厚生労働大臣 殿
「障害年金2025年制度改革への障害年金法研究会からの提言書」
2024年3月6日
障害年金法研究会
障害年金法研究会[1](「当会」)が障害年金法制度改革として国に提言する改善事項は次のとおりである[2]。
1 障害年金の目的の明確化 2 障害年金が憲法25条に基づく生存権保障として障害者基本法の定義する障害者に普く行き渡るようにする。 3 障害認定の改革提案(医学モデルから社会モデルへの改革) 障害年金における「障害認定」は「日常生活または社会参加(就労による稼働活動を含む)に制約のある状態」とする。詳細は後記するとおり。 4 障害により稼働所得がない無年金者を無くすこと 5 初診日の概念を緩和すること 「初診日が特定できない」ことだけを根拠に不支給処分とすることは許されないこと、「社会的治癒」概念の明確化、厚生年金対象者の拡張等含む 6 障害年金における障害者に対する手続的権利の保障の徹底 7 形式審査から実質審査へ転換すること 8 無年金者を無くすための方策の提言 ① 障害基礎年金3級の創設 ② 事後重症請求の支給開始を当該障害等級状態に至った時点とする 9 納付要件の「直近1年間要件」の恒久化 10 神経症、人格障害を障害年金対象外とするとの認定基準の記述を削除すること等今すぐできる認定基準の改訂をすること 11 免除期間の扱いに関する改善 12 国民年金・厚生年金の二制度に基づく請求方法を一本化する等様式の改善 |
目次
二 障害年金における「障害」とは何か。…障害年金の目的の明確化…
1. 障害年金の目的とは何か…障害者権利条約から見えてくる目的
三 障害認定方法の改革提案(医学モデルから社会モデルへの改革)
1. 「初診日が特定できない」ことだけを根拠に不支給処分とすることは許されないこと
五 障害年金における障害者に対する手続的権利の保障を徹底せよ
3. 事後重症請求の支給開始を当該障害等級状態に至った時点とする
八 今すぐにできる現行障害認定基準(障害の程度認定)に関する改革
2. 神経症、人格障害を原則として対象外とするとの記述を削除すること
4. 機能障害を客観的に示すことができない難病やがんについて等級認定が不利とならないようにすること。
国は2025年に年金制度全般を見直し、遺族年金・障害年金等の改革を行う方針を明らかとしている。
しかし、障害年金に対する国の議論はあまり進んでいない。
そのため、当会は2025年改革の機会に、憲法・障害者権利条約等の趣旨に相応しい内容に改革されることを求めて、国に本書を提言するものである。政府はこれを真摯に受け止め、速やかに改革を実施すべきである。
…時代錯誤の認定方法により無年金障害者が大量に放置される現状…
障害年金は、障害のある人の生活を支える憲法に基づく生存権としての基本的権利である。しかし、全国の障害者約1160万2000人[3]のうち障害年金受給者は約223万人に過ぎない[4]。
雇用され賃金を得ている障害者は現在[5]、官庁8万3569人、民間[6]61万3958の合計69万7527人に過ぎない。
上記の障害者数には、障害児・65歳以上で老齢年金を受給している者も含まれているものの、数百万人単位で稼働所得も年金所得もない無年金障害者が大量に存在している現状がある。その理由は現行の障害年金実務が実態と乖離した欠陥だらけの認定基準に基づき「時代錯誤」の認定を続けているからである。
現行の厚生労働省国民年金・厚生年金保険障害認定基準(以下「障害認定基準」)では年金が受給できるためには、1級は「座位も保てず長期安静が必要で日常生活が送れず生活がベッド周辺に限られる」人、2級が「歩くことができず、長期安静が必要で、日常生活に著しい制限があり病院内での生活が病棟内に限られ、家の外へも出られない」人である。
これでは障害年金を受け取ることのできる障害者は終身ベッドや病院内で暮らすべきで、「生涯ベッドから出られない寝たきり障害者だけが障害年金受給者」ともいうべき内容であり、あまりにも現実離れしている。このような時代錯誤の基準が昭和の時代から変わらずに存在している。
「初診日」が証明できずに不支給になる人、働いてわずかな収入を得たばかりに年金が打ち切りになる例、行政窓口で請求書式さえ渡してもらえずに追い返される、請求書を受理しない等の法令違反も日常的に横行する現実がある。
現在、障害年金の請求件数は年間約13万件である。
このうち年約1万件(7.7%)すなわち実に13人に1人という高い率で非該当として却下され、障害年金が不支給とされている[7]。
このような高い却下率は制度と運用に欠陥があるからに他ならない。
現在の障害年金の制度の仕組み、運用が抜本的に改革されるべき必要のあることは明らかである。
本書は2025年改革に向け実現が容易な実践的な提言内容に留めている。
しかし、日本の障害年金の現状が、憲法・障害者権利条約・障害者基本法等に照らして、根本的改革を必要とすることは明らかであり、障害年金を必要とする人に確実に行き届くようにするために、あるべき障害年金制度のための抜本的改革を目指し、いずれ新たな提言を行う予定である。
日本も批准している障害者権利条約には以下の規定がある。
・障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有(1条)
・障害者の固有の尊厳の尊重の促進(1条)
・個人の自律・自立の尊重や社会への完全かつ効果的な参加・包容、無差別等(3条)
・障害者の自立生活・地域社会への包容(19条)
障害年金は、障害者がその尊厳にふさわしい相当な生活を保障される権利を等しく有することを前提として、障害者の自律・自立や社会参加を支え、その生活の安定に寄与することを目的としている。
保護の客体としての障害者像から、権利の主体としての障害者像への実質的転換が求められている。
障害年金は、障害者(身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの[障害者基本法2条])が自律・自立した生活(社会参加活動を含む)を行うために必要な所得を保障するためのものである。
[要保障事由]は、障害に基づく日常生活の制限ならびに稼得活動を含む社会参加活動の制限および社会参加制約により、または社会的障壁により、障害者が尊厳にふさわしい、生き生きとした自律・自立した生活を行うための所得(金銭)が不足し、その補填を必要とする状態(以下「要所得補填状態」)にあることである。
これは内容的には、障害により、
①稼得活動が制限されること、または稼得所得が喪失している状態
または
②日常生活・社会生活に様々な支障があることに対する金銭給付が必要な状態
である。
以上の1,2は、障害年金の目的を障害者権利条約の目的と整合させること及び障害年金の対象障害者を国際的な障害概念を採用した障害者基本法と整合させることを提言するものである。
では現行の障害年金制度は、上記の目的に適った支給がなされ、支給対象者を適切に認定しているだろうか。まず、障害年金の支給対象者がどのような変遷を経てきたかを振り返る。
国民年金法成立当初(1959年)、障害年金の支給対象は身体障害の中でも外部障害のみに限られ、精神障害・知的障害・内部障害(結核等)は除外していた。保険財政面の問題[8]もあったと思われるが、支給対象として、1964年に精神障害が、1965年に知的障害が、1966年に内部障害が加わることで、基本的にすべての傷病が支給対象になったという経緯を辿ってきた。
ところが支給対象者拡大の建前と実態の乖離が長年放置されていた。
すなわち障害年金実務の現実においては、外部障害が支給対象像の中核にあり、精神障害(知的障害を含む)、内部障害が追加されたものの、その認定にあたっては、基本的に機能障害の程度の軽重の判定が支給の可否を左右してきた。
確かに外部障害では「可動域の検査測定値が何%以上」等機能障害の程度は客観的に判定し易く、他の障害では、外部から判定し難い場合は往々にしてある。
しかし、判定し難いことが、障害年金を支給しないことの理由であってはならない。障害者は「その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有」しており、障害年金は障害のあり様が異なっていても、「障害者の自律・自立や社会参加を支え、その生活の安定に寄与す」べく、支給されなくてはならない。
今日に至るまで、障害年金における障害の認定においては、機能障害の程度の確認に偏重し過ぎており、そのことが、支給されるべき障害者に支給されていない結果をもたらしている。
つまるところ、現行の障害認定基準の示す障害認定のあり方は、医学的な機能障害に偏重しており、時代錯誤的かつ致命的に不合理なものになっている。次項では、このことを検証する。
① 関連法令及び障害認定基準の概要と特徴
日本年金機構が毎年度発行する『障害年金ガイド』(以下『ガイド』)では、2級[9]の「障害年金に該当する状態」として以下の記述をしている。
必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害です。 例えば、家庭内で軽食をつくるなどの軽い活動はできても、それ以上重い活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅で、活動の範囲が病院内・家屋内に限られるような方が2級に相当します。 |
障害年金受給対象者の状態像は、せいぜい「家庭内で軽食を作れる程度」に過ぎず、活動範囲は病院内や家庭内に限られるとしている。家の外に出られないほど機能障害が重くない限り2級年金は支給されないという印象である。
この説明文は、障害認定基準の2級の「障害の状態の基本」[10]をまとめたものであり、昭和61年(1986年)当初[11]と変わってはいない。更に遡れば、この「障害の状態の基本」は昭和41年(1966年)の国民年金認定基準で初めて記載され、その時点から今日に至るまで内容的な変更はされていない。そのため現行の障害認定基準は昭和34年(1959年)の国民年金法制定当時の生活状況に依拠したままであり、現在の生活実態とかけ離れ、時代錯誤な内容となっている[12]。
本稿では、障害年金の保険者である国(厚労省・受託組織としての日本年金機構)が障害年金の審査にあたって、障害の程度を検討する際の判断基準としている「障害認定基準」の問題点を指摘する。
まず、法令上は、国民年金法施行令(「国年令」)別表、厚生年金法施行令(「厚年令」)別表第1及び厚年令別表第2に規定されている。2級の障害等級を定める国年令別表では、2級の「障害の程度」を1号から17号に分類している。
表形式でその概要を記したものが、次の<表1>国年令別表における分類(2級の場合)であるが、包括条項である15号では、障害の程度に関し、抽象的な表現にとどまっている。
<表1> 国民年金法施行令別表における分類(2級の場合)
号数 |
障害の状態 |
1~14 |
「両眼の視力がそれぞれ〇・〇七以下のもの」、「両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの」等の外部障害に関する機能障害 |
15 (包括条項) |
前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
16 |
精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの |
17 |
身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であって、その状態が前各号と認められる程度のもの |
次に障害認定基準での障害等級の認定の特徴を次に示す[13]。
<表2> 障害認定基準における等級認定の特徴
障害のあり様 |
障害認定基準における等級認定 |
