうことだってあるかもしれない。そんなもしもの不安に備えるための年金です。」とある。
しかし、表紙をめくると、上記(1)と同様に、3要件の説明となる。その次に、「『障害等級』とは」との頁があって、人体のイラストに、2級では国年令1号〜14号が図示され、それ以外は「その他の疾患(脳、心臓、肝•腎臓、呼吸器、造血器等の内臓疾患や高血圧症等):身体の機能の障害、または長期にわたり安静を必要とする病状で、日常生活に著しく支障をきたす状態。1級・2級で認定基準は異なります。」、「精神障害・知的障害:うつ病や統合失調症、知的障害などにより、日常生活に著しく支障をきたす状態。1級・2級で認定基準は異なります。」および「重複疾患:身体機能の障害もしくは病状、または精神障害が重複する状態。1級・2級で認定基準は異なります。」という記載があるだけである。これでは、自分の障害の状態が年金の等級に該当する可能性があるかどうかの判断のための取っ掛かりも得ることができない。相談対応者が100頁を超える障害認定基準をすべて読みこんでいて、障害の種別ごとに的確に該当可能性について説明できるとは残念ながら考えられない。説明ミスで該当がないと言ってしまうか、請求してみないとわからないと可能性にすら言及を拒むかのどちらかということが頻繁に起きるのも当然といえる。可能性を否定するのは信義則に反することはもちろん、可能性にすら回答しないのは、相談者としては年金のプロが可能性についても回答しないということは該当しない可能性が非常に高いからだろうと考えてしまい、請求をあきらめさせることにつながりうる。
初診日のカルテが保管されていない場合に、どのように初診日を証明する資料を用意するのかについてのチラシが出されている[25])。これは2015年に出された厚労省通知「障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いについて」[26])(以下「初診日通知」)の内容を記載したものである。
しかし、このチラシは初診日通知の内容を記載順もそのままになぞったものであって、一般の市民には、初診日のカルテがない場合に、結局、何をすればいいのか、非常にわかりづらいものとなっている。冒頭に第三者証明が記載されていることから、第三者証明が非常に重要で、それにより認定されるというミスリードにつながりかねない。これは相談対応のスキルが高い職員が制作に関わったものとは思えない。
初診日のカルテがない場合の対処方法の原則であり、第一になすべきことは、現存する最も過去のカルテを探しあて、そこにどのように治療開始時期の情報が書かれているかを確認することである。初診日の医療機関にカルテがなければ2番目の医療機関にあたり、カルテがあれば受診状況等証明書の作成を依頼し、なければ3番目の医療機関にあたり、カルテがあれば受診状況等証明書の作成を依頼し、なければ4番目の医療機関にあたり…と順に医療機関にあたっていって、最も過去のカルテが残っている医療機関に受診状況等証明書の作成を依頼し、そこに、カルテに記載されている治療開始時期の情報[27])をもれなく記載してもらうのである。その情報の根拠が本人の申立てでも問題はない。それが、初診日通知では、第3の1という後半部分に出てくる。しかし、審査認定実務をわかっている者としては、この方法こそが、初診日のカルテがない場合の原則的な対処方法であり、第一に行うべきことであることは常識である。この基本は、初診日通知の前も後も変わらない。社会保険庁時代からのマニュアルである「障害給付(障害厚生) 受付・点検事務の手引き」[28])、および同手引きを障害基礎年金向けに改定した「国民年金障害基礎年金 受付・点検事務の手引き」[29])、そしてこの2つの手引きを取り入れた「事務処理要領197号」[30])には、初診日通知の前から、この方法の記載が第一番目に置かれている(197号における記載箇所は「裁定事務(共通確認・審査)」2.27-(3))。初診日通知は、その有効性に請求日から5年以上前のカルテにある情報により初診日を認定すると期限を切ったことであった。5年というのは、医事法によりカルテの保管期間が最終受診から5年であることから、5年以前から受診していて、かつ、5年以内に受診していた場合には、5年以上前のカルテが残っていることが多いということを想定したものであったろう。いずれにしても、初診日のカルテがない場合の対処方法を市民にわかりやすく伝えようとするなら、この方法を最初に持ってきて書き始めることが求められる。
相談に対して、どのように対応するのか。年金機構では「初期対応の手引き」[31])および上記1の(3)でふれた受付手引き(現在は「事務処理要領197号」に取り入れ)が、市区町村では「障害基礎年金 お手続きガイド」(以下「手続きガイド」)[32])が使われるようである。ここでは、「初期対応の手引き」を中心にみていく。この手引きは、2015年に相談者が年金請求書をもらいたいと言っても、なかなか渡してもらえない等の実情をふまえ行われた覆面調査によって、年金事務所における障害年金に関する相談対応の問題点をあぶり出した[33])うえで、2016年に、年金機構により「年金相談の初心者も含め、標準化された障害年金の初期対応ができることを目的として策定」[34])されたものであることから、本稿が検討対象とするマニュアルに最も適合している。これは表紙と目次、使用する様式を除くとA4・13頁(2つの別紙計4頁含む)のマニュアルである。
「初期対応の手引き」は1の(1)と(2)でみた説明パンフレットと同様に、受給3要件の解説から入っている。この点は1の(1)の「障害年金ガイド」を渡し、それを参照してもらいつつ、説明していくことになっているので、当然ではある。しかし、上記1のとおり、相談者としては、自分の障害状態が障害年金の対象となりうるのではないか、というその点を一番に聞き、確認したいと考えて相談に出向くことがほとんどではないか。その疑問に対して、どのように対応するのかの記載は「初期対応の手引き」における対応手順からは完全に抜け落ちている。
わずかに、「別紙2 相談対応にかかるQ&A」の問1に関連内容の記載がある。「障害の程度が年金の等級に当てはまりそうもない方から、請求手続を希望する旨の申出があった場合、どうすればよいでしょうか。」というQに対して、回答として、「お客様の障害の状態が障害年金の等級に当てはまらないと考えられる場合であっても、障害等級は医学的な診査を経て決定されるものであることから、お客様を説得して請求を諦めさせるといったことは避ける必要があります。制度について情報を正しくお伝えし、お客様が「請求手続きを希望する」のであれば、不支給や却下の可能性を伝えた上で、請求書を受理してください。請求する・しないを決めるのはお客様自身であり、誘導するような対応とならないようご注意ください。」とある。しかし、これでは受給可能性についての判断を相談者への丸投げしているに等しい。上記Ⅱの6の根本的問題のための困難性は前提としても、障害の状態から支給対象と認められる可能性がどの程度あるのかについて、一定の回答はすべきであろう。受給可能性について説明したうえで、それを受けて請求したいということであれば、制度や初診日、納付要件、請求手続方法等についての説明に入ることを順序とすべきではないだろうか。
