「初診日と無年金」
小嶋愛斗
初診日と無年金
初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合について、厚生労働省年金局事業管理課長通知(平成27年9月28日年管管発0928第6号)は、次のとおりの取り扱いを定める。
⑴ 裁定請求時の行政庁における対応や裁定請求の判断時において
障害年金を申請する時、処分の違法を争って審査請求を行う時、同じく取消訴訟を提起する時など、当然のように初診日の検討を行う。もっとも、いざ障害年金の要件というときに、初診日自体は要件として整理されていない。すなわち、障害年金の支給要件は、一般に、①加入要件②納付要件③障害要件(国年法30条1項、厚年法47条1項)とされており、初診日自体は、要件とはなっていない。しかしながら、請求却下通知に付記された理由や、審査請求の棄却決定書には、「基準傷病の初診日が○年○月〇日と認められない」ため請求が認められないと、あたかも、初診日それ自体が支給要件となっているかのような記載が当然のようになされている。
このような記載がなされるのは、上記3要件と初診日とが密接に関連する(「初診日主義」[1]の採用)から、であることに疑いはなく、初診日の年金の加入状況や、納付状況によっては、無年金となるのであるから、給付要件との関係で初診日が重要であることは間違いない。
しかし、前記のように、初診日自体が認められないことが、あたかも、年金の不支給の理由とされること、障害年金の要件化されることについては、疑問がある。
例えば、初診日自体の特定が困難であっても、障害基礎年金の加入要件、納付要件を満たす場合(全期間において国民年金に加入、納付している場合等)はあり、その場合は、初診日の特定は重要な意味を持たない。
また、申請者が特定した初診日自体は認定できないが、その前後のいずれかに、国が、認定可能な初診日があり、かつその初診日を基準とする場合には加入要件、納付要件を満たす、という場合、単に初診日が認定できないということで請求を却下するのではなく、処分庁が申請者に説明、求釈明をした上で、認定可能な初診日による改めての申請を促したり(実務ではこのような取り扱いも多くなされていると思われる)、審査請求、取消訴訟段階であっても、認定可能な初診日があると国が考えた際に、申請上の初診日と異なる国が認定可能と考える初診日を前提に、裁決、判決を行うことも可能ではないか、とも思われる(前者は、年金申請の窓口である日本年金機構による情報提供義務、説明義務の問題、後者は、審査請求、取消訴訟段階での国の説明義務のほか、訴訟物、審判対象が問題となる。)
本稿は、初診日の定義を確認した上で、初診日が問題となった判例を確認する。そのうえで、初診日が認定できないとの理由で障害年金が却下されることの意味、実務的な対応の可能性について、検討をするものである。特に、筆者は、弁護士であるから、特にかかわることの多い、取消訴訟段階での問題点、行政訴訟の審判対象との関連も検討しつつ、「初診日」の機能について検討する。最後に、仮に申請通りの初診日が認定できた場合であっても、現状の制度では加入要件、納付要件を満たさないために不支給となってしまう一定の場合について、制度変更による救済の可能性について検討する。
国民年金法、厚生年金保険法は、初診日を、「疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」をいうと定義する(国年法30条1項、厚年法47条1項)。
そして障害年金の給付要件のうち、①加入要件は、「疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(「初診日」)に、被保険者であること、又は、被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、六十歳以上六十五歳未満であること、とされ、初診日が関連する。初診日に国民年金や厚生年金の被保険者でなければ、障害年金は受給できないこととなる(初診日が20歳未満の場合除く)。
②納付要件も、「当該傷病に係る初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないとき」に満たすものとされ(ただし、例外として昭和60年改正法附則20条で、いわゆる直近1年間要件がある)、初診日が関連する。
③障害要件も、いわゆる認定日請求(国年法30条1項)の場合には、「初診日から起算して一年六月を経過した日(その期間内にその傷病が治った場合においては、その治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)とし、以下「障害認定日」という。)において、その傷病により次項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にあるとき」とされ、いわゆる初めて2級による請求の場合(国年法30条の3)にも、基準傷病以外の傷病が障害認定日に障害等級に該当する程度の障害の状態になかったことを要件とするため、初診日が関連する。
なお、20歳未満に初診日があるも場合については、「疾病にかかり、又は負傷し、その初診日において二十歳未満であつた者が、障害認定日以後に二十歳に達したときは二十歳に達した日において、障害認定日が二十歳に達した日後であるときはその障害認定日において、障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときは、その者に障害基礎年金を支給する。」(国民年金法30条の4)とされ、加入要件、納付要件は問題とされず、初診日が20歳未満にあるかどうかが要件となる。この意味では20歳未満の無拠出年金においては、初診日それ自体が(20歳未満にあることが)「要件」と整理することができるかもしれない。次に述べる最判平成20年10月10日も、「初診日要件」という記載をしている。
いわゆる学生無年金訴訟の一つで、統合失調症のように、発症から医師の診療を受けるに至るまでの期間が長期化しがちであるという特質から,20歳に達する前に発症しても,その段階で医師の診療を受けるに至らず,病状が進行して20歳を過ぎてから初めて医師の診療を受けることとなるという事例は,類型的に十分予想し得るものであって、このような者について,初診日要件を形式的に適用するのではなく、20歳前の発症が、医学的根拠をもって確認できた場合は初診日要件を満たす、として初診日の解釈が争われた
最高裁は、次のように述べ、例外的に、発症日を初診日とする扱いを否定した(なお、原審は肯定した。)。
「国民年金法30条1項は,いわゆる拠出制の障害基礎年金の支給要件として,障害の原因となった疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病について初めて医師又は歯科医師(以下「医師等」という。)の診療を受けた日において被保険者であることなどを定めている。そして,同項は,疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病について初めて医師等の診療を受けた日をもって「初診日」という旨規定しており,20歳前障害基礎年金の支給要件を定めた同法30条の4にいう「その初診日において20歳未満であった者」とは,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病について初めて医師等の診療を受けた日において20歳未満であった者をいうものであることは,その文理上明らかである。
上記のとおり,国民年金法は,発症日ではなく初診日を基準として障害基礎年金の支給要件を定めているのであるが,これは,国民年金事業を管掌する政府において個々の傷病につき発症日を的確に認定するに足りる資料を有しないことにかんがみ,医学的見地から裁定機関の認定判断の客観性を担保するとともに,その認定判断が画一的かつ公平なものとなるよう,当該傷病につき医師等の診療を受けた日をもって障害基礎年金の支給に係る規定の適用範囲を画することとしたものであると解される。
原審は,統合失調症について,発症から医師の診療を受けるに至るまでの期間が長期化しがちであるという特質があることなどを理由として,統合失調症を発症し医師の診療を必要とする状態に至った時点において20歳未満であったことが,医師の事後的診断等により医学的に確認できた者については,初診日要件を満たすものと解するのが相当であるとするのであるが,このような解釈は,前記各条項の文理に反するものであり,また,国民年金法が画一的かつ公平な判断のために当該傷病につき医師等の診療を受けた日をもって障害基礎年金の支給に係る規定の適用範囲を画することとした前記の立法趣旨に照らしても,採用することができない。」
なお、今井裁判官による「統合失調症の特殊性」を前提に、「発病の時期と初めて医師の診療を受ける時期との間には,相当の時間の差があり,一般の疾病と同様に,初診日を基準として,受給要件を定めることには,医学的な根拠を欠くといわざるを得ず,初診日要件を厳格に遵守する結果,制度の趣旨に沿わない場合が生ずることは否定できない。特に社会福祉原理に基づく無拠出制の年金については,発病の時期が20歳前であることが事後的にではあっても医学的に確定できれば,支給要件を満たしたとすることには十分な合理性がある。むしろこの解釈の方が,20歳前に稼得能力を失った者に対する社会福祉原理に基づく給付という立法趣旨に合致する」とする反対意見もある。
初診日の意義が固まったといえる上記最判以降の障害年金関係の下級審裁判例の中で、初診日の認定が問題となったと思われるものを別紙のとおり列挙した。具体的には、①裁判日付、②傷病名、③年金の種類、④裁定請求時の初診日、⑤年金の加入期間等を示したうえ、⑥原告主張の初診日(およびその根拠)、⑦被告主張の初診日(およびその根拠)、⑧初診日に関する裁判所の認定といった項目で整理を行った。
判例番号 |
①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
判例出 典・ WLJPCA は 「Westl aw Japan」 |
⑧裁判所の認定 |
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1 |
2022年 6月9日東京地方裁判所判決 |
うつ病 |
共済 |
H24.11.16 |
昭和54年4月 1日から平成 25年3月31日 |
H24.11.16 |
平成25年9月17日である 平成24年11月16日の入院時の治療は、アルコール依存症のためのものである |
A 原告の主張する初診日認定 |
2022WL JPCA06 098011 |
⑧裁判所の認定 |
平成24年11月16日である。 診療録では診断名がアルコール依存症のみとされているが、後日B医師が作成したB医師診断書ではアルコール依存症及びうつ病を挙げており、平成24年11月16日の初診時から原告には抑うつ症状がみられた旨記載されている。B医師は、平塚病院における原告の主治医であり、本件入院1及び2の際に原告を直接診察し、その間の治療経過等を把握しており、本件入院1の際、どのような意図で治療を行ったのかということについて直接知る立場にある。そして、平塚病院診療録には、診断名は確定的ではない旨の注意書きもあるところであり、B医師としては、本件入院1開始後の原告の症状や治療の経過も踏まえて、本件入院1の治療は、アルコール依存症だけでなくうつ病に対する治療の側面も有していたと判断したものと解される |
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2 |
2022年 6月3日東京地方裁判所判決 |
糖尿病を原因とする慢性腎不全 |
厚年 |
H8.7.30 |
・昭和57年9月1日から昭和63年11月1日まで ・同年12月 1日から平成 10年1月1 6日まで ・同年11月 7日から平成 14年5月14日 |
H8.7.30 |
平成8年7月30日ではない |
B 原告主張の初診日を否定 加入要件・納付要件への言及なし |
2022WL JPCA06 038008 |
⑧裁判所の認定 |
平成8年7月30日ではない 前記病歴・就労状況等申立書は原告本人の供述以上の意味を持つものではないし、第三者証明も、友人や知人等とされる者が原告の依頼を受けて作成したものとみられる(原告本人)上、それらの内容を裏付ける的確な証拠は見当たらず、これらによっても本件傷病の初診日を認めることはできない。 |
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①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
3 |
2022年 2月1日東京地方裁判所判決 |
筋強直性ジストロ フィー |
厚生 |