(1) 客観的 機能障害 |
・欠損部位、検査数値または医学所見等の客観的に確認可能な機能障害によって等級を画することが明示された場合、客観的機能障害の該当性のみで等級認定。(等級と「全般的活動制限・参加制約」(家庭内の極めて温和な活動以上の活動が可能か否か、活動範囲が家屋を超えるか否か、少しは介助が必要か否か、稼得活動が可能かどうか等)とを関連づける記載はない。) |
(2) 客観的に 機能障害の程度が示せない障害 |
・個別基準に記載がないか、記載があっても、客観的機能障害と等級との関係が記載されていない障害が多数ある。この場合、その機能障害の重症度を検査数値または医学所見等で客観的に示せないか、示せても等級との関係が個別基準に記載がないため、稼得活動ができなくても=所得が無くとも、2級と認定されない。 |
(3) 多くの 内部障害や精神障害 |
・等級と全般的活動制限・参加制約との対応関係が記載されている。多くの内部障害の各疾患の個別基準には、2級は検査数値等の客観的な重症度が中等度であり、かつ、軽い家事もできず、時に介助が必要な状態(一般状態区分 ウ)であることが認定の要件であるという例示が掲げられている。 |
<表2>での分析のとおり、障害認定基準における障害認定は、概ね医学モデルに依っている。客観的に機能障害があるのかどうかが重視されており、認定にあたって、活動の制限や参加に関する制約の程度を考慮する場合は、主として身辺の整理や家庭内での活動レベルで等級判定されている。
確かに身体の機能障害により外出するための動作や身辺整理のための動作が外形的にみて困難な場合はある。しかし、障害による「活動の制限や参加に関する制約の程度」は、身体的機能障害により身体的動作がどの程度制約されているかという視点だけで判定することはできない。
例えば、身体的機能障害がない精神に障害がある人においても、引きこもって家屋外に出ることが困難な人はいる。しかし、このような例示が記されている『ガイド』を読むと、家屋外での活動をなんとか行っている人や行おうとしたい人の意欲をかえって抑制することにつながりかねないし、適切な判定は困難である。
厚生労働省(「厚労省」)のHPにおいては、「障害者の自立と社会参加を目指して」というタイトルのある頁にて、「障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念に基づき、障害者の自立と社会参加の促進を図って」いることを標榜している。
障害ある人が自立し社会参加していく上での様々な不安を少しでも軽減し安心して自立や参加をしていくことができるためにも、障害年金は有用である。受給を促すことはあっても、抑制につながることはあってはならない。
現行の障害認定のあり方は、機能障害に偏重した医学モデルに立脚していることを確認してきた。かかる認定方法においては、実際に日常生活や社会生活に不自由さを抱えている障害者でも、機能障害を明らかにできないような場合には、支給されていない実態がある。
2022年9月、国連障害者の権利に関する委員会から日本に対して、総括所見により勧告が出されている。
そこでは「障害認定」…「障害の医学モデルの要素を排除する」とされ、医学モデルに偏重している日本の障害認定の抜本的変革が国際的な要請とされている。障害年金における医学モデルに偏重した障害認定方法を変革することは待ったなしの国際的要請である。
では、尊厳ある生活を送るべく、普く障害年金が支給されるには、どのように障害の認定が行われるのが適切なのであろうか。現行の年金制度は社会保険の制度に依拠して、障害年金の支給要件を定めている。「支給されるべき人に普く障害年金が支給される」には、果たして保険制度に依ることを前提とした制度設計で良いのかという課題もあるが、当提言においては、まずは、支給要件の内、障害認定のあり方について、改革が必要であることを提起する。
改革内容を次項以降に詳しく示す。
障害年金における障害認定方法の当会改革案の要点
日常生活・社会生活上の支障を適切に評価できて、少なくとも障害により稼得所得のない無年金者を無くすことを目指し、障害認定要件の改革を提案する。
心身の機能障害(構造障害を含む、以下「機能障害」)のみならず、機能障害および社会的障壁による、生活活動制限および社会参加制約(稼得活動制限を含む)の程度を的確に判断できる認定基準、認定方法に改める。
機能障害が客観的に示せずとも、稼得活動または日常生活・社会生活に支障が大きい場合には支給対象とする。
認定手続において当事者の希望がある場合は必ず実地調査を行い請求者本人および支援者等による障害状態についての説明の場を確保する。
現行の政令別表のように一部の外部障害を等級表に列挙するやり方は廃止する。
等級表は次のようにそれぞれ1項目として表記する。
等級等 |
障害の状態 |
1級 |
心身の機能の障害および社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)により継続的に日常生活又は社会生活に制限を受けるため、障害者が尊厳にふさわしい、生き生きとした自律・自立した生活を行うための所得が不足し、その補填を必要とする状態(以下「要所得補填状態」)の程度が重度なもの。 すなわち ①稼得活動制限の程度もしくは稼得所得の減退の程度が重度なもの、または ②現状の現物給付としての福祉サービスでカバーしきれない障害による特別の費用の不足の程度が重度なもの |
2級 |
要所得補填状態の程度が中等度なもの。 すなわち ①稼得活動制限の程度もしくは稼得所得の減退の程度が中等度なもの、または ②現状の現物給付としての福祉サービスでカバーしきれない障害による特別の費用の程度が中等度なもの |
3級 |
要所得補填状態の程度が軽度なもの。 すなわち ① 稼得活動制限の程度もしくは稼得所得の減退の程度が軽度なもの、または ② 現状の現物給付としての福祉サービスでカバーしきれない障害による特別の費用の不足の程度が軽度なもの |
障害手当金 |
要所得補填状態の程度が3級に比べ軽度なもの。 すなわち ① 稼得活動制限の程度もしくは稼得所得の減退の程度が3級に比べ軽度なもの、または ② 現状の現物給付としての福祉サービスでカバーしきれない障害による特別の費用の不足の程度が3級に比べ軽度なもの |
なお、【障害手当金】については、現行の一時金ではなく、定期的に3級以上の年金と同様に支給するものと法改正する。
現行認定基準「障害の状態の基本」を以下のとおり、改訂する。
参考までに現行の「障害の状態の基本」と対比させて記載する。
|
現行 |
提言案 |
1級 |
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは、他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものである。 例えば、身のまわりのことはかろうじてできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね就床室内に限られるものである。 |
心身の機能の障害および社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)により継続的に日常生活又は社会生活に制限を受けるため、障害者が尊厳にふさわしい、生き生きとした自律・自立した生活を行うための所得が不足し、その補填を必要とする状態(以下「要所得補填状態」)の程度が重度なもの。 すなわち ① 稼得活動制限の程度もしくは稼得所得の減退の程度が重度なもの、または ② 現状の現物給付としての福祉サービスでカバーしきれない障害による特別の費用の不足の程度が重度なものである。 たとえば、障害および社会的障壁により、就労の機会を喪失しているために稼得所得が喪失している場合、または日常生活活動もしくは社会活動に高度の制限があり、移動、コミュニケーション、人間関係の構築に頻繁に介助または物的・人的援助を要したり、基本的な家事または社会活動のうち全く不可能な活動があり、身辺処理・家事等の日常生活動作に全く不可能な動作があるか、非常に多くの時間がかかるため、介助または援助を要する場合などである。 |
2 級
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身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。 例えば、家庭内の極めて温和な活動(軽食作り、下着程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである。 |
要所得補填状態の程度が中等度なもの。 すなわち ①稼得活動制限の程度もしくは稼得所得の減退の程度が中等度なもの、 または ②現状の現物給付としての福祉サービスでカバーしきれない障害による特別の費用の不足の程度が中等度のものである。 たとえば、障害および社会的障壁により、就労の機会を喪失している、もしくは稼得活動が著しく制限されているために稼得所得が著しく減退している場合、通常の労働者の所定労働時間未満の勤務のみが可能であったり就労のためには援助または配慮が必要な場合、または日常生活活動もしくは社会活動に中程度の制限があり、移動、コミュニケーション、人間関係の構築に物的・人的援助を要したり、連続して長時間の活動(家事または社会活動)が著しく困難であったり、身辺処理・家事等の日常生活動作に通常より多くの時間を要する場合などである。 |
3級 |
労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。 また、「傷病が治らないもの」にあっては、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする。 「傷病が治らないもの」については、第3の第1章に定める障害手当金に該当する程度の障害の状態がある場合であっても3級に該当する。 |
要所得補填状態の程度が軽度なもの。 すなわち ①稼得活動制限の程度もしくは稼得所得の減退の程度が軽度なもの、または ②現状の現物給付としての福祉サービスでカバーしきれない障害による特別の費用の不足状態が軽度のものである。 たとえば、障害および社会的障壁により、就労の機会が喪失または制限されたり、稼得活動が十分にできないことがあったり、時短勤務(通常の労働者の所定労働時間未満の勤務)が必要なことがあったりするために稼得所得が減退している場合、就労を成立のためには援助または配慮が必要なことがある場合、日常生活もしくは社会活動に制限があり、移動、コミュニケーション、人間関係の構築に、物的・人的援助を要することがあったり、連続して長時間の活動(家事または社会活動)が困難なことがあったり、身辺処理・身辺処理・家事等の日常生活動作に通常よりも多くの時間を要することかあったりする場合などである。 |
障害手当金 |
労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする。 |
要所得補填状態の程度が3級に比べ軽度なもの。 すなわち ①稼得活動制限の程度もしくは稼得所得の減退の程度が3級に比べ軽度なもの、 または②現状の現物給付としての福祉サービスでカバーしきれない障害による特別の費用の不足状態が3級に比べ軽度のものである。 たとえば、障害および社会的障壁により、就労の機会が喪失または制限されたり、稼得活動が十分にできないことがあったり、時短勤務(通常の労働者の所定労働時間未満の勤務)が必要なことがあったりするために稼得所得が軽度に減退している場合、就労を成立のためには援助または配慮が少し必要なことがある場合、日常生活もしくは社会活動に制限があり、移動、コミュニケーション、人間関係の構築に、物的・人的援助を要することが少しあったり、連続して長時間の活動(家事または社会活動)が時には少し困難なことがあったり、身辺処理・身辺処理・家事等の日常生活動作に通常よりも時間を要することかあったりする場合などである。 |
