I 障害年金法研究会のご紹介
障害年金法研究会
目次
敬称略
2015年5月中旬、橋本宏子より、藤岡に、障害年金の問題に関して相談したいことがあると連絡があり、6月8日、藤岡毅法律事務所にて初会合。
橋本が安部・山下の社労士2名と参加、藤岡は、当時障害年金の訴訟を担当していた関哉・黒松の弁護士2名と合計6名で障害年金問題について、意見交換。
社労士からは障害年金を司法で争うために弁護士の協力が不可欠であること、弁護士からは障害年金実務に精通した社労士の経験値と研究者による法論理研究が不可欠であること、研究者からは、実践と理論の架橋の必要が述べられ、弁護士・社労士・研究者が協力関係を築いていく方向性で確認された。
その後、福田素生・永野仁美らの研究者も加わりながら「障害年金問題研究会立ち上げ検討会議」として準備会議が何度も重ねられた。
2015年10月28日、永野が在籍する上智大学内において、第1回研究会の開催前に、設立総会が開催され、無事、障害年金法研究会が発足した。
設立総会には、弁護士・社労士・研究者・ソーシャルワーカー等約40名が参加した。
情報交換のためメーリングリストを開設した。
当会の設立趣意書は次のとおりである。
会の趣旨説明 2015年10月28日 「障害年金法研究会」 障害のある人にとって、障害年金はその生活を維持し、豊かにし、将来の夢を描くために必要不可欠な権利です。しかし、障害年金は必要な人に必ずしも行き届いていません。家族や支援者がいない一人暮らしを想定して判断するべき「日常生活能力」について家族の支援を前提に高く認定するなど、年金制度の趣旨を理解しない不適切な診断書の記載により不支給とされた例、発達障害等の「生きづらさ」が適切に評価されずに不支給になる例、カルテが廃棄されて初診日が証明できずに不支給になる例、働いてわずかな給与を得たため打ち切りになった例など、不合理な不支給事例が数多く存在します。また、行政窓口で申請書式を渡さない、申請書を受理しない等の法令違反も日常的に横行しています。近年では支給率に関する地域間格差にも焦点が当てられ、国の検討が進められていますが、一番低い水準に均すための「改悪」にならないよう、その動向には注視が必要です。 不服申立の制度として、審査請求、再審査請求、司法手続としては仮の義務付け申立て、取消訴訟・義務付け訴訟等がありますが、ただでさえ法的知識のない人には躊躇される手続きである上、年金保険独自の分かり難い仕組みやルール、不適切な窓口対応、重箱の隅をつく「返戻(ヘンレイ)」等の「悪しき業界慣行」が専門知識のない方にとって権利行使の高い壁となり、多くの事例で泣き寝入りを強いられているのが実情と思われます。 そこで、障害年金を必要とする人に確実に行き届くようにするため、障害年金問題に関わってきた(あるいはこれから関わろうと志を持つ)社労士、研究者、弁護士等が、具体的事案を通じて研鑽を重ね、ノウハウを習得し、協力しながら解決に当たるべく、「障害年金法研究会」を立ち上げます。 当研究会は、 ①具体的事案について協働して解決に当たること ②学習会・研究会を通じて障害年金問題について研鑽を重ねること ③制度や運用についての問題点を把握し、問題提起や提言を行うこと を活動の内容としていきたいと考えています。 研究会は3か月に1回程度の開催を目標としています。 そのうち年2回程度を第1回のように基礎的知識習得のための「障害年金入門講座」学習会として適宜織り込み会員の基礎力アップを図りたいと思います。 また、専門分野の異なる混成チームでもあり、当面は、できるだけ顔の見える関係で集まり、メンバー同士の距離を縮めるよう心がけたいと思います。 ただ、日常的な意見交換については、MLも活用します。長期的な目標としては、全国どこでも障害年金問題に対応できる専門家の相談体制ができること、やがて国の政策へも影響力をもつ団体に育っていくことを目指していきたいと考えています。 |
すなわち、
① 現状認識:国・年金機構の理不尽な制度運用・慣行により、本来保障されるべき障害のある人の重要な権利であるはずの障害年金が受給出来ていない。
② 目的:必要な人に障害年金が行き渡るようにする
③ メンバー:社労士・研究者・弁護士等の連携