以上の点は、市町村の業務支援ツールである手続きガイドについてもほぼ同様である。手続きガイドには、政令の等級表は記載があるものの、これではほとんどのケースで等級該当性の可能性が確認できないことは、上記1の(1)・(2)で述べたとおりである。
なお、認定が困難な疾患である、慢性疲労症候群、線維筋痛症、化学物質過敏症、脳脊髄液減少症の4疾病については、厚労省より発表された等級ごとの診断書による認定事例[35])を参照するとの記載が2017年の改訂で追記されている。
初診日についての説明としては、説明パンフレットである「障害年金ガイド」(上記1の(1))に「障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日をいいます。同一の病気やけがで転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日が初診日となります」(下線筆者)との記載があり、「初期対応の手引き」には「初診日によって、障害年金の請求の種類が異なることや、初診日時点で納付要件の審査を行うことから…初診日をお客様から正しく聞き取ることが重要となる。…病名にとらわれず、お客様の障害の原因・病状など発病から初診日までを時系列に詳しく聞き出し、全体像を把握することが初診日特定につながる…どうしても初診日を明らかにする書類が添付できない場合はH27.9.29【給付指示2015-120】)※『初診曰を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱い』(指示・依頼)を参照の上、経験年数のあるバックヤード職員へ確認する」とある。
「年金機構事務処理要領197号・年金請求書裁定事務(共通確認・審査)」および「手続きガイド」においては、初診日の説明として、上記下線部の転医についてのものと並んで「過去の傷病が治癒し同一傷病で再度発症している場合は、再度発症し医師等の診療を受けた日」、「② 傷病名が確定しておらず、対象傷病と異なる傷病名が記載されていた場合であっても、同一傷病と判断される場合は、他の傷病名の初診日」および「③ 障害の原因となった傷病の前に因果関係があると認められる傷病があるときは、最初の傷病の初診日が対象傷病の初診日となります。」(付番は筆者)等と記載されている。初期対応の手引きにはこれらの記述がない。これらは、初診日についての重要な解釈と取扱いを示すものであり、特に、法(国年法30条1項、厚年法47条1項)によれば、障害の原因となった傷病にはその傷病に起因する傷病も含むのであって、③の原因となった傷病が請求傷病の前にある場合のほか、②の請求傷病に起因する症状での受診が確定診断される前にある場合があること[36])を記したものであるにもかかわらず、初期対応の手引きには、これらが参照文書としても記載されていないため、窓口担当者はこれらの扱いについて、不知のまま、初診日についての説明を行う可能性がある。また、③についても、2つの傷病の相当因果関係がどのような取り扱われることが一般的であるのか、という「事務処理要領197号・裁定事務(応用事例)」や手続きガイドにある説明[37])(またはそれらの参照の指示)は必要であろう。
また、上記1の(3)の述べた、初診日のカルテがない場合の対処法の原則には少なくともふれられるべきであろう。
さらに、社会的治癒という法理について、「事務処理要領197号・裁定事務(共通確認・審査)」2/27-(2)に「社会的治癒」という文言の記載があるだけで説明は一言もなく、手続きガイド、さらには障害年金センター職員向けの「障害年金審査業務マニュアル」(以下「審査マニュアル」)[38]には文言すら記載がないことは問題である。「社会的治ゆとは,医療を行う必要がなくなって社会復帰している状態をいう。」[39]) とされ、「同じ傷病名でも,その間に社会的治ゆが認められるときは,別傷病として取り扱われる。すなわち,社会的治ゆは,医学的な治ゆに至っていない場合でも,社会保障制度の行政運用の面から社会的治ゆの状態が認められる場合は,治ゆと同様の状態とみなす取り扱いであ」[40])る。また、国会審議おいて、政府は「医学的な治癒に至っていない場合でも、医療を行う必要がなくなりまして社会復帰している状態を社会的治癒ということで治癒と同様の状態と認めまして、その後、症状が著しく悪化した再発の時点を初診日として取り扱う」[41])と説明している。この社会的治癒が認められることにより、納付要件が充足したり、厚生年金加入中に初診日があると認定され、障害厚生年金が受給できることは珍しいことではなく、精神障害、視力・視野障害、肢体障害、腎疾患、心疾患等で認定事例が多数ある[42])。社会的治癒の認定の難易度は傷病により差があるといえるものの、この点の説明がなされないことにより請求者が障害年金の請求をあきらめる結果をもたらすことは珍しいことではない。にもかかわらず、窓口では社会的治癒について説明することはほとんどない。この法理についての説明は必須の説明項目に加えることが求められる。
3号届出遅れについては、届出から2年以前までは本来の3号期間となることについて、初期対応の手引きには記載がない。「事務処理要領197号・裁定事務(共通確認・審査)」2.51-(6)には記載があるものの、納付要件を確認する(初期対応の手引きで指示する「複数の」)職員は事務処理要領197号の上記内容を十分に把握しているだろうか。
2011年の国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律(平成23年法律93号,以下「年金確保支援法」)および2013年の公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成25年法律63号, 以下「平成25年改正法」)による救済についても、初期対応の手引きにはまったく記載がない。