各等級は以下の1または2の①〜⑤のいずれかに該当するものである。
1級 |
1.稼得活動制限:障害により就労の機会を喪失している
2.日常生活活動・社会活動の制限(就労以外の活動の制限) ①移動、コミュニケーション、人間関係の構築に頻繁に介助または物的・人的援助を要する。 ②基本的な家事または社会活動のうち全く不可能な活動がある。 ③身辺処理・家事等の日常生活動作に全く不可能な動作があるか、非常に多くの時間がかかるため、介助または援助を要する。 ④物を持ち運ぶことができない。 ⑤複数の障害等により、上記と同程度の日常生活活動、社会活動の制限がある。 |
2級 |
1.稼得活動制限:障害により就労の機会が喪失または制限されている。稼得活動が十分にできない。時短勤務(通常の労働者の所定労働時間未満の勤務)が必要であったり、就労のためには援助または配慮が必要な場合を含む。
2.日常生活活動・社会活動の制限(就労以外の活動の制限) ①移動、コミュニケーション、人間関係の構築に物的・人的援助を要する。 ②連続して長時間の活動(家事または社会活動)が困難。 ③身辺処理・家事等の日常生活動作に通常より多くの時間を要する。例えば入浴や歯磨きに通常要する以上の時間が必要。 ④物を持ち運ぶことが困難。 ⑤複数の障害等により、上記と同程度の日常生活活動、社会活動の制限がある。 |
3級 |
1. 稼得活動制限:障害により就労の機会が喪失または制限されることがある。稼得活動が十分にできないことがある。時短勤務(通常の労働者の所定労働時間未満の勤務)が必要なことがある、就労を成立のためには援助または配慮が必要なことがある場合を含む。
2.日常生活・社会活動の制限(就労以外の活動の制限) ①移動、コミュニケーション、人間関係の構築に、物的・人的援助を要することがある。 ②連続して長時間の活動(家事または社会活動)が困難な場合がある。 ③身辺処理・身辺処理・家事等の日常生活動作に通常よりも多くの時間を要する場合がある。 ④物を持ち運ぶことに通常よりも時間を要する。 ⑤複数の障害等により、上記と同程度の日常生活活動、社会活動の制限がある。 |
障害手当金 |
1. 稼得活動制限:障害により就労の機会が喪失または制限されることが少しある。稼得活動が十分にできないことが少しある。時短勤務(通常の労働者の所定労働時間未満の勤務)が必要なことが少しある、就労を成立のためには援助または配慮が必要なことが少しある場合を含む。
2.日常生活・社会活動の制限(就労以外の活動の制限) ①移動、コミュニケーション、人間関係の構築に、物的・人的援助を要することが少しある。 ②連続して長時間の活動(家事または社会活動)が困難な場合が少しある。 ③身辺処理・身辺処理・家事等の日常生活動作に通常よりも時間を要する場合がある。 ④物を持ち運ぶことに通常よりも時間を要する場合がある。 ⑤複数の障害等により、上記と同程度の日常生活活動、社会活動の制限が少しある。 |
【説明】
1については稼得活動制限により各等級に該当するかどうか、または、2について日常生活活動・社会活動の制限の程度により各等級に該当するかどうかにより、障害の程度を認定する。
1の狙いは、働けないのに障害年金の対象外となっている、客観的に機能障害が示せないがんや難病等の内部障害や精神障害の場合でも支給対象となることを明確化したものである。
2の狙いは、日常生活活動と稼得活動を含む社会活動制限の程度により、等級認定を行うもので、外部障害のみならず、働かざるをえない状況下で就労により病状悪化を来たしている精神障害や内部障害のケースも支給対象となることを明確化したものであり、機能障害により認定される外部障害と、(短時間であっても、または形としては)稼得活動ができているというだけで2級と認定されない内部障害や精神障害という認定のダブルスタンダードの解消を目指すものである。
これらのことにより障害者の日常生活・社会生活上の支障を適切に評価することをめざし、少なくとも障害により稼働所得がない無年金者を無くすことをめざしている。
以下は、制度改革のための議論を活性化するための【叩き台】【ヒント】として示すものであり、当会が提案する一つの試案に過ぎず絶対にこの通りでないといけないという趣旨ではない。建設的な批判を含めて、議論頂きたい。
実際、認定のための基準は、固定的に考えず、実態にあっていないことが判明した場合には絶えずその基準の有効性・妥当性を検証して、迅速に不断の改善を図っていくことが肝要である。
障害認定の方法の試案として、オーストラリアの障害支援年金において1999年頃にテスト的に導入されたWork ability table[14](以下「WAT」)の労働能力を「社会参加(就労、就学、余暇・地域等の社会活動)への制約」に読み替えて、ポイントについても少し補正した「障害認定表(当会試案)」ものを提示する。
現在、同国においては、WATよりも機能障害別に一定シフトしたTables for the Assessment of Work-related Impairment[15]が使用されている。にもかかわらず、WATをベースとした試案を提示する理由は次のとおりである。
①障害の3層を初めて明確に示した1980 年の「WHO国際障害分類試案」(ICIDH)を受けて作成され[16]、機能障害表[17]に代わるものとして提示されたものであること、
②障害種別や障害をもたらす部位別の認定表ではなく、障害種別や障害部位にとらわれない共通の認定表となっていること[18]、
③上記2点と関連するが、部位別や検査数値等では障害状態の程度を示すことができず全身症状による生活全般の活動制限により障害状態を認定することも当項目における表1や表2等により可能となっていること[19]である。
試案において補正した点を説明する。
オーストラリアの障害支援年金は、労働不能との障害状態の認定のほか、稼得活動制限や稼得所得との調整が労働不能の認定とは別に制度的に盛り込まれている[20]ことから、具体的な稼得活動制限を障害状態認定においては行う必要がないと言える。
これに対して、日本の障害年金は稼得活動制限や稼得所得との調整が制度的に盛り込まれていないため、どの程度稼得活動制限があるのか、稼得活動が可能かどうかについて、障害程度認定の中に盛り込む必要があった。
また、オーストラリア障害支援年金に等級区分がないのに対して、日本の障害年金は3等級に区分けしている。これらにより、本試案では補正を行ったものである。
医学的機能障害に偏重した障害認定から、機能障害のみならず、全般的活動制限や社会参加(就労、就学、余暇・地域等の社会活動)への制約を重視した障害認定を行うために、どういう認定方法が取られるべきか。
当会は試行錯誤の上で、議論の起爆剤となるべく、批判を覚悟の上、具体的な試案を提示した。
「国のやることに反対することは簡単だが、対案を示さず無責任」と言われないためでもある。
本来、障害および障害者に関する学識経験者、専門家、認定実務に精通した実務家等が時間を区切って検討すべきものと考える。
当会が2023年6月2日、国に対し「障害年金制度改革専門部会の立ち上げを求める声明」を申し入れたのはこのような議論を進めてもらいたいからに他ならない。
以下の9つの方向からの活動制限・参加制約評価する。
番号 |
評価内容 |
ICF[21] の関連コード |
1 |
規則的な社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)への制約 |
d810-859、 d910-920,950 |
2 |
作業・活動の持続性についての制限 |
d415、 d810-859、 d910-920,950 |
3 |
作業・活動の指示を理解し従うことについての制限 |
d210、220 310-329 |
4 |
社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)の場での意思疎通に関する制限 |
d310-355 |
5 |
社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)の場への移動制限、その場内の移動制限 |
d450-499 |
6 |
作業・活動で物を扱うことについての制限 |
d440、445 |
7 |
社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)の場での行動の制限 |
d710-750 |
8 |
多様な作業課題・活動目標を学び実行することについての制限 |
d155、220 |
9 |
作業・活動で物を持ち上げ、運び、動かすことについての制限 |
d430 |
表1 規則的な社会参加(就労、就学、余暇・地域等の社会活動)への制約
社会参加活動をするためには、スケジュールに従って規則的に参加することが求められる。
この表と特に関連しているのは、例えばぜんそく、てんかん、頭痛といった間欠性の症状や、空間恐怖症や統合失調症 といった精神病的症状である。薬物やアルコールの問題、多発性硬化症やリューマチ、ぜんそく、重い心臓疾患、様々な癌といった病気にも当てはまると思われる。
得点 |
評価内容 |
0 |
障害のため、欠勤・欠席や数時間の遅刻は、平均して月に1 日以下である。 |
25 |
障害のため、欠勤・欠席や数時間の遅刻は、平均して月に2 日~3 日である。 |
45 |
障害のため、欠勤・欠席や数時間の遅刻は、平均して月に4 日以上である。 |
表2 作業・活動の持続性についての制限
障害を持つ人は、様々な理由によって、休憩や支援者の介入なしに作業を続けることができないことがある。
注意障害を持つ人たちは、十分作業に集中することができないことが少なくない。
また、重い退化性の症状、例えばいくつかの呼吸器系の病気、心臓病、関節炎等や、脊髄の機能不全を持つ者は、持久力が問題で作業を続けることができないことが少なくない。
したがって、この表は、一日の活動が障害によって中断される者や、中断されずに持続的には活動できるが、一日7時間または週30時間、作業・活動できない者に適用できる。
0 |
予定外の休憩なしに、一回に90 分以上続けて作業・活動ができる。 |
障害のために、予定外の休憩あるいは支援者の介入が必要になり、一回に90分間続けて作業・活動ができない。 |
|
障害のために、頻繁に予定外の休憩あるいは支援者の介入が必要になり、一回に20分間続けて作業・活動ができない。 |
|
40 |
障害のため、1日7時間または週30時間は作業・活動ができない。 |
70 |
障害のため社会参加、稼得活動がまったくできない。 |
表3 作業・活動の理解とコミュニケーションについての制限
ここでは、知的機能の障害のみに関するものであり、感覚機能の障害や発声障害について述べているのではない。複数段階の指示とは、例えば「まず金属を圧搾機に置き、レバーを回し、ボタンを押し、部品をとって貯蔵箱に入れる」といった指示である。
新しい活動の作業課題の学習が終了した後、作業者が、かなり繰り返さなければ口頭や書式での作業の指示を理解できなかったり、作業課題の指示に従えなかったり、課題の要求水準からかなり逸脱したりすることがありうる。
知的障害や注意障害を持つ者はこの範疇に入ると思われる。
この表は言語能力をテストするものではないので、聴覚障害者は、手話や書字、読唇などに基づいて査定されるべきである。
0 |
1回聞いただけで作業・活動の指示を理解し指示に従うことができ、指示を繰り返してもらう必要がほとんどない。問題なく、複数段階の指示を理解し、それに従って行動できる。 |