④ 方法:具体的事案を通じた研鑽と学習会・研究会
⑤ 目標:専門家の相談体制構築、国の政策への影響力を行使できる団体になる
という決意が表明されている。
当会規約第1条に当会の目的が書かれている。
本会は障害年金を必要とする人に確実に行き届くようにするため、障害年金問題に関わる弁護士、社会保険労務士、研究者、行政職員、医師、ソーシャルワーカー等が、具体的事案を通じて研鑽を重ね、協力しながら解決にあたることを目的と |
する。
すなわち、障害年金問題に関わる弁護士・社労士・研究者・ソーシャルワーカー等が協力して具体的事案を通じて研鑽を重ねて協力していくことを目的としている。
会員資格は、規約第4条により次のものである。
「本会は第1条の目的に賛同する、弁護士、社会保険労務士、研究者、行政職員、医師、ソーシャルワーカー等を会員とする。」
すなわち、人権擁護の専門家である弁護士・障害年金実務に精通した社会保険労務士・ソーシャルワーカー等の多業種にわたる実務家の協働を特色とし、それを単なる目先のテクニックの上達に留めず、アカデミックに理論的に研究し、制度全体・市民全体の幸福追求に資することを目的としている。
2015年11月18日 46名
2016年 5月27日 71名
2020年 4月16日121名
4年で3倍増であるが、人数の規模よりも主体的に参加する会員の存在を重視している。
上記の2020年4月16日時点の121名の職種別内訳は次のとおり。
弁護士会員45名
社労士会員62名
その他会員14名
その他は、研究者・社会福祉士・精神保健福祉士・年金機構職員等である。
障害年金問題に取り組む社会保険労務士(社労士)を中心とする団体は数多あるが、当会は社労士の比率を50%程度以内に抑えるようしている。
それは、設立の目的の一つに
「障害年金事件のできる弁護士を増やす」ことがあるからである。
当会代表橋本は、かつて障害年金の審査委員を務めてきた経験から、弁護士が受任して専門的に主張・立証すれば救済されていたはずの事案が、代理人を使わない本人による年金請求であるがゆえに棄却されてきた事例を多く見てきたことから、障害年金問題を担える弁護士の裾野を広げたいという思いをもって、この会の設立を思い立ったものである。
当会規約第3条が当会の具体的な活動を規定している。
第3条(活動) 本会は第1条の目的を達するため、次の活動を行う。 ① 具体的事案について協働して解決に当たること。 ② 勉強会を通じて障害年金問題及びこれに関連する問題について研鑽を重ねること。 ③ 制度や運用についての問題点を把握し、問題提起や提言を行うこと。 ④ その他本会の目的に必要な活動 |
① 具体事案を協働して解決すること。
これは実際には目立って活発に実践してきたとまでいえない。
協働の必要性を感じた事案についてある会員が特定の会員や広く会員全般に一緒に事件の担当をしませんかと呼び掛けて、共同受任体制が個別事件ごとに組まれている。
個別事件自体を会として管理しているわけではない。
その中で特に会員で深く共同研究したり意見交換をするに相応しい事案について、裁判事例検討部会において、共同研究がされている。
② 勉強会での研鑽
これは、会員全員に参加資格があり、会員以外の専門職にも参加を呼びかけて行う定例学習会である。
具体的な活動履歴は後述する。
③ 制度に関する提言
障害年金の問題は具体的な当事者による具体的事件になって表れる。
しかし、そこには多くの共通の課題があり、権利侵害を産み出す構造的な課題を抽出し、国の制度や運用それ自体を改善しない限り、「永遠のもぐら叩き」に終始し、保障されるべき権利が多くの人にとって絵に描いた餅のままである。
障害年金分野は、制度が極めて複雑で理解が困難な状態にあることもあり、患者団体等の運動はあったものの、市民団体や研究者や人権擁護団体からの改善の働きかけが大きな成果を産んで来なかった分野と言える。
当会は、100名程度の団体ながら、その専門性と協力した力と知見を結集し、国が抱えるこの分野の構造的な課題にメスを入れ、国に提言活動を行い、具体的な成果を挙げて、市民全体の権利保障の水準を向上することを究極の目的としている。