平成25年改正法による救済は、3号被保険者とされた期間が1号被保険者に記録が訂正された期間のうち、時効により保険料が納付できない2年より前の期間(時効消滅不整合期間)について、2013年6月26日以後に初診日がある場合は届出をすることにより、それ以降は学生納付特例の期間と同様に扱われるというものである。初診日が記録訂正前でかつ、2013年6月26日〜2013年9月30日までにある場合、または、初診日がそれ以後に記録訂正がなされ、2013年10月〜2018年3月までの間にある場合は、初診日以後に特定期間該当届出日があるときでも、初診日前日において学生納付特例期間と同様の期間であったものとして扱われる。この点については、「事務処理要領197号・裁定事務(共通確認・審査)」2.51-(6)に記載があるのみである。
さらに、年金確保支援法による救済は、「事務処理要領197号・裁定事務(共通確認・審査)」2.6-(3)に概要の記載があるだけである。同法は、以前から3号被保険者であった人がその途中の一時期に2号または1号の記録が後から判明した場合には、その判明した期間の後は届出遅れとして3号特例期間となってしまい、この特例期間以後に初診日がある場合は未納期間と扱われ、納付要件を満たさないケースが続出したため、これについて、当初の記録どおりに本来の3号期間に戻すように法定し、救済を図った。しかし、この救済対象に該当していても、本来の3号期間に戻すという記録訂正がなされていないケースがまだまだ多数存在しているものと考えられれる。筆者は、2015年にそのようなケース2件に遭遇した。それらはいずれも3号特例期間であることにより、未納期間と判断されて、納付要件を満たさないと年金機構窓口で何度も追い返されている。社労士(筆者)に相談し、訂正漏れが発覚して、年金確保支援法により本来の3号期間と記録訂正されたことで、障害年金の受給権を得た。
上記2法による救済対象であるにもかかわらず、社労士にも相談せずに自分は要件を満たさないと思い込まされている人が多数いるものと思われる[43])。2法による救済を反映させずに、納付要件を満たさないと窓口が誤った説明をすると、相談者はそこで請求を断念してしまう。このため、相談対応で誤った説明をしないことがこの件については、特に重要である。窓口のマニュアルに書き込み、そのような誤った対応がないようにすべきである。
初診日となる可能性がある日が複数あり、一方が厚生年金加入(国民年金2号被保険者)中で、他方が国民年金の2号被保険者以外の被保険者中であることは珍しくない。こういう場合には、「障害基礎年金および障害厚生年金」(「年金請求書(国民年金・厚生年金保険障害給付)」による)請求と「障害基礎年金」(「年金請求書(国民年金障害基礎年金)」による)請求を同時に行う必要がある。そうしないと、たとえば主位的請求として、「障害基礎年金および障害厚生年金」請求を行ったものの、初診日が国民年金2号被保険者以外の被保険者中であると認定された場合に、「障害基礎年金および障害厚生年金」請求について審査請求を行う場合には、申請拒否処分を受けた後に「障害基礎年金」請求を別途行うことになり、決定までサービススタンダードの3か月を大きく超えて1年以上かかるときがあるため、ともに事後重症請求等であれば、その期間の年金を失うことになる。
このように2種の年金請求書による請求を同時に行う(以下「同時請求」)ことができることは、行政手続法7条等から明確である。そして、以前は同時請求を問題なく、窓口は受付をしていた。しかし、2012年12月からいきなり初診日は1つであるから、同時請求は受け付けられないと予備的請求の年金請求書の受付を拒否するようになった。年金機構窓口と厚労省の担当課に何度も折衝を重ね、やっと3年後になって、年金機構本部から疑義照会回答[44])が出て、同時請求が可能であることが明確となった。
「初期対応の手引き」には、「障害年金の請求書等について」の項目で、「お客様からお聞きした内容により『障害基礎年金』または『障害厚生年金』の年金請求書をお渡しします。いずれにも判断がつかない場合、ご提出はどちらか一方であることをお伝えしたうえで両方をお渡しします。」とのみ書かれていて、同時請求ができないような記載となっている。このようなミスリードを招く記載は補正する必要があろう。明確に、同時請求が可能であることをマニュアル上に明記すべきであろう。
なお、年金請求書の統一が検討されてはいる。年金機構「令和2年度業務実績報告書」には、「障害年金の事務処理体制の強化」の「令和2年度計画」に「制度別に分かれている障害年金請求書を統一する」とあり、「令和2年度計画に対する取組状況」に「障害年金請求書の各様式の統一に当たっては、統一に伴う事務処理の課題を整理した上で、お客様の負担軽減のための運用改善に向けた準備を進めました。」とある[45])。「年金請求書(国民年金・厚生年金保険障害給付)」と「年金請求書(国民年金障害基礎年金)」が統一され、簡単に同時請求が行える様式とすることが求められる。
上記(4)に関連して、国は裁判において、「障害基礎年金および障害厚生年金」の請求に対して、「初診日が国民年金の被保険者期間中であるか,あるいは20歳前であり,障害基礎年金については受給要件を満たすと認められたときは,当該裁定請求を却下した後に改めて障害基礎年金の裁定請求をさせるのではなく,当該裁定請求を障害基礎年金の裁定請求に差替えるよう求める取扱いがされている。これは,当初の裁定請求を却下した後に改めて障害基礎年金の裁定請求をさせるよりも,裁定請求そのものを差替え,当初の裁定請求をもって受給権を発生させた方が,支給開始時期の点において請求者に有利だからである」と述べている[46])。しかし、この取扱いについては、初期対応の手引きおよび事務処理要領197号等のマニュアル上に記載が一切ない。
しかし、この説明は非常に重要である。請求を差替えずに、元の請求を維持した場合には申請拒否処分がなされることを、行政職員は十分に説明しなければならない。筆者が相談を受けたケースは以下である。初診日が国民年金1号被保険者中であるとして障害基礎請求をしたところ、初診日は厚生年金加入中と判断され、「障害基礎年金および障害厚生年金」請求に差替えますか、それとも元の初診日のままの請求を維持しますか、とだけ聞かれて、初診日を変更せず、障害基礎請求を維持すれば申請拒否処分がなされることの説明を受けていなかったために元の初診日を変更しなかったところ、申請拒否処分がなされた。筆者が受任し、「障害基礎年金および障害厚生年金」請求としてやり直したところ、すんなり事後重症で受給権が認められた。申請拒否処分については、初診日を維持して障害基礎請求を維持した場合には障害年金は受給できなくなるという説明がなされていれば「障害基礎年金および障害厚生年金」請求に差替えていたのであって、窓口対応は信義則に反するから、当初の障害基礎年金請求時に「障害基礎年金および障害厚生年金」の事後重症請求があったものとみなして、当初の障害基礎年金請求日において「障害基礎年金および障害厚生年金」の受給権が認められるべきものと不服申立てをした。しかし、審査請求、再審査請求ともに棄却された。請求の差替えを求めること、その時に十分に説明を尽くすことまでは職務上の義務とはいえないと判断された[47])。