20 |
ほとんどの場合、1 回聞いただけで、作業・活動の指示を理解し、指示に従うことができるが、障害のために、時には指示を繰り返してもらう必要がある。複数段階の指示を理解しそれに従って行動するのに、多少難がある。 |
60 |
1回聞いただけで作業・活動の指示を理解し指示に従うことができるのは、2回に1回かそれ以下であり、障害のために、たいがい指示を繰り返してもらう必要がある。複数段階の指示を理解しそれに従って行動するのに、かなり難がある。 |
表4 職場、学校、社会活動の場での意思疎通に関する制限
この表では、請求者の障害が職場で他の人と意思疎通する能力に及ぼす影響力を測る。この表は感覚/発声障害のみに関することであり、認知的要因や言語的知識に関するものではない。
同僚や顧客とうまく意思疎通する能力は、社会活動の場においては基本的なものである。他の人と意思疎通する能力を低下させるようなコミュニケーションの問題には、伝達内容を表現する上での問題や受容する上での問題など幅広い問題がある。
この表は、認知的能力に重きをおいた「仕事の指示を理解しそれに従う能力」の表とは違う。つまり、ある者は自由に意思疎通をする能力が十分にあっても、仕事の指示を理解してそれに従うことはできなかったり、その逆の者もあったりする。
この表は言語能力をテストするものではないので、聴覚障害者は、手話や書字、読唇などに基づいて査定されるべきである。
0 |
社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)の場で容易に他の人と(発話、手話、書字に関わらず言語を用いて) 意思疎通ができる。感覚/発声に関連したコミュニケーション障害があっても、それによって社会参加活動の能率は影響を受けない。 |
20 |
社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)の場で他の人と(発話、手話、書字に関わらず言語を用いて) 意思疎通ができるが、感覚/発声障害によってコミュニケーションのスピードや流暢さはそこなわれている。時には、メッセージを理解できるまで繰り返してもらう必要があり、その結果社会参加活動の能率が低下する。 |
45 |
感覚/発声障害によって、社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)の場で他の人と(発話、手話、書字に関わらず言語を用いて) 意思疎通をするためには、しばしばメッセージを理解できるまで繰り返してもらう必要があり、その結果社会参加活動の能率がかなり低下する。 |
80 |
感覚/発声障害によって、社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)で他の人と(発話、手話、書字に関わらず言語を用いて) 意思疎通することができず、その結果社会参加活動の能率がひどく低下する。 |
表5 社会活動(就労、就学、余暇・地域等の社会活動)の場への移動制限、その場内の移動制限
社会活動の場へ移動し、活動の場内を自由に動き回る能力は、中心的な働く能力であると考えられる。この表は、例えば心臓病、呼吸器系、筋骨格、神経系の病気から派生する障害を持つ人たちや、車椅子やその他移動のための補助具を用いている人たちに当てはまるだろう。
0 |
障害のために制限があると感じることもあるかもしれないが、一人で不自由なく社会参加活動の場へ移動することができ、社会参加活動の場内を動き回ることができる。 |
30 |
一人で社会参加活動の場へ移動することができるが、障害のために移動が制限される状況がある。例えば、かなり無理をしなければ階段を通ることができないといった環境の面でのバリアーがある。そうした状況がなければ、自由に動き回ることができる。 |
障害のために、一人で社会参加活動の場まで移動することができず、他の人の助けがなければ自由に動くことができない。 |
表6 作業・活動で物を扱うことについての制限
多くの作業・活動で、物を扱うことが要求される。ふるえ、感覚の欠損、力や協応性の欠損、形成障害、重度の視覚障害などによる機能障害を持つ人たちに当てはまるだろう。
0 |
多少の不便は感じるかもしれないが、物を自由に扱うことができる。 |
30 |
障害のために、物を扱う際の器用さやスピードは多少低下しており、例えば、スムースに錠に鍵を差し込んだり、ティースプーンでコーヒーに砂糖を入れたりするのは難しいが、ドアの取っ手を回したり、お金を扱ったり、書いたり、キーボードを使ったり、手工具を使ったりすることができる。 |
75 |
障害のために、物を操作する際の器用さやスピードはかなり低下しており、ドアの取っ手を回したり、お金を扱ったり、書いたり、キーボードを使ったり、手工具を使ったりすることができない。 |
表7 社会活動(就労、就学、余暇・地域等の社会活動)の場での行動制限
ここで評価対象となる行動に含まれるのは、社会活動仲間や顧客に対して示される攻撃性、癇癪、頻繁に性的機能や身体的機能に言及すること、過度の感情の不安定性、頑なに社会から引っ込んでしまうこと等、その場にそぐわない攻撃的なコミュニケーション等である。
特定の障害によって、作業の妨げになる行動が生じたり、社会活動の場で他の人たちを悩ませたりすることがあるかもしれない。
0 |
請求者は社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)の場で他の人たちと交流でき、それはほとんどあるいは全く作業自体や作業プロセスに支障をきたさない。 |
30 |
障害に起因する請求者の行動が活動自体や活動プロセスに支障をきたす。例えば、請求者自身の活動や他の人の活動が妨げられることが、1日に少なくとも20 分、週に少なくとも2日おこる。 |
65 |
障害に起因する請求者の行動が作業自体や活動プロセスに非常に支障をきたす。例えば、請求者自身の活動や他の人の活動が妨げられることが、1 日に少なくとも60 分、週に少なくとも2日おこる。 |
90 |
障害に起因する請求者の行動が、請求者自身や他の人たちの安全を危うくしたり、請求者自身の活動や他の人の活動を妨げることが、1日に数時間毎日おこる。 |
表8 多様な作業課題・活動目標を学び実行することについての制限
知的障害、精神障害、あるいは外傷性の大脳損傷による機能障害を持つ一部の人たちが該当しうる。
0 |
複数の課題を学習することができる。そうした課題をマスターすることで、社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)の場の要求に応じて容易に、課題を同時あるいは順次に「行うのに必要な時間や空間を準備、着手、調整し、それらの課題を管理し、遂行する」(以下「遂行する」)ことができる。 |
40 |
複数の課題を学習することができるが、障害が原因で、課題を同時あるいは順次に遂行する必要があると、混乱したり、落ち込んでしまったりする。 |
60 |
複数の課題を学習することができるが、障害が原因で、課題を同時あるいは順次に遂行することができない。 |
80 |
課題を学習することができない。 |
表9 作業・活動で物を持ち上げ、運び、動かすことについての制限
物を持ち上げ、運び、移動する能力は、多くの社会活動の場で一般的に要求されることの一つである。しかしながら、この表は、手で動かして処理する社会活動に参加している人たちだけに適用されるように考えられているわけではない。物を持ち上げ、運び、移動する能力は、関節炎や関節不安定性、背中の損傷、平衡感覚の失調等に起因する機能傷害によって影響を受けるかもしれない。また、移動のために補助具を用いている人たちも物を持ち上げたり、運んだり移動したりすることができないこともあるかもしれない。
0 |
作業課題・活動目標と関連して、社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)で物を持ち上げ、運び、移動することが、自由に、ほとんどあるいは全く制限なしに可能である。 |
30 |
作業課題・活動目標と関連して、社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)で物を持ち上げ、運び、移動することができるが、障害が原因で、スピードや協応性の少なくともどちらかが低いか、あるいは(例えば、別の場所に箱を運ぶのに平均の数倍の時間がかかるというように) できたとしても困難である。 |
障害が原因で、社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)で物を持ち上げ、運び、移動することができない。 |
9つの表の評価を下記表に当てはめ、
80ポイント以上は1級、
60ポイント以上の場合に2級、
59〜40ポイントの場合に3級
と評価する。
|
プラスの評定を付けられた表の数(No.>0) |
||||||||||
0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
||
9つの制限に関する評定のうちの最高得点 |
0 |
0 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
20 |
- |
28 |
36 |
44 |
52 |
60 |
68 |
76 |
84 |
92 |
|
25 |
- |
32.5 |
40 |
47.5 |
55 |
62.5 |
70 |
77.5 |
85 |
92.5 |
|
30 |
- |
37 |
44 |
51 |
58 |
65 |
72 |
79 |
86 |
93 |
|
35 |
- |
41.5 |
48 |
54.5 |
61 |
67.5 |
74 |
80.5 |
87 |
93.5 |
|
40 |
- |
46 |
52 |
58 |
64 |
70 |
76 |
82 |
88 |
94 |
|
45 |
- |
50.5 |
56 |
61.5 |
67 |
72.5 |
78 |
83.5 |
89 |
94.5 |
|
50 |
- |
55 |
60 |
65 |
70 |
75 |
80 |
85 |
90 |
95 |
|
55 |
- |
59.5 |
64 |
68.5 |
73 |
77.5 |
82 |
86.5 |
91 |
95.5 |
|
60 |
- |
64 |
68 |
72 |
76 |
80 |
84 |
88 |
92 |
96 |
|
65 |
- |
68.5 |
72 |
75.5 |
79 |
82.5 |
86 |
89.5 |
93 |
96.5 |
|
70 |
- |
73 |
76 |
79 |
82 |
85 |
88 |
91 |
94 |
97 |
|
75 |
- |
77.5 |
80 |
82.5 |
85 |
87.5 |
90 |
92.5 |
95 |
97.5 |
|
80 |
- |
82 |
84 |
86 |
88 |
90 |
92 |
94 |
96 |
98 |
|
85 |
- |
86.5 |
88 |
89.5 |
91 |
92.5 |
94 |
95.5 |
97 |
98.5 |
|
90 |
- |
91 |
92 |
93 |
94 |
95 |
96 |
97 |
98 |
99 |
なお、ここに提示した1〜9の内容(ポイント点数も含む)、ポイント表の数値等はすべて試案であって、実際の多くの事例を「一般的な障害の程度」に当てはめることで、改変していく必要がある。
実際に事案を当会試案に当てはめた場合にどのような結果が得られるかが問題であるため、典型的な実例を4件挙げて検証してみた。