全会員が参加可能な年3回~5回程度実施する研究会の本会(定例会)の実施をメイン活動に据え、会員全員のレベルアップを図りつつ、その傘下の部会活動が突っ込んだ議論を行っている。
また、各自の担当している事件に関する相談や報告等はメーリングリストを通して行われている。
1 組織構成
会長が橋本宏子、事務局長関哉直人が実務のトップであり、藤原精吾・池原毅和の障害年金訴訟経験豊富なベテラン弁護士2名を顧問としている。
会の運営方針は10名程度の運営委員会が決定しているが、同委員会をサポートするメンバーも10名ほど加わった拡大運営委員会を1か月~2か月に1回程度開いて、実務運営している。
2 定例会と部会
会員全員に参加資格のある本会(定例会)の下に部会がある。
部会は現在、裁判事例検討部会一つである。
法制度研究を深めるための部会の必要も指摘されているが、マンパワー的に設置が難しいため、法制度研究の面も裁判事例検討部会が兼ねているのが現状である。
2015年10月28日の設立総会の日に開催した第1回から、2019年12月13日実施の第16回まで、4年と2か月間の間に16回の研究会本会(定例会)を実施した。
参加人数は、60名~80名程度である。
金曜日の午後6時~8時に開催することが多い。
会場は、上智大学の教室か、四ツ谷近くの有料会議室である。
また、聴覚障害ある受講者も想定し、第13回以降は、文字認識ソフト「UDトーク」を基本として人的補正を行って行う「文字通訳」を表示するようにしている。
なお、次の会のホームページに、毎回の研究会活動を案内・報告している。
研究会の本会(定例会)
回数 |
年 |
月日 |
テーマ |
講師 |
グループワーク |
1 |
2015 |
10月28日 |
障害年金の基礎/障害年金問題-問題になりやすいケースについて |
永野仁美上智大学准教授(会員) 安部敬太社労士(会員 |
|
2 |
2016 |
2月24日 |
ケーススタディ 申請から訴訟まで~弁護士、初めての障害年金 |
黒松百亜弁護士(会員)山下律子社労士(会員) |
|
3 |
|
5月25日 |
障害年金請求にとっての初診日の重要性 |
安部 |
有り |
4 |
|
9月23日 |
精神障害判定ガイドラインで変わる? 障害年金認定 |
安部・塚越良也社労士(会員 |
有り |
5 |
2017 |
3月3日 |
がんの障害の程度認定について |
安部 |
有り |
6 |
|
6月9日 |
社会的治癒 |
安部・倉本貴行社労士(会員) |
有り |
7 |
|
9月22日 |
裁判を通して知的障害の障害認定を考える |
土井裕明弁護士(外部講師) |
|
8 |
|
12月22日 |
血友病事案を通じた専門家協働の報告―日常生活能力を考えるー |
関哉直人弁護士(会員)・安部 |
|
9 |
2018 |
2月16日 |
障害年金訴訟の最前線報告 |
藤原精吾弁護士(会員) |
|
10 |
|
5月25日 |
障害年金と成年後見人の役割~障害年金の申請を怠った成年後見人に賠償が命じられた |
藤岡毅弁護士(会員) |
|
11 |
|
9月14日 |
大量支給停止問題から障害年金を考える |
永野・橋本宏子代表・小林美智子弁護士(会員)・安部・溝上久美子社労士(会員) |
|
12 |
2019 |
1月18日 |
知的障害者の就労と障害年金 |
尾林芳匡弁護士(外部講師) |
|
13 |
|
4月19日 |
1000件以上の障害年金事案を経験して見えたきた課題と弁護士への期待 |
安部 |
|
14 |
|
6月7日 |
国際比較・歴史的考察・統計調査から見る日本の障害年金の実情と課題 |
百瀬優流通経済大学准教授(外部講師) |
|
15 |
|
9月20日 |
アスペルガー障害を有する原告の支給停止取消が認められた東京地裁2018年4月24日判決について |
寺田了弁護士(外部講師) |
|
16 |
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12月13日 |
「法律家のための障害年金実践ハンドブック」から考える障害年金の未来 |
河野正輝九州大学名誉教授(外部講師)・藤岡・坂本千花弁護士(会員)・山本奈央社労士(会員) |