この差替えを求め、その理由や差替えない場合にどうなるかについて、実際に請求者に説明するのは、年金事務所等の相談に対応する担当者である。担当者が、請求者に対して必要な説明を尽くすよう、マニュアルに記載することが必要であろう。
初期対応の手引きには、「障害認定日からの年金請求を『認定日請求』といい、障害認定日がさかのぼる場合でも時効にかからない最大過去5年分が受け取れる。」とある。しかし、窓口説明のミス等、行政の注意義務違反、信義則違反により請求が遅れた場合等には、時効を援用しない場合があることは、厚労省が通知で明確にしていることであり[48])、遡及支給期間はいつも5年とは限らない。この点について、「事務処理要領197号・裁定事務(応用事例)」1.29-(4)〜(5)に、時効特例法施行前の2007年7月6日以前に受給権が発生したものも含め「事務処理誤りと判断されたものは5年以上遡及して支払う」との記載があるものの、初期対応の手引きにおいても、参照文書を明示して、注意を促す必要があろう。
障害認定日請求を行う場合で、請求時の等級について最低等級を超える等級(「障害基礎年金および障害厚生年金」なら2級以上、障害基礎年金なら1級)と認定するように求めるときには、請求時に同時に額改定請求を行うことにより、請求時の等級について行政争訟が可能となる。障害認定日において受給権が発生した場合に、請求日の等級について行政争訟が可能であるかどうかについて、社会保険審査会は、2011年頃から、障害認定日請求については同時に予備的に事後重症請求を行っているところ、主位的な請求である障害認定日請求が認められた場合には、職権で請求日等級を変更(または支給停止)する場合を除いて、請求日等級については処分はなされていないことになるため、額改定請求がなされていない以上、請求日の等級については行政争訟の対象とはならない、との判断をしている。このことにより、障害認定日請求時に同時に額改定請求が可能かどうかが問題となり、この点について、厚労省は疑義照会回答[49])により請求は可能と示している。しかし、初期対応の手引きおよび事務処理要領197号等のマニュアル上に記載はなく、障害認定日請求を行う場合で、請求時の等級について最低等級を超える等級と認定するように求める時に、窓口で額改定請求書の提出を勧めるという対応はなされていない。
1985年改正法が施行された1986年3月までに初診日(厚生年金の障害年金については発病日)がある場合には納付要件がその時期ごとに相違している。その内容を確認して、相談対応をしなければならない。また、1986年3月までに受給権が発生するケースも多いとはいえないまでも、まだまだ確実に存在している。1986年3月までに受給権が発生する場合で、初診日が国民年金加入中である場合には旧国年法の認定基準が、発病日において厚生年金加入中である場合は旧厚年法別表と認定基準がそれぞれ適用される。この点について、初期対応の手引きには記載がない。「事務処理要領197号・裁定事務(共通確認・審査)」2.51-(7)〜(12)には各制度の時期ごとの納付要件の見方の記載はあるものの、旧法等級表および認定基準の記載はない。このような内容では、旧法に関わる相談対応が十分にできるとは考えられない。
複数の年金が受給できる場合の年金選択は将来に向かってのみ可能である、というのが原則である(国年法20条の2第3項、厚年法38条の2第3項)。しかし、実際には、たとえば、64歳で「障害基礎年金および障害厚生年金」の事後重症請求をしたところ、2級を想定していたのに3級と裁定され、2級であれば障害年金の方が額が高く、3級であれば老齢年金のほうが額が高いため、65歳から老齢を選択受給していたところ、不服申立ての結果、請求日の2年後に、64歳時で2級と変更となった。その結果、65歳の時点での年金選択も、事後的に受給できる年金の額が変更となったことから、65歳の前月に年金選択があったものとみなされ、額が高い障害年金を選択受給することが可能となる。つまり、事実上、さかのぼって障害年金の選択受給が可能なのである。受給権者に責任のない国の責任による受給額の変更であって、国の等級認定の誤りによる不利益を受給権者が被る理由はない。そのため、将来に向かってのみ可能という原則は適用されないのである。障害年金の再認定により、等級が2級から3級に変更となり、その結果、障害年金を支給停止とされ、老齢年金の支給停止を撤回する際には、受給権者には3級への変更はその処分の前には不知のことであり、その前に選択変更を申し出ることは不可能であるため、上記と同様に、この場合も、実際の選択(老齢年金の支給停止の撤回)申出書の提出は3級への変更を受給権者が知った後ではあっても、3級への変更前に老齢年金の選択申出がなされたものとみなして、年金選択処理は扱われている。
この点は、年金事務所で相談対応に当たる専門職であれば、合理的に考えれば、必然的に至る結論である。にもかかわらず、杓子定規に、将来に向かってのみ可能という原則を当てはめ、さかのぼっての年金選択はできない、などと窓口で回答することがある。この点も、誤った窓口対応を根絶するために、マニュアル等に記載がなされる必要があろう。
国年法31条1項等により、2つの障害年金が併合された結果、1級となるのか2級となるのかについて、受給権者が不服申立てできるように額改定請求に対する処分という形をとっている。2つの2級年金の受給権が発生し、国年法31条1項等による併合が行われるかどうかはわからないし、請求時点でその可能性があると判断したとしても、後発について障害認定日において受給権が発生するのは、年金請求の数年も前である場合がある。過去に遡っては額改定請求ができるないものの、国は、2つの2級年金が発生することが確定した後に額改定請求書を提出するように求め、後発の障害認定日にかかる診断書現症日から3か月以内に額改定請求の請求日があったとみなして、併合時での等級について処分を行うという取り扱いを行っている。そのような扱いをしないと、国年法31条1項等により、2つの障害年金が併合された結果の等級(1級か2級か)について、受給権者が不服申立てできないためである。
この扱いも、上記(9)と同様に、相談対応に当たる専門職であれば、合理的に考えれば、必然的に至る結論であるものの、審査請求を審査する社会保険審査官ですら、このような扱いを不知であり、かつ、認めず、筆者が代理した事案について、診断書現症日が額改定請求以前の期限内のものではないという1点のみによって、額改定請求自体を却下すべきとの決定をした。この点も、誤った窓口対応等を根絶するために、マニュアル等に記載がなされる必要があろう。
