Ⅳ 「障害年金における複数障害の併合認定手法」

安部敬太

目次

I.      はじめに

II.     併合認定の現状

1.       法令

2.       認定基準

(1)               併合(加重)認定

(2)               総合認定

(3)               差引認定

3.       併合事例

(1)               尋常性天疱瘡による複数障害の認定

(2)               精神障害と膵臓癌による膵臓全摘後後遺症

(3)               頭部有棘細胞がん

(4)               多数の障害手当金程度の障害が

(5)               がん後遺症・障厚3級(1度は2級・障基支給停止)とうつ病

(6)               脳梗塞での肢体3級との併合—言語3級と精神3

4.       併合して等級が上がる場合と上がらない場合

(1)               2級が2つある場合—併合1級と併合2

(2)               3級が2つある場合—併合2級と併合3

(3)               障害手当金が2つ—併合3級と併合障害手当金

III.       歴史的経過

1.       1985年改正前の厚年法

(1)               1955年認定基準

(2)               1958年認定基準

(3)               1961年認定基準

(4)               1977年認定基準

2.       1985年改正前の国年法

3.       1986年認定基準

4.       小活

IV.    おわりに—併合認定の問題点

1.       障害をバラバラにする認定

2.       根拠なき併合(加重)認定

3.       認定のあり方の見直しの必要性

 

 

I.     はじめに

本稿は、日本の障害年金の認定おいて、複数の障害を有する場合に等級をどのように認定するのかという、障害の併合手法について、その現状を確認したうえで、その認定による問題点が日本の障害年金の認定のあり方が抱える根本問題によって生じているのではないか、という方向から検討することをめざすものである。障害年金は障害による稼得能力の喪失分を補填するものと国は説明しながらも、等級認定を画する手法は医学モデルが徹底され、客観的な機能障害の認定を重視し、かつ、各等級に該当する「全般的活動制限・参加制約」(個人の個々の動作ではなく、その総体としての、家庭内活動(身辺処理や軽い家事の可否、介助の必要性、活動範囲、外出の可否等)、地域活動および稼得活動(肉体労働や座業の可否等)における制限ならびに社会参加への制約をいう。以下同じ)の程度により等級を画することが規定されていないことはもちろん、十分な説明もなされておられず、その結果、稼得活動が大きく制限され、稼働ができない状態であっても、障害年金が支給されないことが多々ある[1])。このような根本問題が、併合認定における問題を引き起こしているのではないか、という点を基底において、論を進めていきたい。

障害年金においては「併合」という用語は様々な意味合いで使われる。本稿においては、複数の傷病に基づく障害(または障害年金)を併合する、①「国民年金法(以下「国年法」)31条、厚生年金保険法(以下「厚年法」)48条・52条の21項による併合」、②初めて1級または2級(国年法30条の31項および厚年法47条の31項)および③併合改定(国年法344項・362項但書、厚年法524項・52条の22項・542項但書)の3つの条文で使われている「併合」(以下「条文上の併合」[2]))ではなく、複数の障害がある場合の認定手法(「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」(以下「認定基準」)[3]),32章併合等認定基準、以下「併合手法」)について、検討する。併合手法は、単独の傷病により障害が複数ある場合のその傷病による障害程度を判定する場合に用いられるだけでなく、「条文上の併合」の適用の可否および適用後の障害等級を判定する場合にも用いられる。また、この併合手法に明確な法令上の根拠はない。

なお、ここでは等級については主に2級について検討する。2級までしか支給対象とされない障害基礎年金単独の受給者は受給者全体の8割を占め、障害年金全受給者のうち2級は6割で、1級と合わせると94%に達し[4])、多くの場合に障害の程度が2級以上と認定されるかどうかが障害年金が支給されるか否かを画するからである。

 

II.   併合認定の現状

1.     法令

国民年金法施行令(以下「国年令」という)に、111号、国年令217号ともに、「身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であって、その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの」と規定されている。

1級については、11号にある「前各号と同程度以上と認められる程度のもの」とは、実際には包括条項である「9号 前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」を指すものと解される。

2級については、15号にある「前各号と同程度以上と認められる程度のもの」とは、実際には包括条項である「15号 前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」を指すものと解される。

 3級や障害手当金については、厚生年金保険法(以下「厚年法」)および同施行令(以下「厚年令」)に重複障害についての規定はないものの、同一傷病による複数の部位等に係る複数の障害については、下記2の併合等認定基準が適用される。一方、別傷病による複数の障害を併合して3級や障害手当金と認定することはない[5])。初めて1級または2級による認定という別傷病による併合が想定される2級以上と違って、3級や障害手当金についてはそのような規定はないためである。

 

2.     認定基準

 上記1の法令上の複数障害の認定は、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」(以下「認定基準」)[6])の第32章併合等認定基準により、行われている。以下はその抜粋(一部補足)である。

(1)  併合(加重)認定

   2つの障害が併存する場合…個々の障害について、併合判定参考表[7])における該当番号を求めた後、当該番号に基づき併合(加重)認定表による併合番号を求める。


 