|
第2回~第6回は、6~7名に班分けしてグループワークを実施した。
グループワークは各自が自分の頭で考えざるを得ない状況になるメリットがある反面、障害年金分野初心の弁護士の参加のハードルを上げるデメリットもある。
またグループワークは円滑に進行するための下準備に負担が大きい面もある。
そのこともあり、上記回以外は基本的には講師による講義形式であった。
また、第11回、第16回はパネルディスカッションが実施された。
障害年金実務の基礎講座の趣旨で実施されたのが
1回「基礎講座」、2回「申請から訴訟までの実務」、3回「初診日」。
7回:2010年1月19日大津地裁判決を報告した「滋賀の知的障害不支給訴訟」の土井裕明弁護士の講演。
9回:神戸地裁での差引認定訴訟や、国による時効援用を信義則違反として排斥した2017年11月30日名古屋高裁判決等を報告した「障害年金関連訴訟の最前線報告」の藤原精吾弁護士の講演。
12回:2018年3月14日東京地裁判決を報告した「知的障害者の就労と障害年金」尾林芳匡弁護士の講演。
15回:「アスペルガー障害を有する原告の支給停止取消が認められた東京地裁2018年4月24日判決について」の寺田了弁護士の講演。
これらは、障害年金訴訟の最新の重要判例を担当弁護士自ら解説してもらえる得難い講演であり、当会ならではの特色である。
また、10回の「障害年金と成年後見人の役割」は担当弁護士ではないが、会員の藤岡が、成年後見人の障害年金申請義務を論じた重要判例である2017年1月16日松江地裁判決(賃金と社会保障1707号30頁)を担当した伊藤崇司司法書士から詳しい情報提供を受けながら判例報告を行った。
4回:「精神ガイドライン」は、障害年金実務に携わる者にとって習得必須である2016 年9 月1 日から国が施行した「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の概要と課題を2016 年9 月23日から学べるというタイムリーな企画であった。
11回:「大量停止問題を考える」は、これも障害年金を担当する者が理解しておくことが必須である2018年5月頃発覚した約3000人の障害年金が支給停止となるという事件について、2018年9月14日に学習できる時機を得た企画であった。
障害年金を主な業務としている社労士にとっては基礎事項かもしれないが、少なくとも弁護士には応用編として位置づけられる事項についても詳しい学習ができる。
5回:「ガン」、6回:「社会的治癒」、8回:「血友病と専門家協働」、13回:「1000件以上の障害年金事案を経験して見えたきた課題と弁護士への期待」等がそれである。
14回:「国際比較・歴史的考察・統計調査から見る日本の障害年金の実情と課題」は障害年金に関する専門研究実績が豊富な百瀬優流通経済大学経済学部准教授による、国際比較・歴史的考察・統計調査等の客観データに基づく日本の障害年金制度の姿・課題を浮き彫りにする深い考察の研究報告であり、会員各位はこの分野で仕事をしながらも初めて学ぶ視点に眼を開かされた。
16回:「「法律家のための障害年金実践ハンドブック」から考える障害年金の未来」は、日本社会保障法学会代表理事を長年務めた経歴を持ち、現日本障害法学会代表理事でもある河野正輝九州大学名誉教授をお招きし、日弁連が2018年3月に障害年金に関する初めての解説書籍を発行したことを契機に、日本の障害年金について私たちがなすべきことを考えるための討議を行った。
上記3において①~⑥と特徴を述べたとおり、障害年金に関する基礎が学べ、最新情報や応用編も習熟し、最先端の判例情報や研究成果を学びながら、今後のことを考えるという、わずか4年間とは思えない、バランスの取れた、濃密な活動が行えたものと考える。
折角のこれらの成果を今後発行する本誌において、さらに詳しく報告できれば幸いである。
社労士は、代理人弁護士の補佐人として、訴訟に参加出来る。
そのため、原告代理人として活動する弁護士会員を社労士会員が共同受任して補佐人として訴訟を補佐するという形態で障害年金訴訟や審査請求を共同遂行することが行われている。
