(下表参照)
2020年以降に拡大した新型コロナ感染のため、会の活動は一時休止状態になったものの、同年10月以降はオンラインでの研究会(定例会)開催を再開した。新型コロナ5類移行に伴って、第21回(2023年5月7日)は初めてハイブリッドにて開催した。参加者数は、各回約20名で推移していたが、第22回(2023年12月1日)には69名の会員が参加して活発な議論が交わされた。
2022年からは、拡大運営委員会を中心に2025年の年金制度改革に向けた国への提言作成に向けて始動し、定例会において会員間で提言案を検討し、継続して意見集約を行った。
障害年金法研究会 活動履歴(2020年1月以降) | ||||||
研究会(定例会)の開催履歴 | ||||||
定例会 回数 |
年 | 月日 | テーマ | 講師 | 備考 | |
17 | 2020 | 10月21日 |
「1型糖尿病訴訟を契機に考える法律問題」 ~認定のあり方・理由付記~ |
青木佳史弁護士(外部講師)・(以下全て会員)関哉直人弁護士・嘉藤亮神奈川大教授・安部敬太社労士・七尾由美子社労士 | オンライン開催 | |
18 | 2021 | 5月27日 |
「障害年金訴訟における弁護士の役割」 ~線維筋痛症に関する2020年6月5日東京地裁訴訟等を担当して~ |
池原毅和弁護士(会員) | ||
19 | 2022 | 10月6日 | 障害年金における手続き的権利を考える |
藤原精吾弁護士 ・野口卓司社労士・橋本宏子代表 ・山本奈央社労士(以上全て会員) |
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20 | 2023 | 2月17日 |
「障害年金における「障害」とは何か」 ~障害認定方法の改革を目指すにあたり、障害概念のあり方を問う~ |
野口卓司社労士・安部敬太社労士・永野仁美上智大教授 (以上全て会員) |
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21 | 2023 | 5月17日 |
「専門職からみた障害年金の課題を探る」 ~提言の意義を高めるために~ |
安部敬太社労士(会員)・ 飯塚泰雄社労士(会員) |
ハイブリッド開催 | |
22 | 2023 | 12月1日 |
「1型糖尿病障害年金訴訟(東京)から学ぶもの」 ~勝因の分析と今後の課題~ |
小嶋愛斗弁護士/社会福祉士 (会員) |
事例検討部会は①裁判事例についての検討、②裁判事例に共通する論点の検討、③「あるべき障害年金制度」へ向けた政策提言について議論を、比較的少人数で行うため、2018年8月に設けられた。2020年12月開催の第8回以降は、全会員を参加対象として開催している。参加人数は、各回約20名で、2020年以降はすべてオンラインで開催を継続している。
部会では、裁判事例をもとに障害年金の法的現状とあるべき姿に関する検討を行い、2022年以降は当会の2025年の年金制度改革に向けた国への提言を検討する場ともなっている。
障害年金法研究会 活動履歴(2020年1月以降) | ||||||
裁判事例検討部会の開催履歴 | ||||||
裁判事例検討部会回数 | 年 | 月日 | テーマ | 報告者 | 備考 | |
7 | 2020 | 8月5日 |
理由付記について ~第17回研究会についての事前討論~ |
橋本宏子代表(会員) ・七尾由美子社労士 ・安部敬太社労士 (以上全て会員) |
オンライン開催 | |
8 | 2020 | 12月18日 | 関節リウマチの社会的治癒訴訟について | 徳田暁弁護士(会員) | ||
9 | 2022 | 2月2日 | 「藤原精吾弁護士が勝ち取った2021年9 月15 日名古屋高裁金沢支部判決について」 |
野口卓司社労士(会員) ・藤原精吾弁護士(会員) |
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10 | 2022 | 7月6日 | 「国の時効援用と信義則・国賠訴訟・除斥期間を学ぶ」 |
坂本千花弁護士・山本奈央社労士・田中葉子社労士・安部敬太社労士・野口卓司社労士・得重貴史弁護士・関哉直人弁護士・松田凌弁護士・藤原精吾弁護士 (以上全て会員) |
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11 | 2022 | 11月18日 |
あるべき 障害認定基準・認定方法を考える ~2025 年金制度改革への「提言」に向けて~ |