平成9年11月 11日 なお、予備的に、昭和59年 (20歳前)を初診日とする障害基礎年金の裁定請求をし、これは認められてい る。 |
(厚生年 金)・昭和 63年4月1日から平成元年 12月1日 ・平成8年9月1日から同年11月18日 ・平成9年10月1日から平成10年11月 1日 ・平成12年 10月26日から平成16年 10月1日 |
昭和59年12月頃,A病院を受診し,筋強直性ジストロ フィー(別件傷病)との診断を受け,その後,平成9年11月11日,下志津病院を受診し,筋強直性ジストロフィー (本件傷病)との診断を受けているところ,原告は,ア A病院では,検査や検査結果の説明を受けただけであっ て,同病院への受診日は初めて診療を受けた日(治療行為又は療養に関する指示があった日)に当たらない,イ 仮に,同病院への受診日が初めて診療を受けた日(治療行為又は療養に関する指示があった日)に当たるとしても,別件傷病は平成9年9月までの間,社会的治ゆの状態にあり,本件傷病と別件傷病は別の傷病である |
昭和59年12月 |
C 被告主張の初診日を認定 |
2022WL JPCA02 018011 |
⑧裁判所の認定 |
昭和59年12月である 4アについて、昭和59年にA病院の医師が原告に対して,何らの医学的指示をしなかったとは認め難く,むしろ,原告に対しては定期的な通院や検査を指示するなどの医学的指示があったと合理的に推認され,その他に上記推認を覆すに足りる事情は見当たらない。そうすると,同病院への受診日は,別件傷病に関し,治療行為又は療養に関する指示があった日に当たるというべきである。 4イについて、筋強直性ジストロフィーによる筋力低下と運動機能障害は慢性的に進行し,筋強直性ジストロフィーの根本的な治療法は現在も確立されておらず,対症療法と生命予後に直結する合併症に対する予防が重要であるという,筋強直性ジストロフィーの治療の特質に加え,前記イのとおり,原告自身が少なくとも握力の低下が進行していることを認識していたと認められることからすれば,通常人と比較してそん色のない社会生活を送っていたとの一事をもって直ちに,別件傷病が社会的治ゆの状態にあったと評価することはできない |
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①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
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4 |
2022年 1月27日大阪高等裁判所判決(大阪地方裁判所判決令和3年 2月10日 ) |
右眼増殖性硝子体網膜症,右眼網膜剥離及び右眼水疱性角膜症 |
基礎又は厚生 |
H25.12.17 |
厚生年金について、平成1 4年4月1日以降 |
平成25年12月17日である。原告は,本件前発傷病(先天性の疾患である小眼球症(両眼),ブドウ膜欠損(右眼)及び白内障(右眼))を抱えながら日常生活は平常どおり営んでおり,わずかに視力が低下していたものの,平成25年12月に必ずしも手術を受ける必要性があったものではない。 それにもかかわらず,平成 25年当時の主治医であるC医師は,本件手術を実施することとし,本件手術の際,超音波の衝撃で眼球のチン小帯を欠損させ,同部分から水晶体核を落下させ,このことに気付かずに手術を終了するという通常考え難い重大な過失を犯した。しかも,C医師は,水晶体核落下に気付いた後 も,直ちにこれを除去せずに放置して,網膜剥離等の本件傷病を発症させた。 このように,原告に緊急の 手術の必要性がなく,本件傷病がC医師の重大な過失により引き起こされたこと等に照らせば,本件傷病は,本件前発傷病に内在している危険が通常の因果経過に沿って発現したとはいえない。そうすると,本件前発傷病と本件手術の際のC医師の重大な過失により引き起こされた本件傷病との間には,相当因果関係はない。 相当因果関係の有無は,ある 事象からそのような結果が生じるのが経験上通常であるか否かによって判断されるか ら,経験上通常とはいえない結果が生じた場合には,医師の過失行為の有無にかかわらず,相当因果関係が否定され,本件前発傷病と本件傷病との間の相当因果関係はない。 |
本件前発傷病の初診日である原告の出生日である 原告は,20歳前から先天性白内障に罹患し,その疾患が悪化してきたため,治療目的で本件手術を受け,その後,水晶体核の摘出術を受けたところ,これらの手術が契機となって,本件傷病を発症したものと考えられる。また,先天性白内障は,網膜剥離を併発することがあるた め,成人になっても定期的に眼科で検査を受ける必要があること,水疱性角膜症は,白内障手術等の医療行為による二次的な合併症が最も多いとされていることに照らせば,本件傷病である網膜剥離,水疱性角膜症は,一般的に,本件前発傷病である先天性白内障から併発し,又はこれに対する手術による二次的な合併症として生じ得るものである。 なお,本件手術の実施に過失があると はいえないから,本件傷病と本件前発傷病との間の相当因果関係が否定されることはない。すなわち,原告の先天性白内障は,平成24年5月当時までに,白内障が進行し,眼底が少し濁っていることが確認された上,30歳を超えると水晶体核が増大して硬化し,手術時にこれを吸引することが困難となること,水晶体の動揺が進行しないうちに手術を行うことにより,水晶体摘出を安全に行うことができることからすれば,本件手術の時期は適切であった。また,本件手術においては,水晶体核を分割せずに完全に吸引していることから,水晶体核を落下させたことはなく,本件手術後に発生した網膜剥離は,適切に白内障の手術を行った後に,創傷が治癒する過程で新生血管が切れる等して硝子体出血が生じたために起こったものと考えられ,本件手術の過誤により生じたものとはいえない。そし て,総合医療センターの診療録に,水晶体核片を摘出した旨の記載があるが,これはやむを得ず完全には吸引しきれなかった水晶体残存皮質が白濁,膨化したものと考えられ,実際に水晶体核片が落下していたとは考えられない。 (イ) 以上のとおり,本件傷病の原 因は,本件前発傷病である先天性白内障及びこれに対し類型的に行われることのある白内障手術である本件手術であり,本件前発傷病がなければ本件傷病が起こらなかった,すなわち,前の疾病又は負傷がなかったならば後の疾病が起こらなかったものといえるから,本件傷病は,本件前発傷病の相当因果関係の範囲内にあり,本件前発傷病の初診日が本件傷病の初診日となる。 |
A 原告の主張する初診日認定 |
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大阪高裁 (2022 WLJPCA 012760 13)、大阪地裁 (2021 WLJPCA 021060 18) |
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⑧裁判所の認定 |
平成25年12月17日である。 本件手術に起因して原告を失明状態に至らせた本件傷病は,本件前発傷病から通常の因果の経過をたどった結果ではなく,本件手術を起点として経験上異常な因果の経過をたどった結果であると評価されるから,本件前発傷病と本件傷病との間の相当因果関係は,否定される。 以上の次第であるから,本件前発傷病と本件傷病との間の相当因果関係はなく,本件傷病の初診日が本件前発傷病の初診日に遡ることはなく,本件傷病の初診日は,その起点である本件手術時である平成25年12月17日と認めることが相当である。 |
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①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
5 |
2021年 10月21 日東京地方裁判所判決 |
両網膜色素変性症 |
基礎 |
平成18年11月頃 |
平成16年1月以降,第3号被保険者の資格を取得した(第3号被保険者特例措置該当期間を平成16年1月から平成 26年10月として,国民年金第3号被保険者特例措置該当期間登録届出)。 |
平成18年11月頃である A医師による受診状況等証明書に「原因不明の色素変性を前医で診断され精査目的に当院受診」と記載されているから,原告は,当該前医において「原因不明の色素変性」との診断を受けていたものであり,A医師の受診した時期と近接した時期において眼科医を受診したと考えるのが自然である。そして,原告は,B眼科を受診した記憶が明確にあることから,A医師の受診した時期と近接した時期に受診した眼科医院はB眼科であると考えるのが最も合理的である。 したがって,原告は,本件 A病院を受診した平成18年1 2月8日以前の近接した時期である同年11月頃にB眼科を受診し,「原因不明の色素変性」との診断を受けたものであるから,同月頃の同診断を受けた日が本件傷病の初診日である。 |
平成18年11月頃ではない A医師による受信状況等証明書に「原因不明の色素変性を前医で診断され精査目的で当院受診」と記載されていることから,原告が本件傷病についてA病院のA医師の診察を初めて受けた平成18年12月8日より前に本件傷病について医師の診察を受けたことはうかがわれるものの,本件証明書にはそれ以上の記載はな く,また,前医からの紹介状 も添付されていないから,原告が本件傷病についていつどこで診察を受けたのかを確認することはできず,原告の本件傷病についての初診日が同年11月頃であると認めることはできない。 |
B 原告主張の初診日を否定 納付要件へ言及あり |
2021WL JPCA10 216001 |
⑧裁判所の認定 |
平成18年11月頃ではない 原告は,平成18年12月8日よりも前に医療機関において原因不明の色素変性との診断を受けていたことは認められるものの,当該医療機関が作成した診断書や紹介状等の書面が証拠として提出されておらず,他に同医療機関の初診日を認めるに足りる医学的,客観的な証拠はない。そうすると,前判示に係る初診日要件の初診日の判断枠組みに照らせば,客観的な資料に基づいて認めることのできない同医療機関の初診日をもって原告の本件傷病の初診日と認めることはできない。 なお、仮に原告の本件傷病に係る初診日を平成18年11月頃としても,初診日の前日において,当該初診日の属する月の前々月までの被保険者期間の全期間について保険料が未納で、納付要件を満たさない。 |
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①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
6 |
2021年 7月20日東京地方裁判所判決 2021WL JPCA07 208006 |
腰椎椎間板ヘルニア及び頚椎症性神経根症 |
厚生 |
H22.1.21 |
少なくとも平成22年1月 20日から同年5月1日まで厚生年金保険の被保険者であった |
腰椎椎間板ヘルニアについては,本件転倒(平成22年1月 20日,当時52歳であったところ,乗車中の電車が急停車したことにより,臀部から垂直に落ちるような形で転倒)によって生じたものとして相当因果関係が認められ,その初診日は平成22年1月21日である。 頚椎症性神経根症について、 本件転倒により頚椎症等が発症し,これに起因して頚椎症性神経根症が発症した |
平成22年1月21日ではない |
B 原告主張の初診日を否定納付要件へ言及なし 障害要件を満たさないことへの言及あり |
2021WL JPCA07 208006 |
⑧裁判所の認定 |
平成22年1月21日ではない ア 腰椎椎間板ヘルニアについて、A整形外科で22年4月11日に行われた神経学的検査において も,腰椎椎間板ヘルニアの診断に有効とされるSLRテスト及びFNSテストのいずれも陽性反応はなく,腰椎椎間板ヘルニアであることを示す神経学的所見は認められなかった。その結果,A整形外科における腰椎椎間板ヘルニアの診療は,同年6月26日に中止されるに至ったものである。 これらに加え,A整形外科において実施されたリハビリテーションの記録によれば,平成22年2月から7月まで一貫して,原告の基本動作能力及び日常生活活動については「自立」と評価されていることも併せ考慮すれば,仮に原告主張のように本件転倒により腰椎椎間板ヘルニアを発症していたとしても,本件障害認定日(平成23年7月21日)において,これを原因として障害等級に該当する障害の状態にあったといえないことは明らかである。 イ 頚椎症性神経根症について 脳脊髄液減少症によるものと考えて不合理ではなく,これらの症状があったことから直ちに頚椎症性神経根症の発症が認められるものではない |
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①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