今までは、すぐに頼める弁護士が身近にいないために不支給とされた依頼者が司法で争うという機会を断念させていた社労士会員にとって、司法救済への道が近くなったメリットがある。
また、弁護士会員であっても障害年金事件の占める業務割合は僅かであり、障害年金の細かい実務にまで精通しているわけではなく、経験値の高い社労士会員に経験・知識から来る助言をもらえることはとても心強い。
実際にこのような協働により徐々に成果を挙げ始めている。
「法律家のための障害年金実務ハンドブック」制作の中心メンバーとして関与。
全国で障害年金の受給に関して法的救済が必要な人が多数存在するにも関わらず、対応ができずに放置されている現状がある。
日弁連の上記書籍もまた、今まで障害年金事件の人権救済に関して、十分な役割を果たしてこれなかった弁護士・弁護士会として、その状況を変革するための一里塚として全国共通の弁護士向けテキストを刊行するという目的からの発行であった。
この点は、当会第16回研究会のテーマとして特集した内容であるが、日本弁護士連合会が初めて障害年金に関する解説書籍として2018年3月に発行した「法律家のための障害年金実務ハンドブック」(民事法研究会)は、当会発足と同時に進められた企画であり、執筆中心メンバーは当会会員が担った。
当会は、「障害年金を担当できる弁護士を増やす」ことを目標に掲げているところ、東京周辺を活動範囲とする当会だけの力では、それはかなわない。
そのため、同じ目的を持つ団体として事実上協力している。
日弁連が会員向けに実施している障害年金学習会の講師も当会会員が多く担当している。
また、日弁連は、「全国一斉障害年金電話法律相談会」を2018年12月21日に第1回、2019年11月5日に第2回実施している。
この企画についても、弁護士会員はもちろんのこと、社労士会員も各地の弁護士会で、アドバイザーとして協力している。いわば日弁連のこの分野の活動を下支えすることも当会の隠れた?活動内容である。
事例検討部会は①裁判事例についての検討、②裁判事例に共通する論点の検討、③「あるべき障害年金制度」へ向けた政策提言について議論を、比較的少人数で行うため、2018年8月に設けられた。同部会の議論は、一定の整理ができれば、それを本体定例研究会のテーマとしていくことをも視野に入れている。
回 |
年 |
月日 |
テーマ |
報告者 |
参加 |
1 |
2018 |
10月15日 |
発達障害の20歳遡及請求不支給決定取消訴訟(係争中) |
小林美智子弁護士(会員) |
20名 |
関節リウマチの社会的治癒訴訟(係争中) |
徳田暁弁護士(会員) |
||||
2 |
2019 |
1月18日 |
眼瞼けいれんについての行政争訟 |
安部敬太社労士(会員) |
20名 |
肢体障害の20歳遡及請求について裁判希望案件 |
〃 |
||||
3 |
2019 |
4月19日 |
障害年金の将来 変革を意識した改良─求めるべきは「稼得能力での認定」なのか―障害年金法研究会における協働、研究者の役割に関連して |
橋本宏子(代表) |
23名 |
関節リウマチの社会的治癒訴訟(係争中) |
徳田暁弁護士(会員) |
||||
4 |
2019 |
6月28日 |
Ⅰ型糖尿病障害年金支給停止等取消訴訟─大阪地裁判決(平成31年4月11日)とその後 |
青木佳史弁護士(外部講師) |
17名 |
5 |
2019 |
10月16日 |
障害者の年金・手当・福祉サービス法における社会参加阻害の要因と展望─障害法の視点から─ |
河野正輝九大名誉教授(外部講師) |
15名 |
更新の有無(有期認定、無期認定)についての行政争訟の組み立て |
安部敬太社労士(会員) |
||||
6 |
2020 |
2月10日 |
第17回本研究会「1型糖尿病訴訟を契機に考える法律問題~認定のあり方・理由付記~」の事前準備 |
橋本宏子(代表) |
12名 |
7 |
2020 |
8月5日 ウェブ方式 |
第17回本研究会「1型糖尿病訴訟を契機に考える法律問題~認定のあり方・理由付記~」の事前準備② |
橋本宏子(代表)
|
24 名 |
精神障害の不支給決定についての理由付記事案 |
七尾由美子社労士(会員) |