法人と労働契約関係があり、かつ、社会保険の強制適用事業所であるにもかかわらず、当該法人が新規適用届を提出していなかったため、または、障害を有した人について被保険者資格取得届を提出していなかったため、厚生年金の被保険者となっておらず、国民年金1号被保険者である場合がある。そのような期間に初診日がある場合には、法人が新規適用届または資格取得届を提出するか、法人がこれらの届を行わない場合は本人が労働契約関係にあったことを示す労働契約書や給与明細などを添付して厚生労働大臣に被保険者確認請求(厚年法31条)をすることによって、被保険者資格を取得し、障害厚生年金に関する加入要件を満たすことができる[50])。この年金記録の変更によっても納付要件を満たしているときは「障害基礎年金および障害厚生年金」請求が可能である。この点については、年金機構が公開している疑義照会[51])に記載があるだけで、年金機構のどのマニュアルにも記載がない。本人の権利保障のためはもちろん、社会保険への加入義務を履行しない法人を減らすという観点からも、要件に適合する場合は、厚生年金加入要件充足のための上記届出や請求を積極的に促がすようマニュアルに記載すべきであろう。なお、逆選択との関係では、厚生年金の被保険者たる地位にあったことは障害を有する前の事実関係であって、逆選択には当たらない。
裁判および裁決事例については、嘉藤論文を参照されたい。ここでは、相談段階での対応誤りの事例について述べていく。
初診日、納付要件、障害の程度等、受給権や受給に直接関わる説明誤りには次のようなものがある。
上記、(3)、(4)、(5)および(9)は、請求書の受給権取得そのものやその内容に大きく関わる請求方法等についての誤りであったり、不十分であったりする窓口対応の事例でもある。ほかにも以下のような誤った相談対応の事例がある。
障害の程度については、①市役所で「大学卒であれば、知的障害で請求しても無理なので請求をあきらめたほうがいい」と言われた(2018年)。行政窓口で「視野障害は、国年令と厚年令の等級表に記載がないのだから障害年金の対象ではない」と言われた(2012年頃)。
初診日については、②1986年3月前の厚生年金加入中に初診日があり、本人が63歳の時に4回相談しに行った家族に対して、「初診日が確認できず、納付要件も満たさない。社労士に相談したらどうか」と言われた(2016〜2017年)。
納付要件については、③年金事務所が保険料納付済月数の計算ミス(納付要件を満たさないとして)で家族の請求を受け付けず、そこから2年後に医療機関経由で代理人に相談があり、代理人が再計算したところ、保険料納付要件を満たしたため、2年前の母請求時を受付日として裁定請求を受付させた(2016年頃)。
障害認定日および請求可能時期については、④脳出血半身まひの方に肢体診断書6か月時点、言語診断書1年6か月時点、と案内し、6か月時点3級、1年6か月時点で2級となった。⑤遷延性意識障害について3か月経過後を障害認定日とするという2014年の認定基準改正後に、脳出血による人工血管置換手術後遷延性意識障害の方について1年6か月経過後に再度来所するよう言われた。⑥市町村職員共済組合の担当者に、年金生活者支援給付金の請求は年金証書送達後に行うよう教示され、決定後に支援給付金の請求を行ったが、障害給付の請求日から3か月を経過していたため、受給権発生の翌月からではなく、請求を行った月の翌月からの支給となった。
支給制限についても、⑦行政窓口で「世帯収入が高い場合は20歳前初診の障害基礎年金は支給されない」と言われたり(2021年)、⑧行政窓口で「自殺未遂による障害は障害年金の対象とはならない」と言われたりする(2018年)。
ほかにも、以下のような不適切な窓口対応がある。
請求書類や請求手続については、⑨遡りによる障害認定日請求のため約5年間に渡っての病歴・就労期間があるにもかかわらず、市役所担当者は「病歴・就労状況等申立書」の意義について何も説明せず、とにかくこの申立書を診断書と一緒に提出しなければ請求書としての形式が整わないので何でもいいから適当に書いて提出するように、と急き立てられ市役所の窓口で思いつくままに二枠(一枠に2,3行程度)記載して提出させられ、審査部署も追記を求めることなく、等級非該当とされた(2017年)。⑩年金機構窓口でⅠ型糖尿病による障害年金の請求時に、病院から受診状況等証明書を入手しており初診日の証明は明確であるにもかかわらず、「障害年金の初診日に関する調査票【糖尿病用】」の提出及び健康診断等の診断結果について、事業所に保管されているもの(あれば)を含めて提出しなければ受付できないと受付を拒否されたため、「障害年金の初診日に関する調査票【糖尿病用】」を提出しないで障害年金を請求する理由」書を添えて障害年金センターに直送し受付され障害厚生年金3級が認定された(2020年)。⑪網膜色素変性症での請求のため市役所に相談に行く度に案内の内容が異なり、半年ほどかかっても一向に進展せず、請求をあきらめ生活保護を受給した(2010年頃)。⑫年金事務所が裁定請求書類は整っているにもかかわらず、上部機関に書類を回送しないため、請求書類を引き取って、別の年金事務所へそのまま提出したところ、受給権発生した(2010年頃)。⑬年金事務所が職員個人の独自規範に基づく修正指示(例;病歴就労等申立書が1医療機関1行で記載されていない。5年で1行に記載していない等)に従わなかったことや加給年金請求のための添付書類が裁定請求時に完全に揃っていないことにより、請求書を受け付けない(2019年頃に複数回)。⑭年金請求したところ「病歴就労状況等申立書が長い。読むのが大変だから短く書き直してほしい」と共済組合職員から指示されたものの代理人が拒んだ(2021年8月)。⑮一つの病院の受診歴しかないにもかかわらず、受診状況等証明書の取得を指示され費用をかけて取得した。⑯事後重症の選択理由として「障害年金制度を、障害認定日当時知らなかった」という理由では受け付けられない。「障害認定日の診断書が添付できない」と記載するのが適切であると指示される。これは、認定日(遡及)請求の失念防止確認の意味があると思われるが、障害認定日の診断書が添付できないのは、請求者が障害認定日当時に障害年金のことを知らなかったためであり、診断書が出せない根本理由についての記載を認めないという扱いは是正されるべきであろう。
年金機構は、初期対応の手引きを作成したときに、「年金事務所における障害年金業務のスキル向上を図るため、平成28 年度以降、お客様相談室に障害年金に関する専門性を持つ職員を順次配置する。」[52])と表明したものの、上記のとおり誤った対応事例が最近も頻回に起こっていることからも、これが、現在実施され、各年金事務所の相談室[53])に障害年金に関する専門性を持つ職員が在籍しているとまでは言えず、各年金事務所などの相談対応スキルが高まったとは考えられない。