安部敬太社労士 ・山下律子社労士 ・山本奈央社労士 (以上全て会員) |
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12 | 2023 | 3月8日 | 社会モデル、人権モデルの基本を理解する |
池原毅和弁護士(会員) ※(共催)神奈川大法学研究所共同研究「障害の法理論」 |
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13 | 2023 | 4月5日 |
「障害年金2025年制度改革への 障害年金法研究会からの提言書」案の検討 |
安部敬太社労士 ・野口卓司社労士 ・山本奈央社労士 (以上全て会員) |
当会は、規約第3条③にて「制度や運用についての問題点を把握し、問題提起や提言を行うこと。」を活動の3本柱の一つとしている。
本誌第1号9頁においても
「当会は、100名程度の団体ながら、その専門性と協力した力と知見を結集し、
国が抱えるこの分野の構造的な課題にメスを入れ、国に提言活動を行い、
具体的な成果を挙げて、市民全体の権利保障の水準を向上することを究極の目的 としている。」と目標を掲げ、
会結成時の「会の趣旨説明」においても「やがて国の政策へも影響力をもつ団体に育っていくことを目指していきたい」と力強く宣言している。
具体的には本誌第1号16頁以下において報告したとおり
② 2019年9月9日「審査請求期日録音中止問題」
の2件について、今まで国に対して具体的な申入れを行って、一定の成果を挙げてきた。
2023年6月2日に同日付けの厚生労働大臣宛ての「障害年金制度改革専門部会の立ち上げを求める声明(申入書)」を同省の担当者に当会代表橋本宏子が手渡して、
担当者2名と当会メンバー4名が申入れの趣旨説明に関する懇談を行った。
申入書の内容は次頁記載のとおりである。
すなわち、2022年10月から社会保障審議会年金部会において、2025年度の年金改革をめざす議論が開始されたものの、障害年金に関する本格的な議論をすることが期待できない状況に鑑みて、「障害年金に特化した、専門家による専門部会を立ち上げて議論するべき」との意見を申し入れた。
2023年5月8日の年金部会では、障害年金研究の専門家である百瀬優委員(流通経済大学教授)からも同趣旨の意見が表明されたタイミングであった。
国としては、「検討したい」旨の回答があった。
障害年金制度改革専門部会の立ち上げを求める声明(申入書) 厚生労働大臣 加藤 勝信 殿 2023年6月2日 障害年金法研究会 代表 橋本宏子 申入事項 障害年金制度の諸課題を改革するために障害年金問題に精通した委員による障害年金制度改革専門部会を立ち上げ、改革のための議論を進めて下さい。 申し入れの理由 はじめに 当会は、障害年金を必要とする人に確実に行き届くようにするため、障害年金問題に取り組む弁護士、社会保険労務士、社会福祉士・精神保健福祉士等の専門家、研究者等の専門職が協力しながら具体的事案を通じて研鑽を重ね、障害年金制度をよりよいものに改善するために2015年10月に結成された研究団体です。https://nenkin-law.com 当会は、今まで国に対して、2017年3月1日「審査請求における口頭意見陳述への国の欠席問題」改善申し入れ、2019年9月9日「審査請求における口頭意見陳述の録音中止問題」改善申し入れを行い、いずれも一定の改善対応をして頂きました。その節の御対応に敬意を表します。 申し入れの趣旨 現行の障害年金については、本来受給しうる人々に権利が認められない状況があり、法制度上、運用上、様々な大きな問題があり、国が問題をしっかりと検討し、改革を進めるべきと考えております。 その点、国が社会保障審議会年金部会において2022年10月25日を第1回として、年金制度改革を議論していることに注視しています。しかしながら、2023年3月28日の第 2回までの議論の状況を拝見する限り、障害年金の改革に関し、事務局及び19名の委員の発言・意見・議論は極めて限られています。 ようやく同年5月8日の第3回において、部会長及び3名の委員から障害年金に関する発言がありましたが、実質的な議論には至っておりません。率直なところ、同部会の枠組みに任せていては、障害年金に関してこの国に喫緊の課題の改革のための議論は期待し難いと指摘せざるを得ません。 同部会が国の年金制度全体について議論を進めることは重要ですが、部会とは別個に(同部会の一部門でも構いません)、障害年金制度改革のための専門部会を設置し、障害年金に特化した議論を進めることが不可欠であると当会は確信しております。第3回部会において、委員の一人から同趣旨の発言もあったものと認識しています。 省内にてご検討頂き、速やかなる設置をご決断頂きますよう申し入れます。 以上