(事例1)顕微鏡的多発性血管炎により、就労ができない例。
活動性は抑えられているものの、スイロイド服薬等による筋力低下と倦怠感が大きい。障害基礎年金請求に対して、現行の認定方法では、2級非該当と処分された。
試案で認定すると以下となり、最高点70、プラスの表の数が3つで、ポイント表に入れると79点となり、2級に該当する。
表2 |
障害のため社会参加、稼得活動がまったくできない。 |
70 |
表5 |
一人で社会参加活動の場へ移動することができるが、障害のために移動が制限される状況がある。 |
30 |
表9 |
作業課題・活動目標と関連して、社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)で物を持ち上げ、運び、移動することができるが、障害が原因で、スピードや協応性の少なくともどちらかが低いか、あるいは(例えば、別の場所に箱を運ぶのに平均の数倍の時間がかかるというように) できたとしても困難である。 |
30 |
(事例2)急性散在性脳脊髄炎による両下肢麻痺で室内も含め車椅子生活で、不随意運動もあり、車椅子への移乗も全介助を要する例。
現行の認定方法では2級と裁定された。
試案で認定すると以下となり、最高点80、プラスの表の数が3つで、ポイント表に入れると86点となり、1級に該当する。
表2 |
障害のために、予定外の休憩あるいは支援者の介入が必要になり、一回に90分間続けて作業・活動ができない。 |
15 |
表5 |
障害のために、一人で社会参加活動の場まで移動することができず、他の人の助けがなければ自由に動くことができない。 |
80 |
表9 |
障害が原因で、社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)で物を持ち上げ、運び、移動することができない。 |
60 |
(事例3)うつ病に加えて、両上肢の神経障害性疼痛により働くことができない例。
現行の認定方法ではうつ病のみ3級と裁定され、神経障害性疼痛は3級非該当と処分された。
試案で認定すると以下となり、最高点70、プラスの表の数が3つで、ポイント表に入れると79点となり、2級に該当する。
表2 |
障害のため社会参加、稼得活動がまったくできない。 |
70 |
表6 |
障害のために、物を扱う際の器用さやスピードは多少低下しており、例えば、スムースに錠に鍵を差し込んだり、ティースプーンでコーヒーに砂糖を入れたりするのは難しいが、ドアの取っ手を回したり、お金を扱ったり、書いたり、キーボードを使ったり、手工具を使ったりすることができる。 |
30 |
表9 |
作業課題・活動目標と関連して、社会参加活動(就労、就学、余暇・地域・社会活動等)で物を持ち上げ、運び、移動することができるが、障害が原因で、スピードや協応性の少なくともどちらかが低いか、あるいは(例えば、別の場所に箱を運ぶのに平均の数倍の時間がかかるというように) できたとしても困難である。 |
30 |
(事例4)発達障害により手厚い支援を受けて、障害者雇用で働いている例。
現行の認定方法では2級非該当とされることもありえる。
試案で認定すると以下となり、最高点60、プラスの表の数が4つで、ポイント表に入れると76点となり、2級に該当する。
表2 |
障害のために、予定外の休憩あるいは支援者の介入が必要になり、一回に90分間続けて作業・活動ができない。 |
15 |
表3 |
1回聞いただけで作業・活動の指示を理解し指示に従うことができるのは、2回に1回かそれ以下であり、障害のために、たいがい指示を繰り返してもらう必要がある。複数段階の指示を理解しそれに従って行動するのに、かなり難がある。 |
60 |
表6 |
障害のために、物を扱う際の器用さやスピードは多少低下しており、例えば、スムースに錠に鍵を差し込んだり、ティースプーンでコーヒーに砂糖を入れたりするのは難しいが、ドアの取っ手を回したり、お金を扱ったり、書いたり、キーボードを使ったり、手工具を使ったりすることができる。 |
30 |
表8 |
複数の課題を学習することができるが、障害が原因で、課題を同時あるいは順次に遂行する必要があると、混乱したり、落ち込んでしまったりする。 |
40 |
以上の4事例を検証した結果、従来不支給とされていた人が認定される等、試案の具体的妥当性・有用性が一定程度確認できた。
現行の障害年金制度において、加入要件と納付要件の充足を決定付ける「初診日」について以下提言する。
初診日から長期間経過して請求を行った場合には、初診日を証明することは困難を極める。そのような請求に対して、現状では、国は「初診日が特定できない(十分に証明していない)」という理由だけで不支給処分を行うことが後を絶たない。
これは、司法も含め国は、「初診日は請求者が特定、証明する必要があり、請求者の主張する初診日の認否(同日についての加入要件および納付要件)のみを判断すれば足りる」などと、制度を運用する関係者が法令を誤解しているためである。
これでは、初診日が認定されないというだけで無年金状態となってしまう。
また、別の日が初診日と認定される可能性が高い場合も、国側から初診日の補正を求めてこない時があり、そうすると、請求者は請求をやり直す必要があり、請求者にとって請求が遅れてしまい、その分、受給できない年金が生じて、請求者は多大な不利益を被る。
法令上、初診日は、「障害の原因となった傷病にかかる初診日において、国民年金又は厚生年金保険の被保険者等であったこと」という加入要件と、初診日の前日において納付要件を満たしていることを確認する日にすぎず、初診日を特定することは受給権発生の要件ではない(国民年金法30条1項1号、同条の2第1項、厚生年金法47条1項、同条の2第1項)。
請求者が年金請求書に記入する初診日は参考としての記載にすぎず、初診日が「何年何月何日」と特定の日に絞り込まれない場合であろうと、加入要件と納付要件を満たす初診日があると判断できる場合には、障害年金の受給権は裁定されるべきである。
以上により、請求者としては障害年金請求の意思さえ示せば足り、国は請求者が申し立てた初診日の可否を判断するだけではなく、加入要件と納付要件充足の有無を確認する義務を負うとすべきである。
上記1を前提としても、障害認定日で受給権が発生する場合は障害認定日の特定が必要となり、障害厚生年金については年金額の計算に初診日の特定は必要となる。
さらには、初診日が証明できないことにより障害年金が受給できないケースを無くすため、以下((2015年通知[22])に記載された取扱いを含む)を、可能な限り法令で規定し、初診日認定方法の大幅な緩和をすべきである。
以下のいずれかがあれば、初診日と認定すること。
これは20歳前初診の障害基礎年金と20歳以後初診日の場合とも同様とする。
保管されている最も過去の診療録または医療機関等による他の資料(傷病が特定できる診察券、処方薬の確認できるもの等)。診療録による場合は、請求日からみて、原則として、最も過去のカルテに基づいて認定するものとすること(医師法24条により診療録の保管義務は5年であることからすれば、2015年通知による5年以上前のカルテ記載による初診日認定は不能な場合がある)。
上記1による認定が困難な場合、初診日の可能性がある一定期間のどこに初診日があっても納付要件を満たす場合(以下「一定期間」)については、以下とすること。
現在は、出生日を始期とするのは先天性の傷病に限定したり、始期の根拠として、修学期の第三者証明は認めず、定期健診を受けている就労後の同僚の第三者証明しか認めなかったりすることにより、始期を認めず、結果、一定期間の適用自体を行わないことが多々ある。
これを改め、一定期間の適用を一定期間の始期を出生日や傷病の特性による発症時期とする場合があることを明確にし、始期と終期の特定については、医療機関等による資料のみならず、第三者証明や障害の状態(たとえば退職時期)等により行うこと。
一定期間に加入制度または20歳前の未加入期間が混在している場合には、診察券(傷病や診療科が特定できないものを含む)等、何らかの根拠があれば請求上の初診日を初診日と認定すること(2015年通知)。
一定期間のどこに初診日があっても納付要件を満たし、加入制度が混在している場合で、国民年金加入中または20歳前の未加入期間に初診日があると請求したときには、請求上の初診日を初診日と認定すること(2015年通知)。
初診日特定にあたっては、請求者(被保険者または被保険者であったもの)側のみに証明を求めるのではなく、国が積極的に情報提供を行うことが求められる。
障害年金実務には「社会的治癒」という概念がある。
例えば当初発症の際の初診日では厚生年金の加入要件・納付要件を満たしていない者でも、その後しばらく平穏な生活を送っていた後に症状が再発し、再発時点では加入要件・納付要件を満たすため、医学的には治癒していない一連の傷病であっても、再発後を別傷病として扱い、その初診日を加入要件・納付要件の基準とするなどの例である。
但し、現行の障害認定基準でも社会的治癒の定義は明らかでなく、どういう場合に「社会的治癒」が認められるのかについて、下記のとおり、基準を明確にすべきである。
記
「医学的な治癒に至ってはいなくとも、医療を行う必要がなくなり、社会参加活動に支障がない状態が一定期間にわたって継続した状態を社会的治癒として、その後、障害の状態が増悪した場合には、社会的治癒前の傷病とは別傷病として取扱い、増悪後の最初の受診日を初診日として認める。」
「医療を行う必要がなくなり、社会参加活動に支障がない状態」の認定にあたっての「医療の必要性」の判断は、医学的治癒ではなく、社会的治癒である以上、主には社会参加活動に支障がない程度により判断する。社会参加活動に支障がない程度は、社会参加活動の継続性、就労している場合は仕事の内容、業務成績、給与の変遷、職務上の責任の程度等、就学の場合は学業の内容、成績等、それ以外の場合は社会参加および日常生活活動の状態等を考慮要素として判断する。また、「医療の必要性」は、受診の必要性の有無だけではなく、障害の状態が継続している場合(長期的には進行性の傷病による場合を含む)であっても、障害の状態の安定性の程度、受診が継続している場合はその治療内容等によって判断する。
その結果、以下等の場合には、社会的治癒と認定する。
(1) 社会参加活動に支障がなく受診の必要性がない状態(長期的には進行性の傷病であっても自覚的には障害状態の安定性が認められる場合を含む)が一定期間継続したとき
(2) 受診を継続している場合であっても、社会参加活動に支障がなく、一定期間継続し障害の状態の安定性が認められたとき
※ 社会的治癒の認定が、請求人に不利益をもたらす場合(社会的治癒前の初診日では厚生年金保険の被保険者であったのに対して社会的治癒後の初診日では厚生年金保険の加入要件を満たさない場合または社会的治癒前の初診日では納付要件を充足しているのに対して社会的治癒後の初診日では納付要件未充足の場合等)は社会的治癒を認定しないものとする(不利益援用の禁止)。
現行制度では、厚生年金加入中に初診日がある「障害基礎年金および障害厚生年金」と国民年金加入中に初診日がある「障害基礎年金」とでは、支給金額と支給範囲(前者にのみ3級がある)に大きな差がある。
厚生年金加入中(会社に勤務していた時期)に、現在の障害と因果関係のある傷病で医療機関を受診した場合は「障害基礎年金および障害厚生年金」の請求ができる。しかし、仕事が忙しくて受診すらできずさらに体調を崩し退職せざるを得なくなり、退職後(厚生年金から国民年金に切り替え後)に医療機関を受診した場合は、「国民年金加入中に初診日がある」ため、請求できるのは障害基礎年金のみとなる。このようなケースで、厚生年金加入中に負担した保険料がまったく給付に反映しないのは不公正である。