併合(加重)認定表

   号数は併合判定参考表のもの。政令別表の号ではない。

   2号〜4号が2級、57号が3級、810号が手当金(傷病が治っていない場合は3級)

   併合2級に関しては、7号が2つでは6号(3級)にとどまり、一方が5号または6号であれば7号と併せて併合2級となる。5号は視力と聴力の障害のみ、6号は視力、そしゃく・言語、肢体(上肢、下肢、脊柱)のみが列挙されていて、それ以外の障害はすべて7号である。

 

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   3つ以上の障害が併存する場合…併合判定参考表の「障害の状態」に該当する障害を対象とし、

ア 併合判定参考表から各障害についての番号を求め、

イ アにより求めた番号の最下位及びその直近位について、併合(加重)認定表により、併合番号を求め、以下順次、その求めた併合番号と残りのうち最下位のものとの組合せにより、最終の併合番号を求め認定する。

(2)  総合認定

認定の対象となる内科的疾患が併存している場合または精神障害が複数ある場合[8])については、併合(加重)認定の取扱いは行わず、総合的に判断して認定する。

(3)  差引認定

障害認定の対象とならない前発障害と同一部位に新たな後発障害が加わった場合は、現在の障害の程度から前発障害の障害の程度を差し引いて、後発障害の障害の程度を認定する。

 

 本稿では、このうち併合(加重)認定と総合認定について、主に検討する。

 国は、国年令111号、217号に該当するか否かを併合(加重)認定および総合認定により判断することが可能であると解釈していることになる。

 

3.     併合事例

併合手法の問題点が凝縮されていると思われる事例をみていく。

(1)  尋常性天疱瘡による複数障害の認定

尋常性天疱瘡[9])による「障害基礎年金および障害厚生年金」2級の受給者が、更新診断書により3級への級落ち処分を受け、その取消を求めた事案に対する判決[10])を検討する。

     診断書

「高用量のステロイド,免疫抑制剤使用で18年経過している。この間原病のコントロールに見通しがつかないまま,副作用が徐々に蓄積してきている。原治療はプレドニゾロン10mg,MTX(注:メトトレキサート)12mgの併用治療施行。圧迫骨折,易感染,耐糖能異常,高尿酸血症,腎結石など出現。」、一般状態区分表ウ「歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの」、自覚症状として「病勢は軽快傾向(免疫抑制強力)、皮疹と全身倦怠感、圧迫骨折後の腰痛,脊柱管狭窄症による下肢痛、尿路結石による疼痛」があり、他覚所見として「骨粗しょう症、ステロイド性の脂肪肝,耐糖尿異常」があり、「日常生活活動能力及び労働能力」は「これまでの高用量ステロイド・免疫抑制剤使用による副作用の蓄積が多大である。皮疹はおちついてきたが,全身倦怠感強くさらに易感染,腰痛・下肢しびれ等が加わり就労が難しい状態がつづいている。」とある。

      判決

「原告は,尋常性天疱瘡以外の諸症状は,治療に用いられたステロイド剤の副作用によるものであって,尋常性天疱瘡と相当因果関係があることから,同一傷病として扱う必要があると主張している。この主張は…圧迫骨折,易感染,耐糖能異常,高尿酸血症,腎結石,全身倦怠感,圧迫骨折後の腰痛,脊柱管狭窄症による下肢痛,尿路結石による疼痛,骨粗鬆症,ステロイド性脂肪肝,耐糖尿異常について,障害認定基準の適用に当たっては,いわゆる難病についての基準を適用すべきである旨をいうものと理解することができる。…しかしながら,障害認定基準は,「重複障害」として,身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合の障害程度の認定について定めている(第19節)…重複障害の基準においては,個々の障害について,併合判定参考表上の該当番号(例えば,「精神又は神経系統に労働が制限を受けるか,又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」は3級8号又は障害手当金8号である。)を求めた後,当該番号に基づき併合〔加重〕認定表による併合番号を求め,障害の程度を認定するのであり(「併合等認定基準」第2節),併合判定参考表の「障害の状態」の判断に当たっては,個別の障害について定められた障害等級認定基準を参照すべきことは明らかといえる。したがって,上記主張を採用することはできない。…他の障害につき別途障害等級認定基準として認定基準及び認定要領が定められているときには,当該障害等級認定基準の定めを踏まえて障害の程度の認定をする必要があるところ…①ステロイド性脂肪肝は「肝疾患による障害」の認定要領が,②耐糖能異常(本件診断書における「耐糖尿異常」の記載は,耐糖能異常を意味するものと解される。)は「代謝疾患による障害」の認定要領が,③圧迫骨折,圧迫骨折後の腰痛,脊柱管狭窄症による下肢痛は「肢体の障害」のうち「上肢の障害」若しくは「下肢の障害」又は「神経系統の障害」の認定要領が,④腎結石,尿路結石による疼痛は「神経系統の障害」の認定要領が,各障害に対応する障害等級認定基準として定められているといえる。したがって,これらについては,仮に原告に対するステロイド治療によって生じた副作用であるとしても,障害等級の認定に当たっては,上記各認定要領を踏まえて検討する必要がある」とし、これら①〜④等について、それぞれ個別に3級にも手当金にも該当していないとしたうえで、「以上からすれば,本件診断書作成日における原告の全身倦怠感の症状を含めた尋常性天疱瘡の状態は,障害等級3級に該当する一方,その他の障害の状態には障害等級3級及び障害手当金(厚年令別表第2)に該当するものがあるとはいえない。…したがって,重複障害を検討するまでもなく,本件診断書作成日における原告の状態は,障害等級3級にとどまるというべきであり,本件処分は適法である。」として請求を棄却した。