業務実績報告は、障害年金を含む「人材体制の強化」として「年金相談業務に精通した職員等による安定的な相談体制を維持するため…年金相談職員(無期雇用職員)の確保に取り組み、令和3年4月現在で607 名を配置し…これにより、全国の年金相談ブース(1,606 ブース)における正規雇用職員等(正規雇用職員、年金相談職員(無期雇用職員)及び社会保険労務士)の配置割合は96.1%となりました」としている。研修については「年金給付業務を担当する各拠点職員を対象にクラス別(管理職、一般職、無期雇用職員・有期職員職員)の業務別研修を行うとともに、上席年金給付専門職及び年金給付専門職を対象に実務指導者としてのスキル向上を目的とした専門人材研修を実施しました」として、拠点職員(クラス別)を対象として業務別研修への受講者18,572 名、上席年金給付専門職に対する専門人材研修(年3回)の受講者 231 名、年金給付専門職に対する専門人材研修(年1回)受講者272 名、とする。「拠点における年金給付研修については、職員のスキル向上及び事務処理誤り防止を図るため、各地域において、上席年金給付専門職の巡回によるお客様相談室職員を対象としたOJTによる実務研修、実務指導及び年金相談窓口職員を対象としたロールプレイングを取り入れた実践型研修(年金相談対応研修)を実施しました」として、巡回指導等(1拠点月1回以上) 6,677 回、年金相談対応研修(入門編)は172 人受講、年金相談対応研修(基礎編)は171 人受講、年金相談対応研修(応用編)は1,008 人受講、とする。
研修の頻度や専門職の配置が適切といえるかどうかは、相談対応する職員、上席年金給付専門職および年金給付専門職の各総数や配置のされ方等を確認のうえ、別稿にて検討したい。
公的な年金相談窓口は、現在、年金機構の年金事務所や街角年金相談センター、市町村の国民年金課等である。
全国都市国民年金協議会は、2021年8月27日付けで厚労相に対する「国民年金制度改善についての要望書」[54])において、全ての国民年金事務を日本年金機構へ一元化することを求め、一元化が実現されるまでの間、段階的措置の一つとして、 特に、障害年金事務の窓ロ一元化を求めている。「障害年金事務については、障害内容や年金制度に関する総合的かつ専門的な知識を必要とする」として、「比較的短期間で人事異動があり、しかも少人数で他業務と併せて年金事務を担当する市町村職員では、対応の質の維持や継承が困難なため、請求者の相談ニーズに十分応えることができていない」ため、「請求者の利便性のため、年金記録を保有し、専門的な職員体制の構築が可能な日本年金機構における障害年金事務の窓ロ一元化の早期実現を強く要望する。また、現時点においても、形式審査以外の不備による書類の返戻については、請求者へ十分な説明責任を果たすために、障害年金センターから本人へ直接返戻するよう」要望している。同要望書の年金機構に対する項目のトップには「住民向け障害年金ヘルプデスクの設置」が挙げられ、市町村職員が対象の「障害年金市町村事務ヘルプデスク」は「回答内容も適切かつ細やかで、説明精度が高い」と評価し、「市町村向けヘルプデスクを住民向けにも公開、もしくは、住民向けの障害年金電話相談窓口を設置」するよう要望している。この市民向けの障害年金専門の電話相談窓口は設置すべきであろう。
また、全国の市区町村数は1,747であるのに対して、年金事務所は全国に321か所、街角の年金相談センターは全国80所[55])にすぎない。より身近な地域(市区町村にある基幹相談支援センター等)に、障害年金の専門知識を持つ専門員による相談窓口を、厚労省の責任で、常時でなくとも設置するなどの相談体制の拡充が求められているといえよう。
ここでは「はじめに」で述べた障害年金の根本問題に関する点以外について、相談対応の問題として、以下を指摘しておく。
第一に、厚生年金保険と国民年金という2つの年金制度がそれぞれ別々に立ち上げられ、まったく色合い(等級表、認定基準、認定部署等)も違ったものとして国民年金ができた後の約25年間続いてきたことが、新法になって35年経過してもなお尾を引いている。それが、請求書も2種類のままであって、「障害基礎年金および障害厚生年金」と障害基礎年金請求はどちらも障害基礎年金請求である点では変わりないはずなのに、2種の請求書のどちらを出すかが請求内容を決定付けることになる。この複雑さが、上記2の(4)と(5)の複雑さや混乱を生じさせている。
第二に、Ⅲの (3)でみた、国民年金3号被保険者に関する種別変更の届出漏れによる納付要件に関わる問題は、自らは保険料納付義務がないにもかかわらず、給付対象ではあるという3号被保険者の存在そのものに原因があるものとも考えられる。障害年金制度を根底から批判的に検討していく場合には3号被保険者をどう考えるかという点は避けて通れないことを示唆しているのではないか。
第三に、初診日の証明のやり方については、審査実務に実際に関わり、相談対応の経験のあるものであれば、当然把握している、初診日のカルテがない場合にどうすればいいのかという大原則についての記載が周知のための広報パンフレットや初期対応の手引きではさっぱりわからない記載となってしまっていることは、審査実務に実際に関わり、相談対応の経験のあるものと広報材や初期対応の手引きを作成するものとの情報伝達が不足していることを示していると考えられる。
第四に、相談スキルが、窓口職員において高まっていかないのは、窓口は単なる通過点であって認定審査に一切関わらないためと言える。せめて、障害年金センターで始まった認定医へ回す前の2段階の仮認定[56]のさらに前段階として、書類を受け付けた各年金事務所にて1段階目の仮認定をすべきではないか。少しでも認定審査に窓口職員が関わるシステムに変更しないと、窓口職員の責任感もスキルも高まることはないのではないか。
広報・周知施策と相談対応の問題は、この国の障害年金が内在する根本的な病理が大きく関わっている。
障害年金の対象となる障害状態にありながら、何十年も請求機会を逸することが多々ある現実は、広報・周知施策において、どういう場合に2級や3級に該当するのか、ということが市民一般に分かりやすい形で示されないことに原因があるといえるだろう。窓口対応において信義則違反とされたケースは、そのほとんどが、障害年金の対象となる可能性が十分あるにもかかわらず、障害者手帳等級と混同したり、その病気のことをまったく知らなかったりするために、対象とならないと断定することであった。初診日証明についても、誤解を生む記載の仕方をしているパンフレットに基づき行われるため、誤った方向に誘導する可能性がある。法律改正による救済により納付要件を満たすにもかかわらず、それに気づかず、要件を満たさないとして受給できないと回答してしまう場合もある。これらは、相談対応のマニュアルの記載に原因があるといえる。