発症日時点で厚生年金の被保険者であった場合で、厚生年金の資格喪失から5年以内に初診日があるときには、厚生年金の加入要件を満たすものとして扱うべきである。
障害年金は、人たるに値する生活を保障するため(憲法25条)の一制度だが、障害を負ったと同時に自動的に支給されるものではない。受給するためには、まず情報を得て、請求手続をし、決められたルールに基づき受け付けられ・審査されて決定を受け、その決定に不服があれば再審査を求める、という一連のプロセスを踏む必要がある。このプロセス自体が公正に進められなければ、せっかく用意された年金や憲法の理念も役割を果たすことはできない。年金給付それ自体と同時に、手続的権利の実現が重要である。
年金保険者に、障害年金についての広報周知・正確な助言・教示を、法的に義務付ける改革が必要である。国民は年金保険料を負担する代わりに保険事故が起きたときには給付を受けることができる。給付とその要件の正確な説明は保険制度の「入口」であり、極めて重要であるにもかかわらず、「障害を負って数十年経っているのに障害年金を知らなかった」、「窓口で相談したが、自分に年金受給の見込みがあるのか分からなかった」という事例が後を絶たない。
そのため、国に対し、障害年金の給付に関する広報周知義務、そして窓口[23]での個別相談において、制度に関する正確な情報提供・助言・教示を行うことを義務付ける法改正を求める[24]。
障害のある人が最も必要としている情報は「自分は障害年金を受けられるのか?(障害年金を受給できる状態とは、どのような状態なのか?)」である。
しかし、現状では、窓口に行ってもこの答えは容易には得られない。旧来の障害者像に基づく時代錯誤な一般状態区分が、現代に生きる障害のある人達にはマッチしていないため、「基準」が基準として有効に機能していない。
よって、現代の障害者の生活とそれに対する保障の在り方を精査した上で、国民に分かりやすい新しい障害認定基準を定める必要がある(本提言書第2編三参照)。
また、窓口には、相談者が知りたい内容を、正確な知識のもとに理解しやすい形で伝えることができる、障害年金に専門性のある相談員を配置することが必須条件となる。
障害年金は、窓口に請求手続を行うことで初めて受給できる。窓口で誤った説明を受けたり、請求の門前払いを受けたり、手続の援助が受けられないために、年金請求を諦めてしまう人が多数いる。
そのため、相談窓口・請求受付窓口における次のような改革を求める。
窓口には、行政手続法が定める適正手続を徹底することを求める。
とりわけ、窓口職員には、障害年金の請求を求めてきた人に対しては障害年金請求用の請求用紙を渡す法的義務があり、それを怠ることは行政手続法違反になることの周知・徹底を求める[25]。
障害年金に関する正確な情報提供・助言・教示を行う相談員を配置し、さらに窓口でのやり取りの全件記録化を求める。
請求者が、請求者の立場に立って助言・支援してくれる第三者を必要とするときに、社会保険労務士・弁護士などの外部専門家に対して、簡単に相談や代理を依頼できる仕組みの創設を求める。
具体的には、障害年金に関する相談・手続委任費用を法テラスの援助対象とすること及びこの制度を窓口で周知徹底することを国に義務付けることを求める。
上記(1)~(3)の対策をもってしても防ぎきれない、職員の対応誤りにより障害年金の受給権を失った人に対する被害救済制度創設を求める。
また、窓口で「受給要件満たさず」と教示した件は、一定期間内にすべて別の職員によるダブルチェックを必須とする制度等も導入すべきである。
上記提言内容を実現するために、障害年金の相談に対応できる専門人材の増員を求める。
処分庁による却下・棄却処分(1級の請求が2級等の一部棄却処分を含む)における理由記載義務を法定化するべきである。
2019年4月11日「Ⅰ型糖尿病障害年金第一次訴訟」大阪地裁判決により、
「いかなる事実関係に基づきどのように障害認定基準を適用して当該処分がされたかを、当該処分の相手方において、提示された内容自体から了知し得るように理由を記載する」義務があると規範定立された。
この判決の影響により厚労省の障害年金処分の理由の記載に一定の変化が見られたのは事実である。
しかし、実際には、提示される理由文は「障害認定基準」の当該障害の「認定要領」部分のコピペと診断書の引用が大半を占め、当該個別事案における、なぜ、障害年金等級に該当しないのかという具体的根拠が薄弱な場合が多い。
国に対し、年金請求者にわかりやすい処分理由(なぜその判断となったのかが第三者からみて理解可能な具体的な根拠)を明示することが不可欠である。
よって、処分庁たる厚労省に対し、【処分の具体的理由明示義務の徹底】を法的義務として法定化するべきである。
これは、申請拒否処分および不利益処分のみならず、却下処分(初診日認定不能、程度認定不能等)も理由付記の対象とするべきである。
医師が作成した診断書(書面)のみにより、医師が程度を認定するという現状のやり方で、障害の状態を適切に把握できないため不公正が生じている。
認定の公正性の担保及び当事者の手続保障のため(介護保険、障害者総合支援法等も参考に)請求者が希望する場合は、生活または就労の場に担当官が出向く実地調査を必須とし、そこで請求人本人および支援者(家族、介助者、支援者等)の説明・意見陳述の機会(障害者参画)の保障をする。
認定にあたる職種、資格者についても、決して医師のみで判断することなく、社会福祉士、弁護士、社労士、PSW等の合議により認定する。
権利救済機関である社会保険審査官(「審査官」)による審査請求手続及び社会保険審査会(「審査会」)における再審査請求手続が、質量ともにその機能を十分に果たせていない。
その状況は絶望的といってよい。
例えば、厚労省関東信越厚生局は、全国に8カ所ある厚生(支)局のうち約半数の審査請求を扱っているところ、令和4年度事業年報によると、障害年金の審査請求件数858件のうち、棄却・却下が821件、容認件数が37件である。容認率4.4%に過ぎない。
審査請求しても96%は却下・棄却されている。
審査官の却下または棄却の決定内容も、処分庁の処分理由を引き写しただけの説得力皆無の機械的処理がほとんどである。
救済機関ではなく、処分庁の不支給判断にお墨付きを与えて請求者の権利行使を断念させるための機関と化している。
同じ厚労省の職員同士がジャッジするという現行の仕組みは、権利救済機関として必要な第三者性が担保されておらず、その構造が産み出す必然的な状況ともいえる。
なお「社会保険審査官及び社会保険審査会法」を以下「審査会法」と表記する。
審査官は「厚生労働省の職員のうちから、厚生労働大臣が命ずる。」とされている[26]。
処分をした者は厚生労働大臣という自分の上司・雇用主であり、法制度上、審査官の独立性も公正性も疑われる状況である。現行法制度下での厚労省職員ではなく行政機関から独立した者を選任する事は不可欠である。
公正取引委員会・労働委員会のような独立性の保障が必要である。
また、審査官という一人での決定ではなく、特に障害年金に関する場合には、必ず法律の専門家、医療の専門家、福祉の専門家等の委員で構成する諮問委員会という合議体を設置する改革を求める。
すべての口頭意見陳述[27]を反訳記録として残すとともに速やかに交付されるよう求める。
社会保険審査委員は厚生労働大臣が任命するものとされている[28]。
しかし、任命権者が処分庁自身では、処分の審査の独立性・公正性は疑われる。
厚生労働大臣ではなく内閣総理大臣が任命し、事務局も厚労省から人員・組織ともに独立させるよう法改正を求める。
再審査請求手続の公開審理において、審査委員の他に「国民年金の被保険者及び受給権者の利益を代表する者4名を指名するものとする。」とされ[29]、「国民年金の被保険者又は受給権者たる当事者の利益のため、審理期日に出頭して意見を述べ、又は意見書を提出することができる。」とされ[30]、「社会保険審査会参与」(「参与」)と呼ばれる[31]構成員の存在がある。
実務上、参与からの意見書の例は少ないものの、意見が述べられることはある。
そして、実際、4名の参与全員が「この事案の障害年金は認めるべきと考えます。」などと意見する場合も少なくない。
請求者は参与の意見に勇気づけられ、良い決定を期待するが、これらの参与の意見が斟酌されることはめったになく、ほぼ期待を裏切られる現実にある。
現状では一体なんのために法が受給権者等の利益を代表する参与に意見を述べさせるようにしているのか、存在意義が没却している。
よって、審査会が裁決を下すにあたり、参与の意見の尊重義務を課すよう法定化するべきである。
社会保険審査委員の増員により、審理の迅速化と専門性の担保を図るため、審査会法の改正を求める。
審査請求での決定、再審査請求での裁決で示された判断が現場にフィードバックされておらず、行政機関の対応改善につながっていない。
少なくとも審査請求・再審査請求事例で請求が認められた決定・裁決の要旨に関しては、厚労省から日本年金機構へ通知の上、日本年金機構で記録をし、次回更新時等に同じ過ちを繰り返さない仕組みを法定化することを求める。
たとえば「厚生労働大臣は、障害年金の(再)審査請求決定・裁決(容認)例を常に精査し、障害年金実務慣行や障害認定基準の内容・運用を不断に検討し、厚労省職員並びに日本年金機構に対し、決定・裁決で示された内容を指導・周知すること」等の規定が考えられる。
さらに、裁決は原則として全件がウェブサイトで公開されるべきである。それが審査官決定の指標ともなる。公開にあたっては、裁判所ウェブサイトの判例の公開を参考に個人情報を除く日付や障害の程度についての不要なマスキングはやめるべきである。
審査請求での口頭意見陳述、再審査請求での公開審理には、オンライン参加を可能とするよう求める。
障害年金の一連の手続において、障害当事者が参加し、障害に応じた方法で情報を得たり、意見を表明したりするための適正手続の保障がなされていない。
例えば、現状の国の運用では、聴覚障害がある人が社会保険審査会の公開審理に参加するためには、自前で手話通訳を手配する必要がある。手話通訳がないと自らの意見を表明できず、審査官らの話を理解することができないから手続は成り立たないが、この場合、手話通訳等を年金請求者自ら用意するしかない現状である。
そのため、国に対し、障害がある人には、障害がない人と平等な手続面での保障が徹底されるよう求める。
これは、憲法14条・第31条等に基づく平等権・適正手続の問題であり、「過重な負担」により免責される「合理的配慮」とは全く異なり、手続保障は絶対的なものである。
障害年金が受給できない無年金障害者を大幅に減らすことが求められる。
上記四で掲げた提言は、初診日が特定できなかったり、証明できないために、障害年金が受給できないケースを最小化し、無年金者を減らすことになる。
障害厚生年金には3級があることからすれば、障害基礎年金に3級の設定がないのは不合理である。これも無年金者を減らす方途の一つである。
事後重症請求[32]について、障害認定日以降65歳到達日の前日までに、障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったときに受給権が発生するものとし、支給はその翌月からとする。法改正が必要であれば、法改正を行う。
このことにより、障害等級に該当する程度の障害の状態にあることが明らかな期間であるにもかかわらず、無年金状態に置かれる期間が縮小される。また、65歳以降であっても、障害認定日以降65歳到達日の前日までに、障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったことが認められれば、障害年金制度から除外されることなく、障害年金が支給されることになる。