7 |
2021年 4月20日東京地方裁判所判決 2021WL JPCA04 208017 |
関節リウマチ |
基礎又は厚生 |
H23.12.10 |
平成6年、国民年金の被保険者の資格を取得し,その後,国民年金の第二号被保険者に該当すること又は国民年金の第一号被保険者に該当すること(厚生年金保険の被保険者の資格の取得及び喪 失)を繰り返した。原告が,厚生年金保険の被保険者の資格を取得した(国民年金の第二号被保険者に該当する事由が生じた)のは,①平成 8年10月14日, 2平成15年4月1 日,3平成19年 1月18日,4平成20年2月11 日,5同年8月17日,6平成21年3月14日,7同年8月1日及び8平成 23年10月17日であり,厚生年金保険の被保険者の資格を喪失した (国民年金の第一号被保険者に該当する事由が生じ た)のは,①平成 8年10月29日, 2平成18年3月1日,3平成19年8月4日,4平成20年6月1日,5平成21年1月17日,6同年5月16日,7平成23年1 0月16日及び8平成24年5月21日であり,同日以後は,国民年金の第一号被保険者である。 |
平成23年11月下旬頃,突然,肩が上がらなくなるなどの本件傷病の症状が出現し,同年 12月10日,Aクリニックを受診しているから,本件傷病の初診日は,同日である。 なお,原告は,平成7年5月頃,関節リウマチ(別件傷 病)を発症したことは事実であるが,別件傷病は,遅くと も平成16年10月までに治ゆしており,本件傷病と別件傷病は,別の傷病である。 仮に、医学的な治癒が認められなくとも、社会的治癒が認められ、初診日はやはり平成 23年12月10日である。 |
平成7年5月(別件傷病と同一)である |
C 被告主張の初診日を認定 |
⑧裁判所の認定 |
平成7年5月である。 本件の証拠関係の下においては,別件傷病と本件傷病が別の傷病であるとは認め難く,本件傷病は,しばらく寛解状態にあった別件傷病が再燃したものと認めるのが相当である |
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①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
8 |
2020年 7月3日東京地方裁判所判決 |
両変形性股関節症 |
厚生 |
平成15年2月 8日 なお、昭和46年頃を初診日とする同一傷病による障害基礎年金受給後、2級に至らなくなったとして停止 |
・昭和55年4月1日から昭和61年12月30日まで (同月31日に被保険者資格喪失) ・平成8年2月1日から平成17年4月 30日まで (同年5月1日に被保険者資格喪失) ・平成17年 7月1日から現在まで |
原告は,昭和46年頃に変形性股関節症にり患し,その頃同傷病につき医師の診療を受けたものであるが,平成15年2月8日の診療までの間に,上記の変形性股関節症が治癒(社会的治癒を含む。)していた |
昭和55年4月1日より前 |
D 原告主張とも、被告主張とも異なる初診日を認定 |
2020WL JPCA07 038011 |
⑧裁判所の認定 |
昭和46年頃である 平成15年2月8日の診療までの間において,本件傷病につき社会的治癒があったと認めることはできず,本件傷病の発病日及び初診日は昭和46年頃と認められる |
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①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
9 |
2020年 6月5日東京地方裁判所判決 |
線維筋痛症 |
厚生 |
H25.8.29 |
・平成13年4月1日から平成15年5月 29日まで (同月30日に被保険者資格喪失) ・平成23年7月1日から平成26年1月3 1日まで(同年2月1日に被保険者資格喪失) |
H25.8.24 |
平成25年8月24日(なお、却下決定時、審査請求時は平成 26年9月3日としていた) |
D 裁定請求時の初診日と異なる初診日 を、当事者間に争いがないことを理由に認定 |
裁判所 ウェブサイト |
⑧裁判所の認定 |
平成25年8月24日 なお、本件は裁定請求の申請書上の初診日(平成25年8月29日)とも、却下決定時の国の判断の基礎となった初診日(平成26年9月3日)とも異なる初診日(平成25年8月24日)を前提として障害の状態に関して審理がなされている。この点について、原告からは、新たな初診日を前提とした主張は、許されないとの主張がなされた。 裁判所は、 取消訴訟の訴訟物は,処分の違法一般であると解されるところ,一般に,取消訴訟においては,別異に解すべき特別の理由のない限り,被告は当該処分の効力を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許されるものと解すべきである(最高裁昭和51年(行ツ)第113号同53年9月19日第三小法廷判決・裁判集民事125号69頁)。 また,本件処分においては理由が示されているが,申請拒否処分において理由を示すべきものとされている(行政手続法8条)のは,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解され,その趣旨は,処分の理由を具体的に示して処分の名宛人に通知すること自体をもって,ひとまず実現され,この趣旨を超えて,一たび通知書において理由を示した以上,行政庁が当該理由以外の理由を取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨を含むとは解されない(最高裁平成8年(行ツ)第236号同11年11月19日第二小法廷判決・民集53巻8号1862頁参照)。 よって,被告が,本件障害認定日及び本件裁定請求日における原告の障害の状態が障害等級3級に該当しない旨主張して,本件処分が適法である旨主張することは許されるというべきである。 |
10 |
①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
2020年 1月15日東京地方裁判所判決 |
うつ病 |
厚生 |
H5.11.19 |
平成4年4月 28日に初めて厚生年金保険の被保険者資格を取得した。 |
H5.11.19 |
昭和59年6月29日 前回傷病(混合性人格障害)の初診日については,神経症の初診日である昭和59年6月 29日とされており,医学的知見に照らして原告の受診内容を見ても,前回傷病の初診日は同日と認められる。 また,神経症,人格障害 (パーソナリティ障害)及びうつ病は,それぞれ他の精神障害と合併等して現れる症状であるところ,原告は,平成5年頃には「抑うつ,不眠,離人症状態」で診察を受け,その後も精神疾患を理由として継続的ないし断続的に通院していて,前回裁定請求の際に 「うつ病」と診断されたと申 し立てていたことなど,前回傷病と本件傷病の受診経過の内容は重複しており,両者の間には同質性がある。 そして,C医師が作成した令和元年9月3日付け意見書 (乙24)によれば,前回裁定請求及び本件裁定請求において提出された医証の内容を検証し,パーソナリティ障害及びうつ病の症状からの検討を加えた結果,本件傷病と前回傷病との間に相当因果関係があるとされている。 したがって,本件傷病の初 診日は,本件傷病と相当因果関係がある前回傷病の初診日である昭和59年6月29日と認められる。 |
C 被告主張の初診日を認定 |
|
2020WL JPCA01 158003 |
⑧裁判所の認定 |
本件傷病と相当因果関係のある前回傷病の初診日である昭和59年6月29日をもって,本件傷病の初診日と認めるのが相当である。 (注:上記に続けて) 前提事実によれば,原告が初めて厚生年金保険の被保険者資格を取得したのは平成4年4月28日であるから,原告は,本件傷病の初診日である昭和59年6月29日当時において,厚生年金保険の被保険者であったとは認められない。 また,そうである以上,原告が20歳に達していなかった昭和59年6月29日当時において,原告が国民年金の被保険者であったとも認められない(国年法7条1項参照)。 したがって,原告は,障害給付の支給要件を満たしていないから,原告に対して障害給付を支給しないとした本件処分は,適法である。 |
|
①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
11 |
2019年 3月5日東京地方裁判所判決 |
両側変形性股関節症 |
厚生 |
平成4年8月 |
平成4年8月前後においては,平成3年 2月21日から平成5年3月21日まで厚生年金保険の被保険者であった |
平成4年8月,A病院におい て,両股関節の痛みを訴えて医師の診察を受け,「臼蓋形成不全」との診断を受けた |
⑴平成4年8月ではない ⑵仮に、平成4年6月8日以降平成5年8月以前の一定の期間に初診日があるとしても、納付要件を満たさない |
A 原告の主張する初診日認定 |
2019WL JPCA03 058012 |
⑧裁判所の認定 |
本件傷病の初診日は,平成4年8月であると認められる (注:なお、加入要件、納付要件も満たす) (初診日認定について)国年法30条1項及び厚年法47条1項にいう「初診日」とは,当該傷病について,初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日をいい,初診日の判断は,原則として,客観的かつ医学的な資料に基づいて行う必要があるというべきである。もっとも,初診日から長期間が経過しているなどの事情により客観的かつ医学的な資料を十分に整えることが困難な場合も想定されるところ,国年法施行規則31条2項6号及び厚年法施行規則44条2項6号は,初診日を明らかにすることができる書類の提出を求めるにとどまり,客観的かつ医学的な資料のみによって初診日を認定することを要求するものではないことをも考慮すると,客観的かつ医学的な資料を十分に整えることができないことにつき合理的な理由がある場合には,可能な限りの客観的かつ医学的な資料に加え,請求人や第三者の供述内容,請求傷病の特性等を総合的に検討して初診日の認定を行うことができるものと解するのが相当である。 |
||||||
12 |
2019年 1月18日東京地方裁判所判決 |
脳出血 |
厚生 |
H24.6.19 |
平成14年4月 1日以降 |
平成24年6月19日(障害認定日までの厚生年金保険加入期間は141月) 成24年脳出血は,平成19年脳出血があったから起こったとも抽象的には評価できるかもしれないが,それがなければ起こらなかったと証明することはできず,平成19年脳出血がなかったとしても発症の可能性がある。よって,平成 19年脳出血と平成24年脳出血を同一傷病とみることはできない。 |
平成19年2月9日(障害認定日までの厚生年金保険加入期間は77月) 平成19年脳出血を発症して,もやもや病と診断されてお り,もやもや病に起因する脳出血であったと認められる。また,平成24年脳出血も,もやもや血管からの出血と診断されており,もやもや病に起因する脳出血であると認められる。したがって,平成19年脳出血と平成24年脳出血は,いずれももやもや病に起因する疾病であり,同一傷病に該当する。 |
C 被告主張の初診日を認定 |
2019WL JPCA01 188005 |
⑧裁判所の認定 |
本件傷病(平成24年脳出血)の初診日は,平成19年脳出血(もやもや病)について初めて医師の診療を受けた平成19年2月9日である 注:なお、以前の裁定請求では、初診日を平成19年2月9日とした厚生年金1級が認められている |
|
①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
13 |
2018年 11月21 日東京地方裁判所判決 |
統合失調症 |
基礎 |
H18.4.14 |
原告の主張する本件傷病に係る初診日 (平成18年 4月14日)において国民年金の被保険者に該当した者であり,当該初診日の前日において,当該初診日の属する月の 前々月までの 1年間(平成 17年3月から平成18年 2月まで)のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の被保険者期間がない |
平成18年4月14日である 平成18年4月14日に,不眠の症状でA医院を受診し,その後,平成25年12月27日に B病院にて統合失調症(本件傷病)との診断を受け,現在までこれに罹患しているとこ ろ,B病院,Cホスピタル及び D病院の診療録によれば,原告には第1子を出産した平成 16年○月○日頃から妄想や幻覚等の症状があったといえることや,統合失調症の場合には不眠が症状として現れることなどからすると,原告がA 医院を受診した際の不眠の症状は,本件傷病との因果関係が認められるものである。 |