広報・周知施策と相談対応の問題の多くは、どういう障害の状態に対して障害年金が支給されるのか、障害年金が支給される障害状態とそうでない障害状態を画するものは何かという疑問に明確に、分かりやすく答えることができないという状況に起因している。これは、上記Ⅱの6で述べた、障害種別をつらぬくモノサシを明確にしえていないゆえの困難さである。そのため、障害年金とはいったいどういう場合に支給対象となるのか、という広報ができず、受け手も、障害年金は何のために何に対して支給されるのか、を理解することができないため、内実を伴う周知につながらない。
自分は障害年金の対象かもしれないと、相談窓口に出向いても、自分は障害年金の対象となる障害なのかどうか、という相談者が真っ先に確認したい点について、相談対応者はその可能性すら回答することができず、とにかく請求してみてください、と請求者に請求するかどうかの判断を丸投げするほかないのが現状である。それでも、相談者が請求までやり遂げて、たまたま受給できることもあろう。しかし、もし、申請を拒否された場合には、その理由をわかるように説明したとはとても言えない書類が届くだけである。本稿では論述の範囲から除いた理由付記については、国は2020年4月から充実を図ったとしているものの、その内容は診断書から重要部分を箇条書きして転記しているだけで、それらによりどういう思考回路を経て、たとえば2級(日常生活に著しい制限がある程度)と認定しなかったのか、という内容記載はなされていない[57])。これも、障害種別に共通の、こういう状態が2級なのだというモノサシがなく、そのため、そもそも説明しえないという認定のあり方となっていることが原因である。100頁に及ぶ認定基準を熟読しても、医学的な解剖学的、生理的な基準は示されているものの、個々に2級とされている状態がどうして同じ等級なのかの説明は誰もなしえない。請求者は、相談をしたときから申請拒否処分が届くまで、結局、どうして自分の障害が障害年金の対象にならないのかは、何らの説明もなされないまま、障害年金請求を拒否された、自分の障害は社会的に認知されなかった、という事実だけが突きつけられることになる。
広報周知が十分でなく、給付対象となる障害状態になってから、何十年請求ができず、その分の障害年金を失うという事態も、相談しても自分が受給できる可能性についてすら窓口対応者から十分な説明を得られず、それでもなんとか請求まで辿り着いたにしても申請拒否された場合にはその理由がわかるように説明なされない状況も、どういう場合に障害年金が支給されるのか、1級はどういう程度なのか、2級はどういう程度なのか、3級はどういう程度なのか、という障害種別や部位別に共通した等級認定の(支給・不支給を画する)モノサシがないこと、すなわち、各等級についての全般的活動制限・参加制約(個人の個々の動作ではなく、その総体としての、家庭内活動(身辺処理や軽い家事の可否、介助の必要性、活動範囲、外出の可否等)や労働(肉体労働や座業の可否等)における制限および社会参加への制約)の程度が明確化されていないことに最大の原因があるといえるのではないだろうか。 了
※ 本稿のⅡ-1およびⅢ-3にて取り上げた事例は、筆者が経験したもののほか、障害年金法研究会の会員である社労士(飯塚泰雄さん、大島俊春さん、坂田新悟さん、震明裕子さん、七尾由美子さん、野口卓司さん、溝上久美子さん、山本奈央さん、吉成玲子さん)から提供を受けたものです。ありがとうございました。
[1]) この点に関して、歴史的経過については、安部敬太「障害年金における等級認定—その歴史的変遷—」(1)〜(3)早稲田大学大学院法研論集176-178号,2020-2021、参照。
[2]) この点に関して、等級認定の現状については、安部敬太「障害年金認定の現状」障害年金法ジャーナル創刊号2020、参照。
[3]) ①と②はいずれも成人以降、結果的に稼得活動に支障はなかった。
[4]) 末梢神経障害による四肢遠位部優位の筋力低下や感覚低下などが起きる難病である。ウェブサイト難病情報センター「シャルコー・マリー・トゥース病」。
[5]) 厚労省年金局事業管理課・日本年金機構給付企画部「障害年金制度の運用に関する対応状況」・「障害年金制度の運用に関する対応状況についての参考資料」2015.3.17第8回社会保障審議会年金事業管理部会資料4-1・4-2。
[6]) 厚労省ウェブサイト「公的年金の分かりやすい情報発信モデル事業」」
[7]) 4)の資料4-1。
[8]) 厚労省ウェブサイト「市町村国民年金事務サポートツール」
[9]) 広報周知に関しては「国民年金ってホントに必要なの!講座」という動画等も作成している(厚労省ウェブサイト「国民年金ってホントに必要なの!講座」)。後述4。
[10]) 年金機構ウェブサイト「ねんきん定期便」の様式(サンプル)と見方ガイド(令和3年度送付分)」
[11]) 年金機構ウェブサイト「令和2年度業務実績報告書」I-8-(2)「公的年金制度に対する理解の促進」
[12]) 厚労省ウェブサイト「年金委員」。令和3年3月末現在、全国で117,460人(職域型112,161人、地域型5,299人)。
[13]) 10) , 38-39頁。
[14]) 年金機構ウェブサイト「年金について学ぼう」
[15]) 使われているデータは令和元年度ものなので、おそらく2019年度に作成されたものと思われる。
[16]) しかし、動画「知っておきたい年金のはなし」令和3年度版には「病気やケガにより体に障害が残ってしまった場合は障害年金があります」との説明があるのみである。
[17]) 文部科学省「令和2年度学校基本調査」により計算すると合計692万2千人である。
[18]) 年金機構ウェブサイト「20歳到達時の国民年金の手続き」
[19]) 厚労省事務連絡「請求者の負担軽減のための障害年金に係る業務改善等について」2020.9.28
[20]) 本稿では外部障害ではない障害で、かつ、精神障害を除くものを表す。
[21]) 安部敬太前掲論文(注1)・(1)早稲田大学大学院法研論集176号,2020, 19頁, 注(1)。
[22]) 国は非常に狭い解釈をしている。それは(3)のチラシの3級に「日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある方が3級に相当。」とあることでもわかる。日常生活とは労働は含まない身辺処理と家庭内の温和な活動ということである。
[23]) 年金機構ウェブサイト「パンフレット」>「年金の給付に関するもの」
[24]) 厚労省ウェブサイト「市町村国民年金事務サポートツール」>「市町村向け 広報ツールの視聴・ダウンロードページ」