納付要件における直近1年要件[33]は、昭和60年国民年金法等改正時の10年間の特例措置が更新されてきた経過措置である。
しかし、暫定措置が繰り返されてきた結果、既に広く国民に知られた納付要件となって定着している。
実務上、どう考えても支給されるべき事案が直近1年要件により救済されるケースは多い。
この要件の廃止も議論とされているが、当会としてはこの要件が果たす人権救済機能に鑑み、むしろ直近1年要件を恒久化・法定化すべきと強く進言する。
仮に、現行法令を前提とした場合であっても、少なくとも以下の改革を直ちに実施することを求める。
現行障害認定基準の諸悪の根源ともいうべき「障害の状態の基本」は今すぐ削除すべきである。
少なくとも、社会モデル、ICF、権利条約に基づいた内容に全面書き換えることが急務である(本提言の第2編三を参照)。
特定の疾病や障害を障害年金受給対象者から排除することは合理的理由のない差別に他ならない。
今すぐ、そのような記述は削除するべきである。
政令別表に基づき、原則として、日常生活能力および労働能力により等級認定を行い、単独障害の場合に比して、不利とならないようにすること。
医学モデル偏重の犠牲とされているこれらの障害を速やかに救済すべきである。
両下肢、両上肢の等級認定の動作制限の程度は、「肢体の機能の障害」による動作制限と等級との関係を準用するよう明記すること。
これは「障害年金が受給できない問題」ではなく、
「受給はできたが、受給継続が確定しておらず、不安定な状況に置かれる問題」の改善を目指す観点からの提起である。
障害年金2級以上の受給権があると、国民年金保険料は納付不要となる(法定免除)。しかし障害年金を受給しながらあえて免除を受けず国民年金の保険料を納付することも可能である。免除を受けるか、納付を継続するかの判断は受給権者にゆだねられている。
では、障害年金(2級以上)受給権者が、障害年金受給期間に国民年金保険料を免除希望した場合、どのようなデメリットがあるか。
現在、「免除」のパターンはいくつかあるが、少なくとも保険料を「通常の金額で納付」するよりは老齢基礎年金の支給金額が減額される。その結果、万一、65歳時点で障害状態が軽減して障害年金が支給停止され、老齢年金を受給せざるを得なくなった場合、支給される老齢基礎年金の金額は免除期間に応じて減額される。
そのため、永久認定される障害以外の受給権者にとっては、保険料を免除にするか納付するかは大きな問題となっている。
障害が固定されており今後も支給停止になる可能性がゼロであれば、あえて国民年金保険料を納付するメリットはない。老齢になっても障害年金(2級以上)を受給でき、その金額は老齢基礎年金(満額)以上であることは確実だからである。しかしながら、65歳に至るまで障害年金を継続して受給できるかどうかは実際には予測困難である。
長期にわたり法定免除を受けてきたケースで、障害年金が支給停止になるとこれまで受給してきた障害年金額より大幅に減額となった年金額で老後の生活をしていかなければならない。「無年金」にはならないが、それまでの生活設計の大幅な修正を余儀なくされる。このような不合理を避けるためにどのような方策があるか。
救済措置の一つとして現行制度では「追納」制度があり、一定期間遡及して国民年金保険料を納付することは可能である。しかし、「追納」するためにはまとまった金額が必要であり、障害年金が支給停止になった障害者にそれを求めるのは酷であろう。
そこで、そのような事態を回避するために、下記方策を提唱する。
免除対象となった障害年金受給期間のうち、受給権発生年月日から2級以上の障害年金受給権者である期間は「保険料納付済扱い」とする。
この方策により、障害年金受給権者の老後の年金所得に関する不安を軽減することができる。
(1) 1枚の年金請求書で複数制度請求を可能とし、初診日の相違により別請求とは判断しないこと
国民年金障害基礎年金請求、国民年金・厚生年金保険障害給付請求(障害基礎年金・障害厚生年金・障害手当金)および障害共済年金請求について、1枚の年金請求書で制度や請求先の異なる請求も同時に行えるものとすること。
また、初診日の記入欄については、年金請求書からは削除し、添付書面として、初診日の認定を求める日付を5通り程度記入できる様式を提出することとする。
「障害給付の請求事由」欄についても、それぞれの初診日について選択できる様式とする(これに伴い、「障害給付の請求事由」についても、それぞれの初診日について指定しうる様式とする)。その書面の注意書きに、請求後であっても、納付要件を満たすそれ以外の日を初診日として認定するよう求めることは可能である旨を明記すること。
これらによって、初診日として認定を求めうる日付が複数あった場合に、初診日において加入制度が相違しているという理由で請求を最初からやり直さなければならない(そのことで請求が遅れ、年金が受給できない期間が生じる)こと、年金請求書に記入した初診日以外の日について請求がないからという理由で国が処分をしない(そのことにより行政争訟で争えない)こと、および初診日と認定される可能性のある日が請求後に明らかになった場合に最初から請求をやり直さなければならないことを避けることができる。
(2) 請求内容に障害の程度認定を求める時点での等級を含めること
受給権を求める時点での具体的等級(1級・2級・3級)について、請求書において、請求者が求めることができることとする(「適切な等級を求める」「2級以上の等級」等の請求方法も認められる)。
事後重症請求については請求日における等級を、障害認定日請求と事後重症請求を同時に行う場合には障害認定日と請求日のそれぞれの時点で求める等級を請求書に記入する様式とする。
このことにより、国が請求者の求めと異なる等級であると認定した場合には、国はその理由を明確に説明しなければならないこととする。
また、現在、障害認定日請求と事後重症請求を同時に行い障害認定日において受給権が発生した場合に請求日時点での等級について行政争訟を行うには、請求時に同時に額改定請求を行わなければならないが、このような様式変更により、一般にはわかりづらく、窓口でも請求を拒否することがしばしばみられる、請求と同時の額改定請求を行わなくても、請求日時点の等級について行政争訟を行うことができる。
診断書における現症日が、国が求める、障害認定日から3か月以内(20歳前初診の障害基礎年金請求については20歳到達日または障害認定日の前後3か月)でない場合には、視覚障害、聴覚障害、肢体の障害等、医学的に不可逆性が認められている障害であっても、年金機構窓口が障害認定日から3か月以内の診断書がないと認定日請求ができないという理不尽で誤った教示を行い、受付け自体を拒むことが多く見られる。
認定日3カ月以内(20歳前初診は上記)診断書提出を絶対的要件かのごとく運用することは誤りであり[34]、遡及した障害認定日請求については、診断書が提出できなくても、その前後の状態、症状の固定性または不可逆性、手帳診断書等により認定が可能であることを年金請求書に明記する。
また、次の様式変更により、窓口での受付け(請求)拒否を避けることができる。加えて、年金機構において、障害認定日から3か月以内の診断書がないと認定日請求ができないという誤った教示を行わないよう指導を強化・徹底することを求める。
診断書において
「現症日(診断書において障害状態を診断する日付)と障害の程度を認定すべき日と相違がある場合の医師意見欄」を設けること。
現症日の障害の状態と障害の程度を認定すべき日の障害の状態とを比較して「変化がない」、「悪化している」、「改善している」、「不明」の4択として、○を付すようにする様式とする。
障害年金の請求手続を行う際の提出書類として、「病歴・就労状況等申立書」がある。そして、この書類裏面の「日常生活の制限」欄では、以下の10項目に関し、該当する番号を選択するフォームになっている。
項 目 |
着替え、トイレ、食事、炊事、掃除、洗面、入浴、散歩、洗濯、買物 |
選択肢 |
1→自発的にできた、 2→自発的にできたが援助が必要だった 3→自発的にできないが援助があればできた 4→できなかった |
この評価の4項目では、外部障害の診断書には明示されている補助具を使用しての評価なのかが不明である。また、障害種別にかかわらず、障害状態になる前の何倍も時間がかかっても自発的にできてしまう場合には「自発的にはできた」と評価してしまう。
精神障害や知的障害がある人の場合においても、この書式は適切であろうか。ちなみに、精神障害や知的障害がある人は診断書種類別支給件数割合において、最も高い割合[35]を占めている。
精神に障害がある方の場合、他者とのコミュニケーションが不得手の方が多いが、コミュニケーションに関する項目は上記の項目にはない。一方、精神の障害用の診断書には、「日常生活能力の判定」項目として、以下の7項目が記載してある。また、「判断にあたっては、単身で生活するとしたら可能かどうかで判断」することになっている。
項目 |
(1)適切な食事、(2)身辺の清潔保持、(3)金銭管理と買い物、 (4)通院と服薬、(5)他人との意思伝達及び対人関係、 (6)身辺の安全保持及び危機対応、(7)社会性 |
ついては、病歴・就労状況等申立書での項目では、精神障害特有の障害の程度を判断するのに適切な項目が設けられておらず、部分的かつ一面的なものにとどまっている。また、病歴・就労状況等申立書の選択肢では、「自発的に」と記してはあるものの、単身生活を前提として選択するのかどうか説明書きはなく、診断書との整合性が取れてはいない。
このままでは、病歴・就労状況等申立書を作成するのに不慣れな請求者にとって、適切に選択肢を選ぶことは著しく困難である。
また、障害の程度は往々にして、一日の中でも変化することがある。いつ・どのような時点や周期で障害の程度をみればよいのかも迷うところである。制度趣旨が異なる面はあるが、障害者総合支援法においての「障害支援区分」見直し内容が示唆的である。同法では、従来の「障害程度区分」を、障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す「障害支援区分」に改め、2014年4月から施行している。
中でも、認定調査において確認する動作等について、「できたりできなかったりする場合」の判断基準を「より頻回な状況」から「できない状況」に変更[36]することにした。
この様に、「できたりできなかったりする場合」においては、「できない状況」を基に判断する基準を障害年金の障害の程度認定においても原則と明記するべきである。
「日常生活の制限」欄等について以下のように改訂するよう求める。
(1) 評価項目について
① 自発的にできるかどうかを問うのではなく、障害が発する前の(または障害状態にない)状態と比して、どの程度の不自由さ、困難さがあり、どの程度援助が必要なのかにより判断する評価項目に変更する。
② 「金銭管理」、「通院と服薬」、「他人との意思伝達及び対人関係」、「身辺の安全保持及び危機対応」、「社会性」の評価事項を追加し、国は精神障害の場合には記載するよう指示する。
(2) 「日常生活の制限」評価についての説明書の添付
以下を記した説明書を病歴・就労状況等申立書を配布する際に添付する。
① 外部障害の場合は補助用具を使用しない状態で評価する。
② 外部障害、内部障害、精神障害にかかわらず、障害が発する前の(または障害状態にない)状態と比しての所要時間も含めて評価する。
③ 精神障害については、「援助」とは、身体介助を含まず、単身生活を想定したうえでの助言や指導である。
④ 精神障害については、現様式にある「着替え」、「トイレ」、「食事」、「炊事」、「掃除」、「洗面」、「入浴」、「散歩」、「洗濯」および「買物」ならびに(1)の②で追記した各事項について、各動作ができるかどうかではなく、その目的(診断書において例示されているように、食事については「適当量をバランスよく摂る」、金銭管理は「やりくり」、買い物は「計画的な買い物」等)を達成できる程度にできるかどうかで判断する。