平成18年4月14日ではない |
B 原告主張の初診日を否定 加入要件・納付要件への言及なし |
2018WL JPCA11 218003 |
⑧裁判所の認定 |
平成18年4月14日ではない。 A医院において医師の診療を受けていたとは認められないから,原告の主張する同日をもって本件傷病に係る初診日であると認めることはできない。 したがって,本件裁定請求に対し,本件傷病に係る初診日が不明であるとして,障害基礎年金を支給しないとした本件処分は,適法であるというべきである。 |
14 |
①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
2018年 11月 9 日東京地方裁判所判決 |
双極性障害 |
基礎 |
H22.9.18 |
平成22年1月1日,国民年金の第 3号被保険者の資格を取得し,平成 24年8月30日,第3号被保険者となったことに関する国年法12条5項による届出及び同法附則7条の3第2項による平成 22年1月から同年6月までの被保険者期間についての特例届出(以下 「本件特例届出」 という。)を行った(甲2,乙1 7,18)。 なお,原告は,平成22年1月から同年6月まで (同年4月を除 く。)の国民年金保険料を同年6月 27日に,同年4月の国民年金保険料を平成24年4月3日にそれぞれ納付していたが,同年 9月11日,これらの保険料が第3号被保険者としての被保険者期間に係るものであり過誤納額であるとしてその還付を受けた(甲1)。 |
H22.9.18 |
平成22年9月18日とは認められない 本件裁定請求時に提出された資料によれば,原告が,平成 18年7月頃から平成22年9月 18日までの間に,不眠傾向やうつ症状により医療機関を受診し,投薬治療を受けていたと認められるところ,本件傷病(双極性感情障害)は,不眠傾向やうつ症状に起因する疾病であるから,初診日を平成22年9月18日と認めることはできない。 |
A 原告の主張する初診日認定 |
|
2018WL JPCA11 098002 |
⑧裁判所の認定 |
本件傷病に係る初診日は,平成22年9月18日であると認められる。注:なお、納付要件は満たさないとされている |
||||||
15 |
2018年 7月25日東京地方裁判所判決 |
統合失調症 |
基礎 |
H7.5.10 |
20歳前(平成8年に20歳となる) |
平成7年5月10日である |
平成7年5月10日であるとは認められない |
B 原告主張の初診日を否定 |
2018WL JPCA07 258006 |
⑧裁判所の認定 |
平成7年5月10日であるとは認められない 注:なお、障害等級2級に該当しない旨の認定をしている |
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16 |
2016年 5月13日東京地方裁判所判決 |
うつ病 |
厚生 |
H17.5.18 |
平成17年7月1日まで |
平成17年5月18日である |
平成17年9月21日である |
B 原告主張の初診日を否定加入要件を満たさないとの言及あり |
2016WL JPCA05 138006 |
⑧裁判所の認定 |
平成17年5月18日ではない 原告が、平成17年5月18日にA病院で全身倦怠感や頭痛を訴えたことをもって、同日当時、原告が鬱病を発症していたとを医学的に判断することができるものではなく、そのための具体的資料が収集されていたとはいえないから、同日をもって初診日と認めることはできない (注:よって)加入要件を満たさない |
|
①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
17 |
2015年 11月25 日東京地方裁判所判決 |
統合失調症 |
共済 |
H8.7.2 |
平成2年4月 1日,東京都 a区(以下 「a区」という。)の職員となり,被告の組合員の資格を取得し た。 |
平成8年7月2日である |
昭和62年9月25日である |
C 被告主張の初診日を認定 |
2015WL JPCA11 258005 |
⑧裁判所の認定 |
初診日は,A院において初めて医師の診療を受けた日である昭和62年9月25日と認められる。 そして,原告は,平成2年4月1日に被告の組合員の資格を取得したものであり,本件初診日において,被告の組合員ではなかった |
||||||
18 |
2015年 4月17日東京地方裁判所判決 |
網膜色素変性症 |
厚生 |
昭和45年6月 |
昭和37年3月 24日から昭和44年8月3 1日 昭和45年6月 2日から同年 9月26日まで昭和58年3月 1日から昭和 59年8月9日まで |
昭和45年6月 なお、事実経過として、平成 14年に同月を初診日として、障害厚生年金の裁定請求、その後、社会保険庁社会保険業務センターが、初診日は昭和 37年3月(当時20歳未満)であると説明し、平成15年に、同月を初診日として、裁定請求を差し替え、障害基礎年金2級の支給決定を受けた、平成 23年、改めて、昭和45年6月を初診日とする厚生年金の裁定請求を行った。 |
昭和37年3月 なお、既に初診日を昭和36年夏頃とする障害基礎年金の受給権の基礎となった本件傷病と同一傷病について,初診日をこれと異なる昭和45年6月として,重ねて障害基礎年金及び障害厚生年金の支給を求めるものであるところ,一つの傷病に複数の初診日が認定されることはないから,本件裁定請求は重複請求であり,不適法である。 |
A 原告の主張する初診日認定 |
裁判所 ウェブサイト |
⑧裁判所の認定 |
昭和45年6月である。 なお、障害基礎年金の裁定請求と障害厚生年金の裁定請求とは,その請求権の発生根拠を異にする別個の請求であるというべきである。 また、障害基礎年金の裁定請求がされ,それを認める処分がされた後に,当該裁定請求の内容とは両立しない(より有利な)内容の処分を求めるために再度の裁定請求がされた場合については,それが申請権の濫用に当たるものとして許容されず,再度の裁定請求自体が不適法となる場合があり得るとしても,再度の裁定請求の手続において,当初の裁定請求の手続においては提出されなかった新たな資料が提出され,当該資料に相応の価値があることが認められるなど,証拠資料に関して事情の変更があるような場合においては,上記処分が受益処分であることに鑑みると,再度の裁定請求自体が直ちに不適法となるということはできず,行政庁は,再度の裁定請求の内容の当否について判断しなければならないと解される |
19 |
①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
2014年 10月30日東京地方裁判所判決 |
高血圧症に起因する脳出血 |
厚生 |
平成15年1月20日(高血圧症) |
昭和56年4月 1日,厚生年金保険の被保険者資格を取得したが,平成15年3月6日,同資格を喪失し,平成 16年4月1日,同資格を再び取得したが,平成18年3月1日,同資格を再び喪失し,平成 19年12月9日の時点において同資格を有していな かった。 |
平成15年1月20日 本件高血圧症と本件脳出血との間に相当因果関係があり、初診日は高血圧症の初診日である平成15年1月20日である。 なお、先行して、傷病名を脳出血、初診日を平成19年12月9日として、障害基礎年金2級の裁定請求は認められている |
平成19年12月9日である 本件高血圧症と本件脳出血との間には相当因果関係があるとは認められず,本件脳出血は本件高血圧症に起因する疾病とは認められない。 |
A 原告の主張する初診日認定 |
|
判時 2250号 3頁 |
⑧裁判所の認定 |
平成15年1月20日 本件脳出血は高血圧性脳出血であって,本件高血圧症と本件脳出血との間には相当因果関係があると認められるから,本件脳出血は本件高血圧症に起因する疾病であると認めることができる |
||||||
20 |
2014年 8月28日東京地方裁判所判決 |
網膜色素変性症 |
基礎 |
昭和60年7月頃 |
20歳前(昭和47年生まれ) |
昭和60年7月頃 |
昭和60年7月頃ではない |
B 原告主張の初診日を否定 |
2014WL JPCA08 288004 |
⑧裁判所の認定 |
昭和60年7月ではない 当該傷病につき医師等の診察を受けた日をもって障害基礎年金の支給に係る規定の適用範囲を画することとした前記の法の趣旨は,先天性の傷病の場合であっても妥当するし(初診日がいつかによって 20歳前障害基礎年金の支給対象となるか他の拠出制年金の支給対象となるかが異なることとなり,前者の支給停止要件を定めた法36条の3の定め等からも明らかなとおり,前者と後者では異なる仕組みが採られている。),また,先天性の傷病の場合に初診日要件を不要としたり緩和したりする法の規定も存在しないから,先天性の傷病の場合においても,初診日要件を充足することが必要であると解するのが相当である。原告は,本件傷病のような先天性で回復の見込みのない傷病については, 20歳前障害基礎年金を支給するのが制度本来の趣旨である旨主張するが,このような解釈は,既に述べたところに照らして採用できないし,先天性の傷病であることから直ちにその発症日が20歳未 満であるといえるものでもない。 |
|
①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
21 |
2014年 7月31日大阪地方裁判所判決 |
網膜色素変性症 |
厚生 |
昭和62年1月頃 |
昭和58年1 1月21日に株式会社Aに就職し,同社を昭和62年4月21日に退職して厚生年金保険の被保険者の資格を喪失するまでの間,厚生年金保険の被保険者であっ た。原告について,昭和 62年1月の前々月までの 1年間に保険 料の滞納期間はない |
昭和62年1月頃である |
昭和62年1月頃ではない |
A 原告の主張する初診日認定 「初診日要 件」との記載 |
裁判所 ウェブサイト |
⑧裁判所の認定 |
昭和62年1月頃である 原告の網膜色素変性症における初診日は,原告が厚生年金保険の被保険者であった(前記前提事実 (1)ア)昭和62年1月中旬頃であった |
||||||
22 |
2014年 5月23日大阪地方裁判所判決 |
左前頭骨開放骨折後てんかん |
基礎 |
S39.12.1 |
昭和34年1月5日生、昭和56年4月1日,国民年金の被保険者資格を取得 |
昭和39年12月1日である 昭和39年12月1日,P1病院を受診し,その後,左前頭部開放性骨折の手術を受け,昭和54年2月頃,てんかんを発症しているところ,原告は,上記受傷後,初めててんかん発作を起こすまで頭部に大きなけがをしたことはなく,医学的にも開放性の頭部外傷によりてんかんを発症することが比較的多いと認められていること等からすれば,上記受傷とてんかんとの間には優に因果関係が認められる。よって,原告のてんかんに係る初診日は昭和39年12月1日である |
昭和54年2月頃である てんかんが上記左前頭部開放性骨折に起因する疾病であるということはできない。そうすると,原告のてんかんに係る初診日は,てんかんを発症した昭和54年2月頃というべきであり,当時,原告は20歳未満ではなかったから,原告が障害基礎年金を受給するためには,初診日において被保険者等であることが必要であるところ(国年法30条,30条の2),原告は,当該要件を満たしていない |
D 原告主張とも被告主張とも異なる初診日を認定 |
裁判所 ウェブサイト |
8裁判所の認定 |
昭和39年11月30日である 昭和39年11月30日に福知山市内の外科医院において初めて左前頭部開放性骨折について医師の診療を受けているから,同日が原告のてんかんに係る初診日となるというべきである。 |
|
①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
23 |
2013年 3月22日東京地方裁判所判決 |
糖尿病 |
厚生 |
平成7年2月 |
昭和44年4月 1日に株式会社a1に入社し,同社を平成9年7月30日に退職して同月31日に厚生年金保険の被保険者の資格を喪失するまでの間,厚生年金保険の被保険者であった。 |
平成7年2月頃 |
平成7年2月頃ではない |
B 原告主張の初診日を否定、加入要件を満たさないことに言及 |
2013WL JPCA03 228002 |
⑧裁判所の認定 |
平成7年2月頃ではないから、加入要件を満たさない |
||||||
24 |
2013年 2月5日東京地方裁判所判決 |
統合失調症 |
基礎 |
昭和52年8月 |
昭和42年生まれ |
昭和52年8月 |
昭和52年8月ではない |
B 原告主張の初診日を否定、加入要件納付要件に言及なし |
2013WL JPCA02 058007 |
⑧裁判所の認定 |
昭和52年8月頃ではない 昭和52年8月頃に原告がG医師の診療を受けた事実があったとしても,当該診療が統合失調症等についてされたものであったとは認められない |