[25]) 厚労省通知「初診時の医療機関の証明を得ることが難しい場合における障害年金の初診日証明書類の周知・広報の推進について」令和3.3.23年管管発0323第5号, 別添
[26]) 平成27.9.28年管管発0928第6号, 一部改正平成31.2.1年管管発0201第7号。
[27]) 場合によってはカルテ開示も行う。初診日認定には必須の情報を医師がもれなく受診状況等証明書に転記するとは限らないので、カルテの内容を確認が必要な場合がある。
[28]) 確認できる範囲では、少なくとも2006年4月には「国民年金・厚生年金保険障害給付 受付・点検事務の手引き」という形で、全国の社会保険事務所(当時)窓口で使われてきた。現行のものは年金機構本部障害年金業務部, 2016年4月版。
[29]) 年金機構給付企画部, 2015年9月第4版。
[30]) 2021.7.30、社会保険庁時代からのマニュアルである「障害給付(障害厚生) 受付・点検事務の手引き」、および同手引きを障害基礎年金向けに改定した「国民年金障害基礎年金 受付・点検事務の手引き」 の2つの手引きがこのマニュアルに取り入れられ、2つの手引きは廃止された。分冊されており、障害年金に関する記載は「裁定事務(共通確認・審査)」、「裁定事務(応用事例)」、「年金請求書(国民年金・厚生年金保険障害給付)」、「年金請求書(国民年金障害基礎年金)」にある。
[31]) 年金機構「障害年金初期対応の手引き等の実施(指示・依頼)」2016.3.16年相指2016-11給付指2016-19, 「「障害年金初期対応の手引き」・「障害年金請求キット」の改訂」, 2017.9 .4 給付指2017-118
[32]) 厚労省ウェブサイト「市町村国民年金事務サポートツール」>「市町村向け 業務支援ツールのダウンロードページ」
[33]) 年金請求書の交付等の66(または84)の調査項目のうち8割以上が「できている」事務所などは60箇所のうち2割、「年金請求書を交付している 」は23%にとどまった。
[34]) 28), 2016年版 表紙。
[35]) 厚労省「障害年金の「線維筋痛症」、「脳脊鎚液減少症」、「慢性疲労症候群」に係る認定事例の送付について」2012.3.26,年金機構「認定が困難な疾患の認定事例の配布(指示・依頼)」2012.3.30給付指2012-71別添1、厚労省「障害年金の「化学物質過敏症」等に係る認定事例の送付について」2012.5.25,年金機構「認定が困難な疾患の認定事例の配布(指示・依頼)」2012.5.29給付指2012-125,別添1、年金機構「認定が困難な疾患の認定事例の配布(その3)」2017.7.26給付指2017-95, 別添2。
[36]) この点については、厚労省事務連絡「線維筋痛症等に係る 障害年金の初診日の取扱いについて」2021年8月24日が発出されている。
[37]) 「事務処理要領197号・裁定事務(応用事例)1.37。たとえば、糖尿病と糖尿病性腎不全は相当因果関係がありとされるのに対して、高血圧と脳出血は相当因果関係なし、と扱われることが多いとされる。
[38]) 2021年4月版。
[39]) 昭43.2.23庁文発第2149号
[40]) 社会保険庁『国民年金 障害等級の認定指針』(厚生出版社1981)35頁。
[41]) 国会会議録2013年10月9日参議院厚生労働委員会。
[42]) 社会的治癒期間に、①稼働などの社会参加に支障がなかったこと、および②医療の必要のない状態であったことの2点が要件とされる。
[43]) 年金機構発足前年度である2009年度から公表している事務処理誤り事例について、 2009年4月から2021年8月までの事務処理誤りのうち、障害年金の納付要件についての説明誤りは34件あり、うち32件が納付要件がないのにあると説明しているもので、あるのにないと説明したものは2件にすぎない。しかし、納付要件がないと回答されるとほとんどの人はそこで請求を断念する。そのため、事務処理誤りとして表面化することはほとんどない。事実、筆者が経験した2015年の2件もここには掲載されていない。納付要件があるのにないと答えるケースとしてはここで述べた3号被保険者期間のほかに、1991年3月までの学生期間未加入期間についてのカウントミス、3分の2要件の計算ミス、20歳月または翌月初診で20歳月や翌月が未納の場合、60歳以降や海外から国内居住となって1年に満たない場合の初診日での直近1年要件の見方、平成6年改正法の未適用などが考えられる。
[44]) 照会日2016.3.1 プロック本部受付番号NO.2016-002 (個別回答)「同一傷病による再発初診も見据えた障害厚生年金と障害基礎年金の同時請求について」。ただし、「個別回答」という形式のため、各窓口には徹底されていない可能性がある。
[45]) 10), 45頁。
[46]) 2015年4月17日東京地方裁判所判決
[47]) 現在、東京地裁にて係争中である。
[48]) 厚労省通知「厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付を受ける権利に係る消滅時効の援用の取扱いについて」2012年9月7日年管発0907第6号
[49]) 厚労省事務連絡「日本年金機構からの疑義照会(障害厚生年金の障害認定日における請求が一年以上遡及して行われた場合における額改定同時請求の可否について)に対する回答の情報提供について」2015.12.10別添
[50]) 届出以前2年間については、保険料納付が可能となる。届出の2年より前の期間については、75 条適用期間とされ、厚生年金の被保険者としての地位にあった期間(加入要件は満たす期間)ではあるものの時効により納付料納付ができないため未納期間となる。
[51]) 年金機構ウェブサイト「主な疑義照会と回答について」にあるpdfファイル「年金給付」25頁,「障害給付年金請求書(障害厚生)」整理番号3。
[52]) 厚生労働省年金局事業管理課・日本年金機構給付企画部「障害年金制度の運用に関する対応状況」2016.2.8第21回社会保障審議会年金事業管理部会資料2, 9頁。
[53]) 相談窓口においては録音不可とされている。相談対応が適切に行われたかどうかを確認するために録音することは認められるべきである。現状では隣のブースの音を拾うためという理由で録音は認められていない。そもそも個人情報保護のため隣の話声は聞こえないようにすべきであろう。
[54]) 『週間 年金実務』2462号23-25頁。
[55]) 年金機構ウェブサイト「受付時間のご案内」
[56]) 筆者による法人文書開示請求により年金機構から開示された「障害年金業務の体制強化【実施時期:令和3年度~令和4年度】」との文書
[57]) 安部敬太「障害年金認定の現状」障害年金法ジャーナル創刊号2020, Ⅳの9。