⑤ 「できたりできなかったりする場合」においては「できない状況」を基に判断する。
⑥ 複数の障害については、それらによる総体としての社会生活も含む日常生活の制限の程度について評価する。
「本提言」は、2025年に予定される国の障害年金改革を見据え、弁護士や社会保険労務士等の実務家が研究者と協働して、「障害年金」に関わる日々の活動経験の中から浮上してくる「課題」を通して「問題の所在」を突き詰め、それを当面する障害年金問題の迅速な解決に繋げようとする極めて実践的かつ具体的な「主張」である。
国は、「本提言」策定中の2022年、社会保障審議会年金部会において年金制度改革の検討に着手している。このことについては、当会も注目し、国に対し、必要な「申し入れ」[37]も行ってきた。
しかし障害年金についての喫緊の改革のための議論は、そこでは行われないまま今日に至っている。
政府は、「この間のこうした実情」をも十分に踏まえたところで、「本提言」を真摯に受けとめ、問題の解決に主導的な役割を果たす「改革の速やかな実施」に着手すべき、と考えるものである。
以下、「本提言」の趣旨をあらためて簡潔に述べ、結びとしたい。
障害年金は、憲法25条に基づく社会保障制度の給付の一つである。
したがって、障害年金について規定する国民年金法や厚生年金保険法等の法令においては、障害年金の実体的な給付に係る諸規定が、人間として生きる権利の保障にふさわしい内容をもつものとして構成されていなければならない。
「本提言」が提示する障害認定基準や初診日に関係する問題、また社会的治癒や納付要件判断基準に係る指摘は、「障害年金給付」の実質的な保障に繋がる重要な事項である。
生存権中心の権利概念は、生きている生活体を前提とすることから、固定的静止的な物の権利に関する規定のされ方と異なり、権利性の有無が、その権利保障の方向性の上に立って、ケース・バイ・ケースで判断されなければならない。したがってそこでは特に、その法的姿勢をいかに保持するかということが決定的な重要性をもつ。
障害年金の請求手続過程が、「受給権者の権利を実質化していく」過程として、いいかえれば「『障害年金給付』の実質的な保障」を担保する過程として構成されなければならないことも、上でいう法的姿勢のひとつのあらわれにほかならない。
障害年金を請求したいと考えている人の主体性を抜きにして、障害年金の請求手続過程を考えることはできない。しかしその実態はどうであろうか。例えば、市民が年金行政についてその不当性を口に出しても、窓口等では「年金制度はこうなっている」「法律と行政が決めている範囲でしか年金は受給できないのであきらめるように」と説得されることが少なくない。
障害年金は、憲法25条に基づく社会保障制度の給付の一つである。行政主体による障害年金の決定(裁定)は、国民の生存の権利保障のための一手段にすぎない。
上で触れた対応のように、障害年金の権利が、年金を請求する障害当事者のリアルな実態と声を反映するプロセスを抜きにしたまま行政主体の硬直化した決定(裁定)に多分に依拠している現状には疑問がある。
障害年金の受給者に占める内部障害者や精神障害者の割合は相対的に増加してきている。そのことは「障害」の判定方法にも影響を及ぼす一つの要因になっている。本提言が提示する形式審査から実質審査へ、あるいは面接調査の必要性等々に係る指摘は、外からは理解され難い面のある障害者の実情を適切に把握するためにも必要なものである。
障害年金の給付内容の実質的な保障を充実させていくために、憲法や国際人権法との具体的で実質的な整合性が図られることを切に要望する。
以上
[1] 当会は2015年10月に結成された、障害年金を必要とする人に確実に行き届くようにするため、社労士、研究者、弁護士等の専門職から構成される任意団体です。
当会HP https://www.nenkin-law.com/ に会の紹介があります。
本書の問い合わせ先は s.nenkinlaw@gmail.com です。
また、当会公式ウェブ雑誌として「障害年金法ジャーナル」があり、当会HPにて全文無料公開しています。
[2] 社会保障審議会年金部会等の障害年金制度改革に関する審議会等に事務局から必ず資料として提供して頂き、所管部署において実施を検討頂きたい。
[3] 令和5年「障害者白書」参照
[4] 令和5年厚労省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」参照
[5] 令和4年厚労省「障害者雇用状況の集計結果」
[6] 但し、障害者雇用促進法による法定雇用義務のある事業所に限った数字
[7] 令和4年度障害年金業務統計
[8] 例えば「内部障害を加えるとすれば、保険財政的な克服に何らかの打開策を考える必要があった」(小山進次郎『国民年金法の解説』1959年)とある。当時は結核患者が多く、厚生年金における障害給付として、9割近くを占めていたことが背景としてあると考えられる。
[9] 「障害年金業務統計」(令和4年度決定分)令和5年9月:日本年金機構 2頁記載の「令和4年度 決定区分別件数」によれば、新規裁定における障害基礎・厚生合計件数129,285件の内、2級の件数は80,008件であり、61.9%を占めている。ここでは、2級の割合が6割強であることから、2級を取り上げることにする。
[10]令和4年4月1日改正 国民年金・厚生年金保険「障害認定基準」3頁(「第2 障害認定に当たっての基本的事項」/「1 障害の程度」/「(2)2級」より)
[11] 昭和61年(1986年)4月より、国民年金法施行令別表及び厚生年金保険法施行令別表に規定する障害の程度認定にあたり、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」を共通の基準として定めた。
[12] 国民年金法制定時における状況に関しては、『法律家のための障害年金実務ハンドブック』日弁連高齢者・障害者権利支援センター[編]2018年3月26日発行 150頁参照
[13] 当会会員安部敬太による2022年11月発刊、日本障害法学会 学会誌『障害法』第6号掲載論文「障害年金における障害認定の現状」を参照。
[14] 障害者職業総合センターNIVR資料シリーズ No.20「諸外国における職業上の障害に関する情報」1999.5, 31-47頁。
[15] オーストラリア政府ウェブサイト
https://www.legislation.gov.au/Details/F2023L00188
この現行の認定方法でも、その表1や表10により、全身症状による生活全般の活動制限により障害状態を認定することは可能であるように思われる。
[16] オーストラリアの政府の保健福祉研究所(Australian Institute of Health and Welfare)https://www.aihw.gov.au/getmedia/611b688c-5f48-41a1-b651-a010fae014bd/12-icidh-health.doc.aspx, 10頁。
[17] 注14, 48-51頁。
[18] オーストラリア連邦議会討論会 上院 公式議事録,1999.3.11, https://www.aph.gov.au/binaries/hansard/senate/dailys/ds110399.pdf, Question No. 19(16)p.2825, answer(16)p.2827。
[19] これに対してイギリスの労働能力評価はこの点についての評価方法が弱いように思われる。
[20] オーストラリア障害支援年金は、そもそもミーンズテスト(資力調査)に基づく無拠出の公的扶助であり、さらに、週労働時間が一定(創設された1991年時には週30時間、2005年からは週15時間)以下である場合を要件とし、かつ、就労所得と逓減措置(2週間単位での所得が一定以上になると、1豪ドルの所得につき50セント分が障害支援年金から減額される取扱い)もある。中川純「オーストラリアにおける障害者に対する賃金政策と所得保障制度の展開:障害年金(DSP)と能力査定型賃金制度(SWS)の成立」中京法学49巻1・2号(2014)41-43頁。
[21] WHO『国際生活機能分類』日本語版
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/42407/9241545429-jpn.pdf?sequence=313&isAllowed=y
[22] 2015年9月28日年管管発0928第6号厚生労働省年金局事業管理課長「障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いについて」
[23] 日本年金機構の年金事務所・地方自治体・共済組合の各年金相談窓口等を指す。
[24] ※参考として、海外の立法例
✦アメリカ:エリサ法(Employee Retirement Income Security Act, ERISA)
✦ドイツ:社会法典に社会的給付の広報、助言、教示義務
✦フランス:社会保障法典L161ー17条 (被保険者の年金情報入手権)
障害年金法ジャーナル第2号27~28頁参照。
[25] 平成28年2月8日社会保障審議会年金事業管理部会「覆面調査」46頁によれば障害年金請求書を交付していない事務所が86パーセントに上る。
[26] 審査会法第2条
[27]審査会法第9条の3
[28] 審査会法第22条1項
[29] 審査会法第30条2項
[30] 審査会法第39条3項。厚生年金保険についても同様の規定が審査会法30条1項及び39条2項に規定されている。
[31] 審査会法施行規則第8条
[32] 国年法30条の2および厚年法47条の2
[33] 昭和60年法律第34号国民年金法等の一部を改正する法律附則第20条(障害基礎年金等の支給要件の特例)1項「「3分の2に満たないとき」とあるのは、「3分の2に満たないとき(当該初診日の前日において当該初診日の属する月の前々月までの一年間(当該初診日において被保険者でなかつた者については、当該初診日の属する月の前々月以前における直近の被保険者期間に係る月までの一年間)のうちに保険料納付渡期間及び保険料免除期間以外の被保険者期間がないときを除く。)」とする。」、第64条1項(障害厚生年金等の支給要件の特例)参照
[34] 2011年1月12日神戸地裁判決(賃社1540号41頁)、2013年1月17日名古屋地裁判決地裁判決(賃社1584号38頁)、2013年11月8日東京地裁判決(判時2228号14頁)等参照
[35]「障害年金業務統計」(令和4年度決定分)令和5年9月:日本年金機構 3頁記載の「令和4年度 診断書種類別件数 ①診断書種類別支給件数」によれば、精神障害・知的障害は、新規裁定において、障害基礎・厚生合計で66.8%となっており、大きな割合を占めている。
[36] 厚労省の平成26年4月「障害者総合支援法における障害支援区分認定調査員マニュアル」5頁では、判断基準の見直しのポイントとして、「「できたりできなかったりする場合」に、改正前の旧障害程度区分では「より頻回な状況」に基づき判断していたが、現行の障害支援区分では、「できない状況(支援が必要な場合)」を評価するため、「できない状況」に基づき判断するものとされている。
[37] 2023年6月2日「障害年金制度改革専門部会の立ち上げを求める声明(申入書)
※なお提言書を国に提出後に次の明白な誤植を発見したので記載しておきます。
三の7. 障害認定当会試案による認定事例の事例1 「(誤)スイロイド→(正)ステロイド」