||||||
25 |
2012年 2月1日札幌地方裁判所判決 |
統合失調症 |
基礎 |
⑴平成11年9月14日 ⑵平成14年9月26日 |
⑴の時点では、20歳前 ⑵の時点では加入要件、納付要件を満たす |
⑴平成11年9月14日 ⑵平成14年9月26日 |
平成13年5月12日である |
C 被告主張の初診日を認定 |
2012WL JPCA02 016005 |
⑧裁判所の認定 |
平成13年5月12日である納付要件を満たさない |
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26 |
2011年 8月23日東京地方裁判所判決 |
膵臓癌 |
遺族厚生 |
H18.1.10 |
平成15年12月15日から平成18年7月 26日までの間 |
H18.1.10 |
平成18年1月10日ではない |
A 原告主張の初診日を認定 |
裁判所 ウェブサイト |
⑧裁判所の認定 |
平成18年1月10日である Cは膵臓癌に起因するとみて矛盾しない症状を訴えてE医師の診察を受け,E医師は,遅くとも平成 18年1月24日の終診時において,そのような症状について被保険者であるCを初めて診察し,か つ,その直接死因である膵臓癌又はこれに起因する嚢胞性病変が終診時に存在していたことを事後的にせよ医学的に判断することができるCT画像という客観的資料を収集していたということができるから,当該終診の日をもってCの膵臓癌又はこれに起因する疾病に関する「初診日」に当たる |
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①裁判日 付 |
②傷病 名 |
③種類 |
④申請にかか る初診日 |
⑤加入期間 |
⑥X(原告)主張 |
⑦Y(被告)主張 |
結論 |
27 |
2010年 6月11日東京地方裁判所判決 |
糖尿病 |
厚生 |
昭和63年11月ころ |
昭和43年10月29日から同年12月31日までの間,昭和61年9月 9日から平成 6年3月21日までの間及び平成12年12月16日から現在まで |
昭和63年11月 |
昭和63年11月ではない |
B 原告主張の初診日を否定 D 原告主 張、被告主張でない初診日を検討 |
2010WL JPCA06 118005 |
⑧裁判所の認定 |
⑴昭和63年11月ではない ⑵本件裁定請求の際のA医師作成の診断書には,糖尿病の初診日が,原告が厚生年金保険の被保険者であった期間内の平成2年である旨記載されていることが認められるので,原告の糖尿病の初診日が平成2年であると認められるかどうかについても検討する。 糖尿病の初診日が平成2年であることを認めるに足りる証拠はない。 原告の糖尿病の初診日が,厚生年金保険の被保険者であった期間内にあることを認めることはできない |
||||||
28 |
2009年 4月17日東京地方裁判所判決 |
両側感音難聴及びメニエール症候の傷病 |
特別障害給付金 |
昭和45年10月 |
昭和45年4月 1日から昭和 49年3月31 日までの間, a大学芸術学部に在学していた |
昭和45年10月 |
昭和45年10月ころであると認めることはできない |
A 原告主張の初診日を認定 |
裁判所 ウェブサイト |
⑧裁判所の認定 |
昭和45年10月である 特別障害給付金法に基づく申請における「初診日」の認定に当たっては,申請の対象となった傷病に関する診療録等,その初診日を直接に証する医師作成の書面が存在しないことから直ちに「初診日」が確定できないと即断することは相当ではなく,診療録等が存在しない理由,申請者の初診日に関する供述の内容,傷病についての受診の経過,現に有する傷病ないし障害の内容などを総合的に判断して,個別的に判断すべきものと解される。 |
||||||
29 |
2008年 10月10 日最高裁判所判決 |
統合失調症 |
基礎 |
昭和54年5月 |
昭和35年3月生まれ |
昭和54年5月頃 |
昭和56年5月27日 |
C 被告主張の初診日を認定 |
裁判集民 229号 75頁 |
⑧裁判所の認定 |
昭和56年5月27日 注:「その初診日において20歳未満であった者」との要件(以下「初診日要件」という。) |
そのうえで、冒頭に述べたとおり、裁判実務において、「初診日それ自体が支給要件となっているかのような記載が当然のようになされている。」のかの整理を行った。具体的には、備考欄に、上記⑥原告主張の初診日を⑧裁判所がそのまま認定している場合には、「A」、上記⑥原告主張の初診日を、裁判所が認定できないとしている場合には、「B」、上記⑦被告が、原告主張の初診日以外の具体的な初診日を主張し、⑧裁判所が被告主張の初診日を認定した場合には「C」、裁判所が、原告主張、被告主張とも異なる初診日を認定した場合又は検討を行っている場合には、「D」と整理した。
「A」であれば、原告主張が認められており何ら問題はない。「C」についても、被告主張の初診日が認定されているものの、特定の初診日が認定され、それに応じて、加入要件、納付要件が検討されており、問題はない。「B」の場合が、冒頭に述べたとおり、初診日それ自体が支給要件となっているかのような認定となっており、本稿で検討するべきものとなる。また、「初診日」に関する裁判における審判対象という点で、原告主張、被告主張とも異なる初診日を認定、または検討を行っている「D」も検討が必要となる。
結果は、別紙のとおり、29件の裁判例中(平成20年最判を含む)、「A」が9、「B」が10件、「C」が7件、「D」が4件であった(なお、27番の判例は、B、D重複とした。)。
「B」がもっとも多いのは、初診日それ自体が支給要件となっているかのような実務的な運用がなされている感覚に沿うものである。
一方で、実際には、裁判例の中で、初診日を「要件」と記載しているものは、ほとんどなかった。初診日「要件」と記載しているのは、平成20年最判であるが、同最判は、「その初診日において20歳未満であった者」との要件(以下「初診日要件」とする)としているところ、21番の裁判例のみ、平成20年最判とは異なる意味で、また、特段の定義づけなく、「初診日要件」と記載している。他方、原告、被告とも、初診日要件という記載を同じく、特段の定義づけなく使用しているもの(「初診日要件」と、原告が主張しているのは、5番、21番、被告が主張しているのは、11番、21番、23番、27番)がある。被告国が、漫然と初診日要件という表現を行うことには、初診日をあたかも要件化するという点からも不適切である、とともに、原告およびその代理人も、支給要件たる加入要件、納付要件と関連付けて主張を行う必要がある。
さらに、このうち、5件(2番、6番、13番、15番、24番)は、加入要件や納付要件に触れておらず、加入要件や納付要件を満たす初診日が認定できる余地が、抽象的には存在するものである(少なくとも、判決文中から否定することができない)。
「初診日」について、申請者がどのように特定し、証明する必要があるか、法令の定め等を確認する。
年金申請を行う者は、請求書を年金機構に提出することになっているが、その請求書には、初診日を記載しなければならず(国民年金法施行規則31条1項第4号、厚生年金保険法施行規則44条1項4号)、請求書には、初診日を明らかにすることができる書類(当該書類を添えることができないときは、当該初診日を証するのに参考となる書類)を添付しなければならないとされている(国民年金法施行規則31条2項第6号、厚生年金保険法施行規則44条2項6号)。
前者は、初診日の特定にかかわるものであり、後者は、初診日の証明(立証)にかかわるものである。
(ア) 初診日の特定について
・初診日が一定の期間内にあると確認された場合の初診日確認の基本的取扱いについて初診日を具体的に特定できなくても、参考資料により一定の期間内に初診日があると確認された場合であって、以下の各場合に該当するときは、一定の条件の下、請求者が申し立てた初診日を認めることができることとする。
①初診日があると確認された一定の期間中、同一の公的年金制度に継続的に加入していた場合について初診日があると確認された一定の期聞が全て国民年金の加入期間のみであるなど同一の公的年金制度の加入期間となっており、かつ、当該期間中のいずれの時点においても、障害年金を支給するための保険料納付要件を満たしている場合は、当該期間中で請求者が申し立てた初診日を認めることができることとする。
②初診日があると確認された一定の期間中、異なる公的年金制度に継続的に加入していた場合について初診日があると確認された一定の期聞が全て国民年金の加入期間と厚生年金の加入期間であるなど異なる公的年金制度の加入期間となっており、かつ、当該期間中のいずれの時点においても、障害年金を支給するための保険料納付要件を満たしている場合は、誇求者申立ての初診日について参考となる他の資料とあわせて初診日を認めることができることとする。
・初診日は、原則として初めて治療目的で医療機関を受診した日とし、健康診断を受けた日(健診日)は初診日として取り扱わないこととする。ただし、初めて治療目的で医療機関を受診した日の医証が得られない場合であって、医学的見地からただちに治療が必要と認められる健診結果である場合については、請求者から健診日を初診日とするよう申立てがあれば、健診日を初診日とし、健診日を証明する資料(人間ドックの結果など)を求めた上で、初診日を認めることができることとする。
・資料により初診日のある年月までは特定できるが日付が特定されない場合には、保険料の納付要件を認定する時点や遺族年金における死亡日の取扱い等を踏まえ、当該月の末日を初診日とする。ただし、当該月に異なる年金制度(国民年金と厚生年金など)に加入していた場合については、当該月の月末を初診日とはしない。
・診察券や医療機関が管理する入院記録等により確認された初診日及び受診した診療科については、請求傷病での受診である可能性が高いと判断できる診療科(精神科など)である場合には、それらの参考資料により初診日を認めることができる。また、診察券や入院記録等だけでは請求傷病での受診である可能性が高いと判断できない診療科(内科など)の場合であっても、診察券や入院記録等で初診日及び受診した診療科が確認できたときは、誇求者申立ての初診日について参考となる他の資料とあわせて初診日を認めることができる。ただし、他の傷病による受診であると明らかに推認できる場合は認めないこととする。
(イ) 初診日の証明について
・請求者の申立てに基づき医療機関が過去に作成した資料の取扱いについて請求の5年以上前に医療機関が作成した資料(診療録等)に請求者申立ての初診日が記載されている場合には、初診日と認めることができることとする。また、当該資料が、誇求の5年以上前ではないが相当程度前である場合については、請求者申立ての初診日について参考となる他の資料とあわせて初診日を認めることができることとする。ただし、この場合に参考となる他の資料としては、診察券や入院記録など、請求者の申立て以外の記録を根拠として初診日を推定することが可能となる資料が必要であり、請求者又は請求者の家族等の申立てに基づく第三者証明は含まれないものとする。
・初診日が一定の期間内であると確認するためには請求者が提出する参考資料により判断することとなるが、参考資料の例としては、以下のようなものが考えられる。
①一定の期間の始期に関する資料の例
□請求傷病に関する異常所見がなく発病していないことが確認できる診断書等の資料(就職時に事業主に提出した診断書、人間ドックの結果など)
□請求傷病の起因及び当該起因の発生時期が明らかとなる資料(交通事故が起因となった傷病であることを明らかにする医学的資料及び交通事故の時期を証明する資料、職場の人間関係が起因となった精神疾患であることを明らかにする医学的資料及び就職の時期を証明する資料など)
□医学的知見に基づいて一定の時期以前には請求傷病が発病していないことを証明する資料
②一定の期間の終期に関する資料の例
□請求傷病により受診した事実を証明する資料(2番目以降に受診した医療機関による受診状況等証明書など)
□請求傷病により公的サーピスを受給した時期を明らかにする資料(障害者手帳の交付時期に関する資料など)
□20歳以降であって請求傷病により受診していた事実及び時期を明らかにする第三者証明
平成27年通知に加える形で、
「20歳前に初診日がある障害基礎年金の請求で、障害認定日が20歳以前であることを確認できた場合の取扱いについて20歳前に初診日がある障害基礎年金については、障害認定日が20歳に達した日以前である場合は、障害の程度を認定する時期は一律に20歳となる。このため、2番目以降に受診した医療機関の受診した事実を証明する資料に記載された当該医療機関の受診日から、障害認定日が20歳以前であることを確認でき、かつ、その受診日前に厚生年金等の加入期間がない場合には、初診日の医