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申入れのあとに厚労省内で記者会見を実施し、下記のとおり週刊福祉新聞2023年6月20日号に報道された。
同社の本誌への転載許可を得たので、下記に掲載する。
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週刊福祉新聞2023年6月20日号
障害年金に専門委必要
民間研究会が改革提言
弁護士や社会保険労務士らで構成する「障害年金法研究会」(代表=橋本宏子・神奈川大名誉教授)は2日、障害年金の改革を議論する専門の委員会を立ち上げるよう厚生労働省に申し入れた。
初診日を特定するカルテを探すのが困難で、結果として受給できない例が多いことを問題視した。申請しても認定されず、不服申し立てする件数が老齢年金と比べ圧倒的に多いことからも、制度運用に問題があるとみる。
同研究会によると、障害年金は受給者が約231万人(2021年度)。老齢年金の4044万人に比べて少なく、制度も複雑で、年金制度改革の議題になりにくいという。
厚労省は22年10月から社会保障審議会年金部会で年金改革の議論を開始。同部会の委員からも障害年金に特化した委員会が必要だとする意見が上がっていた。(福田敏克)
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当会は、2022年初旬頃~2024年3月の約2年間にわたり、2025年の国の年金改革に向けた国への提言書策定のための議論を重ねた。
具体的には、会員が全員参加可能な定例会(20~22回)、同じく事例検討部会(11~13回)等でも提言に関する報告・意見交換等を行い、提言書原案に関し2023年2月18日~3月16日会員アンケートを行い、会員の意見を反映しながら提言書文案修正を進め、最終的には2024年1月22日~2月9日に会員投票にかけ、圧倒的多数の賛成を得て承認された内部プロセスであった。
提言書全文を本誌第Ⅰ章-1にて掲載しているので、ぜひお読み頂きたい。
そのようにして作成された提言書を2024年3月6日、厚労省中央合同庁舎5号館1階共用第1会議室にて、当会代表橋本宏子が厚労省年金局年金課 企画法令第一係志村明洋係長に交付する形で提出した。
同会場で、当会メンバー6名と厚労省年金局・保険局職員5名との意見交換が35分間ほど行われた。
同日午後3時から厚労省内で当会は記者会見を行い、日本の障害年金の課題と本提言申入れの趣旨を説明した。
共同通信社が配信したため、全国各紙で記事化された。
また、週刊福祉新聞社が2024年3月19日号で記事を掲載した。
同社から転載許可を得たため、下記に掲載する。
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週刊福祉新聞2024年3月19日号
障害年金認定基準
民間研究会が提言
弁護士や社会保険労務士らで構成する「障害年金法研究会」(代表=橋本宏子・神奈川大名誉教授)は6日、障害年金の支給対象に当たるかを判断する「認定基準」の改正試案を公表した。同日、年金制度改革を進める厚生労働省に申し入れ、審議会の議論に反映するよう求めた。
認定基準の試案は、オーストラリアで導入されたものを参考に作成。社会参加への制限を九つの視点で判定する評価表を設けた。働いて稼ぐことの難しい無年金者を減らすのが狙いだ。
同研究会は、現在の認定基準は1966年につくられたものであり、ベッドから出られない寝たきりの人を想定している点で時代錯誤だと批判した。
制度が複雑なこともあり、本来受給できる人が不支給とされる例が多いとみる同研究会は、「障害年金の目的の明確化」「障害の捉え方を医学モデルから社会モデルに改めること」など12項目にわたって提言した。
年金制度改革をめぐり、厚労省は2022年10月から社会保障審議会年金部会で議論を開始。23年6月には20年ぶりに障害年金を議題とし、委員から「障害年金に特化した委員会が必要だ」とする意見が上がった。同部会は今年末に報告書をまとめる予定。(福田敏克)
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当会の英知を集めた本提言書が日本の障害年金の諸課題の改善に少しでも役立つよう、今後も活動を続けていく決意である。