当会の目的として障害年金の国の制度運用の改善のための提言活動は重要である。
当会設立から2019年までに実施された、当会から国に対する提言申入れ活動として次の2件が挙げられる。
[問題の所在]2016年4月1日、「社会保険審査官および社会保険審査会法」の改正法(行政不服審査法の社会保険分野における法)が施行された。
法改正の眼目の一つとして口頭意見陳述期日における当事者から処分庁に対する質問権が保障された[1]。
この点、現在最高裁裁判官である宇賀克也(当時東京大学教授)著[2]の解説では[質問権を保障した以上守秘義務を負う内容でなければ回答義務があるのは当然である。従って原処分の担当者等質問に的確に回答することができる職員が出席すべきである。処分庁等はその場において回答すべきことを原則とすべき…]とされる。
[法改正1年にわたる処分庁の全て欠席という実態]
しかしながら、処分庁である厚労省は、障害年金の行政不服審査手続の口頭意見陳述期日に2016年4月1日~2017年2月までの約1年間にわたり一切出席することがなく[3]請求人の質問権が行使できない状態が続いていた。
[総務省と厚労省との面談・申し入れ]
そのため当会は、請求人の質問権を保障するために、行政不服審査法を管轄する総務省と障害年金に関する処分庁である厚労省に対して、懇談の場を設け、口頭意見陳述に出席するよう求めた。2017年3月1日、総務省行政管理局行政手続室、厚労省年金局事業管理課長、給付事業室長等と面談した。高市早苗総務大臣及び塩崎恭久厚生労働大臣に対する「申入書」も提出した。
面談後に記者会見も設定して、広く社会問題化しようとしたこともあり、厚労省事業管理課長は、厚労省職員のウェブ参加と録音による記録を約束するに至った。
報道の一例として、東京新聞は2017年3月2日以下のように報道した。
200件以上超の年金不服申し立て 厚労省、審理出席ゼロ 社会保険労務士や弁護士らで作る団体からの改善要請を受け、明らかにした。 申立人が国に質問できるようにするという法改正の目的を骨抜きにしている形で、厚労省は不適切だったことを認めて「4月からはテレビ電話などで出席するようにしたい」としている。 |
その結果、関西(近畿厚生局)では実際に国の職員が期日に参加するようになり、それ以外の地域では、ウェブ方式で国の職員が参加するように運用が改められた。
2019年8月22日の関東信越厚生局における口頭意見陳述において、録音がされなくなった。
社会保険審査官は、厚労省保険局社会保険審査調整室による社会保険審査官事務取扱マニュアルから、「必要に応じて録音をすること」との文言が削除されたためだと述べた。口頭意見陳述は録音し、記録を適正に残すようしないのであれば、口頭意見陳述における陳述、質問および保険者による回答のすべてが審査の対象とされることはなくなり、審査請求人の口頭意見陳述において陳述し質問する権利が剥奪されているに等しい。
9月9日、野田社会保険審査室室長と懇談し、「マニュアル改訂はしたが、録音をするなという指導ではない。誤解されているようなので、文言を修正し、録音というる文言を復活させる。」という回答を得た。
10月、マニュアルに「なお、録音する場合は、参加者の許可を得て行うこと。」との文言が挿入された。結果、同月から関東信越厚生局において、再び録音がなされることになった。
ただし、同室長は懇談において「請求人が質問し、保険者が回答した」との記録の内容でも、問題はないという主張を変えることはなかった。この点、さらに記録として確認可能なものとするよう求めていく必要がある。
多数の理不尽な事案が数多存在しており、そこには共通の課題が見え隠れしている。
そうであれば、その課題の正体を暴き、では、どういう障害年金法制度を設計すれば良いのかを突き詰めて、制度の根本改革を行う必要がある。
しかし、そもそも障害年金の目的について何を重視して設計するべきなのかという基本的な認識についても、共通した結論に達するには未だ議論が成熟していない。
会員も日々の多忙な業務に追われ、突き詰めた研究と議論の共有化は緒についたばかりである。
本「障害年金法ジャーナル」がその前進の足掛かりになることを期待したい。
以上