証を追加で請求者に求めずとも、20歳前の期間で請求者が申し立てた初診日を認めることができることとする。」とされた。
通達の意義の一点目は、初診日の証明の方法である。初診日に作成されたカルテがない場合に、初診日の記載がある現存する最も過去のカルテを資料とすることができるのは、請求の5年以上前に医療機関が作成した資料に限られる(平成27年通知第3・1)[2]、第三者証明が認められる場合等を明らかにしたことである。
二点目に、初診日の特定の程度を「緩和」し、加入要件、納付要件を満たす場合に、初診日のある「期間」が証明されれば良いとした点である。
初診日の特定と証明の方法について、上記のとおり通知したことについて、国は、その趣旨を「傷病の発生・受診から相当の期間を経て重症化する疾病により請求する事例が増え、初診目を特定できず障害年金を受けられない事案も生じ大きな課題となっています。このため、初診日証明の考え方を改めて整理し、初診日を確認できないという理由で障害年金が不支給となる事実が少なくなるよう、初診日証明の取扱いが見宣されることとなりました。」[3]と説明する。
このように、平成27年通知は、初診日の証明の方法について定め、特定の方法について、「緩和」をした。
初診「日」というピンポイントの時点でなく、初診日が含まれる「期間」という幅を持たせた特定であっても、「初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」という初診日の定義上、審査庁による審査が可能である。その定義上、初診日といえる受診は、必ず存在し、かつ一回しかない。特定の傷病に関する初めての診療は一回しかなく、裁定請求に際し、医師による診断書が作成されているから、請求傷病にかかる受診は最低でも、一度は存在する。
平成27年通知は、初診日の持つ機能を超えて、初診日そのものが立証命題かのようになされていた実務に歯止めをかけるものであると理解できる[4]。
国年法、厚年法が、加入要件、納付要件、障害要件のいずれについても、初診日を基準とする考え方をとるのは、述べたとおりである。国の説明では、年金制度は社会保険制度であり、あらかじめ保険事故に備えて保険料を納付し、保険事故が生じた場合に給付を行う、という原則の下で成立している、このため、保険事故の発生時点に加入する制度の保険料納付状況を元に、給付を行う仕組みを取っている、この保険事故の発生時点の確認に当たって、障害の原因となる傷病の発生時点を一義的に判断することは技術的に困難であり、客観的に把握できる「初診日」をもって保険事故の発生時点としている[5]、とする。
上記の論は、障害年金制度が、社会保険制度を原則とする以上、基準日時点における保険料の滞納による無年金者の存在は、やむをえないものと考えられやすい[6]。また、保険料滞納による無年金者への年金の給付は、保険料を支払ってきた者からの年金制度への信頼感を揺らがすことにつながりうる[7]。
もっとも、基準日を初診日とすることは、論理必然ではないし、国民の年金に関する情報の不足等の実態から[8]、短期間の保険料の滞納であったり、加入保険の変更による受給額の減少であったり、ペナルティとして非常に重い[9]。
実際に、障害年金制度のうち、20歳未満の時に初診日がある者については、無拠出性の給付が認められており、この点で、保険原理は貫徹されていない[10]。また、ドイツ、フランス、スウェーデンの諸外国では、初診日を保険事故の発生時点とする考え方はとられておらず[11]、初診日を基準とすることの必然性はない。
また、保険料の未納者について、2020年度末を基準として、過去2年間に保険料が未納であった期間がある人は320.2万人で、第1号被保険者全体の22.4%を占めており[12]、過去2年間に保険料未納がある人の割合を年齢別にみると、20歳代半ばから30歳代半ばが30%前後で、20歳代前半や高年齢層に比べて高かった。しかし、これを人数でみると、20歳代半ばから30歳代半ばにかけての各歳の未納者数はむしろほかの年齢層より低かった。第1号被保険者全体の18.6%を占める20~22歳は、未納者全体の11.4%(36.5万人)を占めていた[13]。未納期間があれば、初診日によっては、障害無年金となるのであり、上記の数の者が無年金となる可能性を示している。
上記の初診日の規定ぶりや、解釈を前提に、初診日が影響をして、無年金となる場合は以下のようになるものと思われる。
①初診日の特定、証明が困難によって生じる無年金
初診日が、相当程度古くて、カルテ等が残っていないこと等により、またはそのほかの理由により、初診日の特定ないし立証ができない場合がある。特定ないし立証ができないということには2通りの意味があると思われる。厚生年金加入期間中の初診日が認められない場合、厚生年金や国民年金の納付要件を満たすような日、期間での初診日が認められない場合と、上記裁判例で見たとおり、文字通り、初診日の特定、証明ができていないことのみを理由として、不支給となる例である。前者は、要件そのものの問題であり、やむをえない部分もある(なお、以下5では、初診日を基準とする制度そのものについても検討する。)。一方、これまで見てきたように、後者は、現行制度を前提としても、問題がある。後者の問題を避けるために、複数の初診日を予備的に主張することは、実務上も多くなされていることかと思う[14]が、このような初診日を複数主張することに対する国の対応の可否について、下記4で検討する。
②加入要件と納付要件の基準日を「初診日」としていることから生じる無年金
障害厚生年金における加入要件、納付要件、障害基礎年金においても、納付要件を満たさない場合(加入要件が問題となる場合もある。)には、支給がなされない。年金の未納率が上がれば、障害基礎年金の受給率が下がることとなる[15]。なお、納付要件は特例により、初診日の属す月の前々月までの1年間だけ滞納がなければよいと緩和されている。上記①との比較でいえば、仮に初診日の証明が自身の申告通り(事実通り)認められたとしても、現行の運用では支給がなされないパターンである。
この点、百瀬優「公的年金制度の所得保障機能・所得再分配機能に関する検討に資する研究(21AA2008) 障害厚生年金の被保険者要件の見直し」においては、厚生年金に関し、初診日と加入要件、納付要件の関係で、無年金となる3つのケースが説明されている。
-1 発病日が厚生年金保険の被保険者期間中にあったが、初診日が退職後(被保険者資格喪失後)になったケース
-2 厚生年金保険の被保険者であった者が、一時的な離職期間中や転職活動期間中などに傷病を負い、初診日がそれらの期間中になったケース
-3 長期間にわたって厚生年金保険料を納付していたが、初診日が退職後(被保険者資格喪失後)になったケース
上記説明は、障害厚生年金に関する記載であるが、障害基礎年金においても、20歳後に未納が続いた場合、20歳前に発病があるが、初診日が20歳後であるような場合には同様の問題が生じると思われる。
「初診日」を発病日と解釈する場合には、1や20歳前の発病等は救済されることになるが、下記5では、上記「百瀬・障害厚生年金の被保険者要件の見直し」に引用されるような諸外国の制度設計等も考慮しながら、上記ケースに支給がなされるような制度設計を検討する。
これまでみてきたように、法令上、初診日は、「障害の原因となった傷病にかかる初診日において、国民年金又は厚生年金保険の被保険者等であったこと」という加入要件と、初診日の前日において納付要件を満たしていることを確認する日にすぎず、初診日を特定することは受給権発生の要件ではない。そのため、裁定請求が却下された場合や審査請求の段階では、初診日そのものではなく、加入要件と納付要件がどのように満たされていないか、確認をするべきである。当然、国は、理由提示に関する要件不充足について、理由の提示義務を負うのであり、その場合には、要件である加入要件と納付要件の不充足を説明するべきである。この点、「初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱い」Q&AのQ20では、「一定の期間」による納付要件確認の結果、納付要件を満たさない時期があった場合、処分理由はどうなるのか。また、処分通知に始期と終期を明示する必要はあるのか。」という問いに対して、単に「初診日を確認することができない」ことを理由として示せば足り、処分通知に、審査過程である始期と終期を示す必要はないとする。しかし、処分の名宛人に対し、不服の機会を与えるとう理由付記の趣旨からすれば、誤りであるし、こういった記載ぶりからも、国が、初診日そのものを立証命題かのように運用する実態をみてとることができる。
初診日と認められる受診は、必ず存在し、かつ一回しかない。申請者が特定した申請日を初診日と認定できないのであれば、その理由を具体的に、示すべきである[16]。
具体的には、いくつかの類型が考えられる。
① まず、国が、申請者の診療情報をすべて把握しているわけではないが、申請者から提出された資料の中から、申請者が特定した初診日(又は期間)とは異なる初診日の認定の可能性があり、当該初診日であれば、加入要件や納付要件を満たす場合には、それを示すべきである。実際に、国は、別紙18番の裁判において、「初診日において厚生年金保険の被保険者であったとして,事後重症による障害基礎年金及び障害厚生年金の裁定請求がされた場合において,初診日が厚生年金の受給要件を満たさないが,初診日が国民年金の被保険者期間中であるか,あるいは20歳前であり,障害基礎年金については受給要件を満たすと認められたときは,当該裁定請求を却下した後に改めて障害基礎年金の裁定請求をさせるのではなく,当該裁定請求を障害基礎年金の裁定請求に差し替えるよう求める取扱いがされている。」と述べ、上記のような取り扱いがなされていることを認めている。なお、18番の事案は、このような取り扱いによって、かえって請求者に不利な結果となった事案であるが、説明義務違反について、判断はなされていない[17]。
これらの説明義務、理由提示義務は、申請受理段階における窓口における説明義務(裁定替えを促す等)と、却下処分時の理由時提示義務の2つの時点での義務が観念できる。
② 次に、申請者が特定した初診日(又は期間)外に、初診日がある可能性があると考え、その場合には加入要件や納付要件を満たさない場合(上記Q&AのQ20が想定する場面)である。その場合でも、国は、初診日が認められないことを理由に裁定請求を却下するのではなく、国が考える初診日であれば、加入要件や納付要件を満たさない(可能性がある)ということを理由に却下するべきである。そうすることにより、請求者としては、審査請求や取消訴訟において、国の考える初診日は、原告としては認められないという主張の根拠資料の精査等を行うことができる。
③最後に、申請者が特定した初診日(又は期間)について、国が、立証が不十分で、認定することができないと考え、また一方で他の初診日の可能性も見出すことができない(見出すことをしない)場合である。まず、初診日自体が立証不十分であるとしても、いずれの期間においても、加入要件や納付要件を満たすような場合には、支給決定を行うべきである。平成27年通知による初診日が存在しうる期間の特定で足りるとする運用を徹底するべきである。[18]
そのうえで、他の初診日の認定可能性すら見出せないにもかかわらず、申請者が特定した初診日(又は期間)を認定できないというのは、初診日が必ず1回は存在する(存在するかしないかわからないものではない)ことからすれば、観念しえないか、かなり限定的な場合であると思われる。少なくとも、請求者の特定した初診日以外の初診日の認定可能性については、国において慎重に判断するべきである。そのうえで、他の初診日の認定可能性についても、明示できないで、かつ申請者が特定した初診日が立証不十分であると考えた場合であっても、単に、初診日が認められないことを理由に裁定請求を却下するのではなく、加入状況や、納付状況からして、加入要件や納付要件を満たさない可能性があるということを理由に却下するべきである。初診日自体が要件ではないことはもちろん、初診日を検討するに際して、必ず加入要件や納付要件と関連して検討することにより、いずれの期間においても、加入要件や納付要件を満たすような場合の、無年金を避けることができる。
なお、上記①について、申請者から提出された資料の中から、申請者が特定した初診日(又は期間)とは異なる初診日の認定の可能性があり、当該初診日であれば、加入要件や納付要件を満たす場合には、それを示すべき、望ましいとして、さらに、国が考える初診日を示す義務があるのかという点について補充したい。
上記の点について、2023年11月8日東京地方裁判所判決(判例集未搭載)は「厚生労働大臣は、障害年金に関する裁定に当たり、請求人が裁定請求書に記載して特定して明らかにした障害年金の支給要件に該当する事実ないしこれと社会通念上同ーと認められる事実について支給要件を満たすか否かを調査し確認して応答する義務を負っていると認められるのであって、請求人が提出した資料からみて請求初診日とは別の日が初診日であると合理的に認定できる場合に請求人に対してその旨の補正等を促すか否かは格別、請求人が主張していない事実についてまで独自に調査して確認する義務を負うものではないと解するのが相当である。」とする。
同じく2023年10月12日東京地方裁判所(判例集未搭載)も、「国民年金法等及び各施行規則等の文言上、裁定権者である厚生労働大臣は、請求書の記載から請求の対象となっている初診日について要件充足性の審査をする法的な義務を負うが、請求者が申し立てた初診日にかかわらず、認定者が提出された資料から認定した初診日に係る年金受給権の存否を判断する法的な義務を負うものではない。」とする。
前者は、原告が、慢性腎不全(以下「本件傷病」という。)により障害の状態にあり、その原因となった糖尿病の初診日が平成6年5月27日であるとして、平成30年8月10日、厚生労働大臣に対し、障害厚生年金の裁定請求をしたところ、 初診日が平成6年5月27日であるとは認められないとして、厚生労働大臣がこれを却下する処分をしたことから、本件処分が違法であると処分の取消訴訟と義務付け訴訟を提起したものである。なお、この訴訟自体は処分の取消しおよび義務付けが認められなかったが、他の初診日を前提とした裁定請求を(複数回)したところ、審査請求段階で支給が認められている[19]。
後者は「原告が、厚生労働大臣に対して障害基礎年金の裁定請求をし、原告の特定する初診日である平成25年12月11日を初診日と認めることはできないとして同裁定請求を却下する旨の処分を受けたところ、同裁定請求に係る裁定の事務を行う権限を有する日本年金機構の職員には、初診日を平成19年9月頃と認定した上で原告に対して障害基礎年金及び障害厚生年金の裁定請求に差し替えるように教示する義務があったことを争う事案である(なお、当初の障害基礎年金却下処分後、平成19年9月頃を初診日とした障害厚生年金の裁定請求を行っており、認められている。)
両裁判例とも、結論として、請求者が申し立てた初診日とは異なる初診日の年金受給権の存否を判断する法的な義務を負うものではないとしている。
ただし、以下の点について注意すべきであると考える。
まず、両裁判例とも、裁定請求の却下処分時の理由提示の不十分さについては何ら判断をしていないことである。争いとなったいずれの処分においても、却下処分の理由について、初診日として申請のあった日を初診日と認めることができないとの理由のみが示されている。これまで示したとおり、初診日自体支給要件ではないのであって、初診日が認められないではなく、国として、(加入要件、納付要件を満たさない)●年●月を初診日と考えるから、却下する、そこまで至らなくても、納付要件、加入要件を満たさないから、という理由を示すべきである。前者の裁判例の事例では、注釈19で示した通り、障害基礎年金であれば、障害者手帳取得時期までのいずれの期間であっても納付要件、加入要件を満たすということであって、「初診日」が認められないなどという理由付けがなされなければ、当初の裁定請求段階で、障害基礎年金の支給を認めることができたのではないかと思われる。後者の裁判例でも、窓口段階でも示唆されたように、他の初診日の可能性があるため却下するとの理由提示がなされるべきであった(後者の事例では実際に、すぐに他の初診日時点での裁定請求を行っている。)。
次に、前者の裁判例においては、申請者が特定した初診日以外について、ただちに判断する義務がないとしたものではない。同裁判例は、「請求人が裁定請求書に記載して特定して明らかにした障害年金の支給要件に該当する事実ないしこれと社会通念上同ーと認められる事実について支給要件を満たすか否かを調査し確認して応答する義務を負っている」としており、社会通念上同一と認められる初診日について、調査確認し、応答する義務を負うとする。ただし、この社会通念上同一という概念について、同裁判例は、単に、「原告が平成6年5月27日に初めて糖尿病について診察を受けたという事実から5年以上ないし16年以上経過した後の事実」と時間の幅のみを考慮して行っている。しかし、別紙裁判例3、7、10、12、17、25、29等は、原告の主張するん初診日とは異なる時点での初診日の認定を行い、しかも10年以上も間があくものもあるのであって、時間的な間隔のみをもって社会通念上同一ではないから、保険者としての国は判断義務を負わない(すなわち、裁判所の審理対象ともしない)とする結論には首肯できない。この社会通念上同一という概念は、後記⑵に述べる処分の同一性と同様に裁判所の審理対象を画するものとして用いられていると思われるので、詳細は後記⑵で述べるが、少なくとも、本裁判例においては、同一傷病による初診日の可能性が原告や被告から示されたのであれば、裁判所において、いずれも審理対象であることを認めたうえで、注記19で記載したような、保険者に正しい決定を促すような迂遠なものにとどめず、直接、他の初診日における受給権を認め、義務付けを認める判決を行うべきであった、と思われる。
最後に、後者の裁判例で示された裁定替えとの関係である。障害基礎年金は国年法、障害厚生年金は厚年法、と根拠法が異なる。後者の裁判例は、「障害基礎年金の給付を受ける権利と障害厚生年金の給付を受ける請求は別個のものであるところ、国民年金法施行規則31条4項及び厚生年金保険法施行規則44条3 項は、同一の支給事由に基づく障害基礎年金の裁定請求と障害厚生年金の裁定請求とは併せて行わなければならない旨を定めている。このため、実務上、機構に提出する年金請求臀は、同一支給事由による障害基礎年金等の裁定請求をする場合と障害基礎年金のみの裁定請求する場合とで別のものが用いられている。」ことも根拠として、障害基礎年金の申請後、厚生年金加入期間中の初診日(納付要件も満たす)の可能性があっても、障害基礎年金の申請においては、他制度である障害厚生年金の判断を行う義務はないとしている。この論理によれば、少なくとも障害厚生年金の裁定請求を行っている場合には、同時に障害基礎年金の裁定請求も行っていることになるから、後者の裁判例と異なり(例えば前者の裁判例のように)障害厚生年金で申請をしていた場合に、厚生年金加入期間中に初診日がなくても、国民年金加入期間中に初診日があり、納付要件を満たせば、認定者が提出された資料から認定した初診日に係る年金受給権の存否を判断する法的な義務を負うのではないかと思われる。
ア 審査請求や取消訴訟を進めていくにあたり、国の意図や考えがわかり、異なる初診日での追加の主張を行うことがありうる。
イ 審査請求段階ではあまり問題にならないことが多いかもしれない[20]が、訴訟段階においては、国側から、初診日の追加は認めない、すなわち、「処分の同一性」がないため、追加の初診日の主張は認めないといった主張がなされることがある。この点について、私見を述べる。
「処分の同一性」とは、審判対象たる訴訟物の範囲を画定するものである[21]ところ、取消訴訟における訴訟物の範囲は、処分の違法一般とされる[22]。
そうだとすると、裁定請求に対する却下処分について、原告が違法とするのは、初診日を基準とする加入要件ないし納付要件を満たさないとした判断の違法が訴訟物となる。そのため、前提となる初診日とは、個々の日付ではなく、「対象となる傷病・症状」に応じた初診日(「初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」)となる。
別紙の裁判例の整理で述べた「C」「D」のとおり、裁判所は、原告の特定した初診日や、原告や被告の主張の初診日とも異なる初診日ついて、審理判断もしているのであって、上記の理解が正しい。重複請求について、判断をしている別紙18番の裁判例も、同一年金に関する初診日の異なる請求について、「再度の裁定請求の手続において,当初の裁定請求の手続においては提出されなかった新たな資料が提出され,当該資料に相応の価値があることが認められるなど,証拠資料に関して事情の変更があるような場合においては,上記処分が受益処分であることに鑑みると,再度の裁定請求自体が直ちに不適法となるということはでき」ないとしており、重複請求に当たらない根拠を事情変更に求めている(障害基礎年金の裁定請求と障害厚生年金の裁定請求とは,その請求権の発生根拠を異にする別個の請求である、という同一裁判における判示とは異なる。)。
また、平成27年通知も、上記のような加入要件や納付要件を判断できれば足りるという理解のもと、初診日の特定について、緩和し、初診日が含まれる期間の特定で足りるとしている。
訴訟法的にも、紛争の一回的解決の視点からして、異なる初診日の訴訟段階における追加が認められるべきである[23]。
さらに、より充実した審理を行うためには、より積極的に審理の段階で、初診日(を基準とした加入要件、納付要件)について、国が説明を行うべきである、といったことが言えないか。[24]
一般論として、処分を行う行政庁には、被処分者に対する、処分に関する調査義務、説明義務があるところ、取消訴訟段階においても、これらの義務が存在する(行政事件訴訟法23条の2は訴訟上の説明義務が具体化されたものといえる) 。
初診日は、必ず1回存在するという性質を持つのであって、行政処分の前提たる裁定請求がなされている以上、初診日がないということはありえない。4⑴で述べた①から③の事情について、訴訟段階でも明らかにするべきであるということは異ならない。
特に、③申請者が特定した初診日(又は期間)について、国が、立証が不十分で、認定することができず、また他の初診日の可能性も見出すことができない(見出すことをしない)場合について、他の初診日の認定可能性すら見出せない(指摘しない)にもかかわらず、申請者が特定した初診日(又は期間)を認定できないというのは、初診日が必ず1回は存在する(存在するかしないかわからないものではない)ことからすれば、実際には多いものではないと思われる。しかし、実際には、本稿で繰り返し述べているとおり、国が、初診日の証明がないことを理由に、裁定請求の却下(およびそれを追認する裁決、判決)が多く存在する。
この点、立証責任が給付を求める原告側にあることは前提とした[25]うえで、初診日に関する、国の応訴態度をもって、主張ができないか。
第一に、最判平成4年10月29日(民集46巻7号1174頁 伊方原発判決)を基にすることが考えられる。同判決は、「被告行政庁の側において、まず、・・・具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認される。」とし、裁量処分において、適切に裁量権を行使する前提として、国側が調査検討を行う義務を負い、それら根拠について、主張、立証を尽くさない場合に、事実上の推定というロジックを用い、原告が立証責任を負う不合理性を認めたものである。
事実上の推定は、様々な場面で用いることができ、裁量権行使の場面に限られるものではない[26]。初診日のように、必ず一度あり、かつ一度しかないにもかかわらず、他の日時の可能性を示さず、単に、初診日の証明が足りないという反論しか行わない態度をもって、原告主張の初診日が事実上推定されるということも可能ではないかと思われる。
第二に、裁判所が初診日を認定できる水準(証明度)は、場合によって異なるといえないか。初診日の立証が困難な場合というのは、初診日から、相当の時間が経過しての申請の場合に顕著である。この場合に、平成27年通知は、第三者証明によっても認定できるとし、別紙11番の裁判例も、平成27年通知を前提としつつ、「初診日から長期間が経過しているなどの事情により客観的かつ医学的な資料を十分に整えることが困難な場合も想定されるところ,国年法施行規則31条2項6号及び厚年法施行規則44条2項6号は,初診日を明らかにすることができる書類の提出を求めるにとどまり,客観的かつ医学的な資料のみによって初診日を認定することを要求するものではないことをも考慮すると,客観的かつ医学的な資料を十分に整えることができないことにつき合理的な理由がある場合には,可能な限りの客観的かつ医学的な資料に加え,請求人や第三者の供述内容,請求傷病の特性等を総合的に検討して初診日の認定を行うことができるものと解するのが相当である。」と、客観的かつ医学的な資料を十分に整えることができないことにつき合理的な理由がある場合には、初診日の認定の水準(証明度)が低くなることを想定している。
上記に、前記の伊方原発訴訟判決でも、述べられた、被告における調査義務を加えることにより、被告において調査義務を尽くさない、または主張立証を尽くさない場合[27]には、初診日の認定の水準(証明度)が低くなり、原告の特定した初診日が認定できる、といえないか。
以上の通り、ここでは、訴訟上の主張として、上記2点の視点で、初診日の証明に関する説明を試みたものである。
本稿では、制度設計については、ごく簡単に触れるにとどめることとする。
⑴ 初診日の概念を大きく変更する方向
百瀬優「公的年金制度の所得保障機能・所得再分配機能に関する検討に資する研究(21AA2008) 障害厚生年金の被保険者要件の見直し」は、「保険原理を重視して、障害厚生年金の被保険者要件については、見直しの対象外とすることも 1 つの選択肢」であるという。逆にいえば、保険原理を重視せず、納付要件や加入要件を厳格に考えない、さらに言えば、少なくとも、(無拠出制も一部存在する)障害基礎年金については、保険原理から切り離し、すべて無拠出性とするような制度設計もありうるだろう。
⑵ 初診日概念の変更はせずに、加入要件や納付要件を緩和する方向性
同じく、百瀬優「公的年金制度の所得保障機能・所得再分配機能に関する検討に資する研究(21AA2008) 障害厚生年金の被保険者要件の見直し」は、①案として、「厚生年金被保険者資格喪失後も、喪失後一定期間内に初診日がある場合は、被保険者要件を満たすものとして、障害厚生年金を支給する」 という方向性、②案として、「厚生年金保険料を一定期間以上納付していれば、初診日が厚生年金被保険 者資格喪失後であっても、被保険者要件を問わずに、障害厚生年金を支給する」という方向性を示している(いずれの案でも、障害厚生年金の支給に当たっては、現行の保険料納付要件や障害要件を満たすことを前提としている。)。
なお、私見として、学生期間の未納が多いことからすれば、学生部分については、納付要件を緩和することにより(思い切っていえば納付を一切していなくても)、20歳未満の障害年金受給の延長として、障害要件さえ認められれば、支給を認めてよいのではないかとも思う(収入が少なく年金に関する意識の薄い学生らにおける、19歳と20歳とで優位な差があるといえるのか疑問である)。
⑵ 初診日の特定の見直し
本稿で主に検討してきたように、初診日そのものは、年金支給の要件ではなく、加入要件や納付要件の基準となるものである。そして、現在では、平成27年通知が緩和しているように、一定の場合には、初診「日」ではなく、初診日が含まれる期間を特定することで良いこととなっている。
このように、加入要件や納付要件を充足する「期間」の特定で足りるとすることこそ、初診日そのものが要件とはなっていなことから導かれる原則論であって、申請者にも過重な負担を負わさない。また、懸命に納付を続けてきた申請者であれば、初診日が問題とはならないこととなり、利益を享受させやすい。そうであれば、平成27年通知のように、例外的に初診日が含まれる期間の特定でよいとするにとどまらず、原則、初診日が含まれる期間の特定でよく、納付や加入が飛び飛びとなっているような場合に、例外的に、加入要件や納付要件が認められる日時をピンポイントでの特定が必要ということにするべきではないか。その場合には、通知等の解釈基準で足りるとするものではなく、法令で定めるべきである。
初診日に関して縷々述べてきたが、初診日そのものは、年金受給要件となっていないことは間違いがない。国側が申請者が特定しない初診日について、判断する義務をどこまで負うかという問題や初診日自体をどのように捉えるか、設計するかという問題についての議論の前提を示したつもりであるが、初診日そのものは、年金受給要件となっていないことを保険者である国、および申請者側の代理人、裁判所等年金に関係する当事者らが改めて認識することによって解決する問題も多いのではないかと感じている。加入要件、納付要件、障害の程度要件を満たしているにもかかわらず、初診日が特定、証明できていないからという理由だけで、支給が認められないこと(最終的に認められるとしても、複数回の申請を申請者に強制することも含む)は許されない。東京地判令和5年11月8日判決が示す通り、「厚生労働大臣において、現に障害等級に該当する程度の障害の状態にあり、給付を必要としている原告について、その主張の矛盾のみをとらえて初診日が認定給付できない旨の認定を行うのではな」い、「傷病の発生・受診から相当の期間を経て重症化する疾病により請求する事例が増え、初診日を特定できず障害年金を受けられない事案も生じ大きな課題となってい」ることから平成27年9月以降「初診日証明の考え方を改めて整理し、初診日を確認できないという理由で障害年金が不支給となる事案が少なくなるよう、初診日証明の取扱いが見直されることとな」った経緯( Q & AのQ1 参照) を踏まえ、いずれの時点が本件傷病の初診日と認められるかを原告に示唆して裁定請求書を補正させるなどして、原告が必要な給付を速やかに受けられるような配慮をすることが望ましい対応であった」にもかかわらず、そうなっていないというのが、現時点における申請実務の大きな問題点である。初診日に関する認識を改めて行うことが、適切な障害年金給付のスタートになると感じている。
[1] 百瀬優「社会保険労務士総合研究機構 日本の社会保障制度の理論的背景に関する研究 第5章 障害年金の現状と課題」119頁
[2] 安部敬太「障害年金に関する広報周知と相談対応の現在地 障害年金法ジャーナル 第2号」
[3] 日本年金機構給付企画部「初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いQ&A Q1」(平成27年9月)
[4] もっとも、注3の日本年金機構給付企画部「初診日を明らかにすることができる書 類を添えることができない場合の取扱いQ&A Q15」は、「『一定の期間』に関する取扱いは、初診日を明らかにすることができないことによる却下ができるだけ生じないようにすることを目的としているため、初診日を明らかにするための参考資料をすべて提出していただいてもなお特定できない場合が対象となります。このため、はじめから『一定の期間』を用いた対応はせず、当初提出された参考資料では初診日を認定できなかった場合に、『一定の期間』を特定するための書類をお客様に求めてください。」と、一定の期間、すなわち、加入要件、納付要件を満たす場合であっても、一次的には、初診「日」の特定を求めている。
[5]厚生労働省[年金制度の仕組みと考え方]第12 障害年金 3 障害年金の仕組み(https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_012.html)
[6] 河野正輝「障害法の基礎理論 2020年 法律文化社」230頁
[7] 百瀬優「障害年金の制度設計 2010年 光生館」200頁
[8] 河野正輝「障害法の基礎理論」230頁
[9] 百瀬優「障害年金の制度設計」200頁
[10] 無拠出性の障害年金の支給根拠として、①20歳前に重度の障害者となった場合は稼得能力を欠き、所得補償の必要性が高い、②親の扶養を受ける程度をできるだけ少なくすることが望ましい、③一方で、国民年金は、20歳未満の国民に国年法を適用しないとしたため、無拠出性の障害年金が必要である、とされる(堀勝洋 年金保険法(第5版) 2022年 法律文化社)454頁
[11]「公的年金制度の所得保障機能・所得再分配機能に関する検討に資する研究(厚生 労働科学研究・令和4年度)」のうち、福島豪「ドイツにおける障害年金の仕組み」、永野仁美「フランスにおける障害者所得保障制度」、中野妙子「スウェーデンの障害年金制度」を参照。
[12]「公的年金制度の所得保障機能・所得再分配機能に関する検討に資する研究(厚生 労働科学研究・令和4年度)」のうち、大津唯「国民年金保険料の納付状況に関する「匿名年金情報」の集計 」
[13] 注10大津唯「国民年金保険料の納付状況に関する「匿名年金情報」の集計 」
[14] 予備的な初診日を主張し、障害厚生年金と障害基礎年金の同時請求を行うことも認められるが、このような同時請求は認められないという運用をしていた時期もあった(安部敬太「障害年金に関する広報周知と相談対応の現在地 障害年金法ジャーナル第2号」)。
[15] 国民年金の未納率については、注10でも引用した大津唯「国民年金保険料の納付 状況に関する「匿名年金情報」の集計 」を参照。
[16] 行政窓口を訪れた特定の受給資格者に対して担当行政職員として行うべき教示・援助義務について、嘉藤 亮「障害年金法における情報提供義務 障害年金法ジャーナル第2号」を参照
[17] 初診日の証明に関し、名古屋高裁金沢支部判決令和3年9月15(判時 2542号43頁)日は、説明義務や情報提供義務という表現は用いていないが「誤った法令の解釈に基づいて…裁定請求権 の行使を妨げたものとして、国家賠償法上違法であり、かつ、そのことにつき過失もあるとの評価を免れない」としている。
[18] 本稿の執筆にあたり、年金申請の代理業務を多く扱う社会保険労務士の方にご意見を伺ったところ、いずれの期間においても、加入要件や納付要件を満たすような場合であっても、例えば、国民年金にはいずれの期間も加入し、納付も欠けることなく行っている場合であっても、障害厚生年金と同時に請求している場合に、障害基礎年金の支給さえ認めないということがある、平成27年通知を前提とする初診日の期間の特定を認めない運用が多いとの指摘を受けた。
[19] 本判決も、「原告は・・・身体障害者等級表による級別を「1級」、障害名を「腎機能障害( 自己身辺生活活動制限)」とする身体障害者手帳の交付を受けているのであって、同手帳の交付に至るまでのいずれかの時点において、本件傷病に係る客観的な初診日が存在していることが強く推認される。また、原告が自己の主張の直接の裏付けとなる医療記録を提出することができないことについては、やむを得ない面もあるし、被告自身も、クリニックにおける受診状況等証明書によれば、原告は平成1 7年頃には糖尿病の治療をしていたなどとして、平成21年3月18日以前に初診日があることを前提とした主張をしている、さらに、原告が保険料納付要件を満たすことについては、間題がない。厚生労働大臣において、現に障害等級に該当する程度の障害の状態にあり、給付を必要としている原告について、その主張の矛盾のみをとらえて初診日が認定給付できない旨の認定を行うのではなく、「傷病の発生・受診から相当の期間を経て重症化する疾病により請求する事例が増え、初診日を特定できず障害年金を受けられない事案も生じ大きな課題となってい」ることから平成2 7年9月以降「初診日証明の考え方を改めて整理し、初診日を確認できないという理由で障害年金が不支給となる事案が少なくなるよう、初診日証明の取扱いが見直されることとな」った経緯( Q & AのQ l 参照) を踏まえ、原告が受診したことを示す診察券(甲3) 、医師が作成した受診状況等証明書や様々な第三者証明、その他各裁定請求等の過程で提出された資料等を検討し、傷病の性質に関する医学的判断等を総合的に勘案して(本件通知第3の5参照)、いずれの時点が本件傷病の初診日と認められるかを原告に示唆して裁定請求書を補正させるなどして、原告が必要な給付を速やかに受けられるような配慮をすることが望ましい対応であったとも考えられる。現在係属中の再審査請求においては、かかる観点も踏まえて初診日が適切に認定されることが期待される。」として、納付要件、加入要件を満たす初診日が必ずあることを前提に、支給を認める決定をするべきであることを傍論ではあるが示している。
[20] 審査請求に関しては、事実認定について、裁判手続と比較して相対的に緩やかな対応がとられているように思われる。この点は、審査庁がいわゆる現場感を有していること、そして、行政上の不服申立においては適法違法のみならず、当不当についても判断し得ることが影響しているものと思われる、との指摘がある(嘉藤 亮「障害年金法における情報提供義務 障害年金法ジャーナル第2号」)
[21] 「処分の同一性」理由の差替の可否の論点で用いられる(条解行政事件訴訟法第5版 弘文堂 251頁)ことが多いが、審判対象を画するという点でいえば、審判対象たる訴訟物の同一性も処分の同一性により画されるといえる(司法研修所編 改訂行政事件訴訟法の一般的問題に関する実務的研究 154頁)
[22] 条解行政事件訴訟法第5版 弘文堂 242頁
[23] 理由の差替えにおける紛争の一回的解決の視点は、主に、被告の主張制限における文脈で主張されることが多いと思われるが(条解行政事件訴訟法第5版 弘文堂 251頁)、初診日の追加に関しても、同様の問題意識が妥当する。
[24] なお、説明責任とは異なる訴訟上の証明責任の転換まで認めるべきであるという見解もある条解行政事件訴訟法第5版 弘文堂 278頁。であるが、少なくとも、初診日については、その特定について、一次的に申請者側で行わなければ、国側としては、云々、受診記録等の一元化による国のビックデータ管理が実ったとしても、困難である
[25] 社会保障関係の処分取消訴訟における立証責任の転換の可能性について、条解行政事件訴訟法第5版 弘文堂 278頁参照
[26] 条解行政事件訴訟法第5版 弘文堂 284頁
[27] 山本隆司 行政手続及び行政訴訟手続きにおける事実の調査・判断。説明(現代行政法の構造と展開)298頁