     評価

 本判決は、複数の障害については、併合(加重)認定を行うことを前提として、部位別の各症状や障害の状態を個別に判断して、それぞれに3級や障害手当金の程度に該当しないと判断している。

現行併合認定基準にも則っているとはいえない点がまず指摘できる。①の肝疾患と②の代謝疾患は、ともに内科的疾患であることから、総合認定を行うことになる。総合認定を行うにあたって、それらが単独で障害手当金の程度以上に該当することは要件とはなっていない。ただ、これらを総合認定したとしても、その結果が、併合判定参考表のいずれかに該当しない限りは、併合(加重)認定は行われることはないことは判決の述べているとおりである。

 一人の「生」に関わる全般的活動制限・参加制約が、2級の法令による障害程度である「日常生活が著しい制限を受けるか、又は、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」に該当する否かではなく、一人の人体に生じている様々な症状や身体部位別の障害をそれぞれバラバラに切り分けて、それぞれについて、等級に該当するかどうかを検討している。全般的活動制限・参加制約によって認定するのではなく、解剖学的、生理学的に、個々の障害を別々に判断している。これは、典型的な医学モデルといえる。そして、それを前提として、「併合(加重)認定」という手法で、2級か否かを認定したのが本判決といえる。

 

(2)  精神障害と膵臓癌による膵臓全摘後後遺症

 精神障害3級の受給権がある人が、糖尿病(血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満)と膵臓癌による膵臓全摘出の合併症である胆管炎で発熱を繰り返し1年の3分の1程度は入院が必要であり倦怠感が大きく外出も一人ではほとんどできない状態であった。そのため、精神障害、糖尿病(一般状態区分[11])エ「しばしば介助が必要で、半日以上臥床、独力での外出不能」)および膵臓癌(術後後遺症を含む、以下同じ。一般状態区分イ「軽労働は可能」)とを併せて「初めて2級」の請求をした案件についての棄却処分はその主な理由として、膵臓癌についての一般状態区分評価がイであったことを挙げていた。社会保険審査会裁決は、糖尿病は3級であるものの膵臓癌は3級にも該当しないとし、仮に3級に該当したとしても、内科的疾患同士である糖尿病と膵臓癌は総合認定をすることとなりこの2傷病を総合認定しても2級となることはなく、3級(併合判定参考表7号または10号)にとどまり、精神障害3級(併合判定参考表7号)とを併合(加重)認定表に入れ込んで併合(加重)認定を行ったとしても3級(併合判定参考表6号または7号)にとどまり、初めて2級には該当しないと裁決した。

 この処分、裁決も、一人の人間の「生」全体の困難性である全般的活動制限・参加制約を判断しようとしたものではなかったといえよう。

 

(3)  頭部有棘細胞がん

頭皮の癌が脳に侵食した頭部有棘細胞がんにより、癌本体による倦怠感(一般状態区分ウ「軽労働はできない」)、高次脳機能障害および平衡機能障害が生じた事案[12])について、国は、高次脳機能障害については精神障害3級(併合判定参考表7号)および平衡機能障害(併合判定参考表7号)について3級は認めたものの、癌本体については、一般状態区分の評価は精神障害と平衡機能障害による影響が加味されているとして、3級非該当と判断し、全体としては3級にとどまるとの処分をした。再審査請求に対する社会保険審査会裁決は、癌本体についても軽度の貧血と白血球減少も考慮して、その著しい倦怠感について労働に制限がある程度と判断し314号として併合判定参考表7号とし[13])73つを併合(加重)認定表に入れ込んで、7号が2つで6号、これを残りの7号と併合して4号(2級)と認定した。

この事案も、複数の障害を切り分けて、それぞれ判断することが、まず大前提としてあるため、稼得活動ができないという全身状態を、がん本体による倦怠感によるものとして捉えてがんの認定基準に当てはめて、少なくともがんで3級と認定するのではなく、医学的認定が容易な平衡機能障害と、がんに比べてと認定が一般化している精神障害によるもののなかに入れ込んで併合判断した結果、稼得活動ができないのに2級と認定されなかったものである。

社会保険審査会は結果的に2級を容認したものの、その認定手法は全般的活動制限・参加制約の程度について2級か否かを認定したのではなく、他の障害と切り分けて、がん本体だけで認定可能かどうかを判断し、その根拠として血液検査結果を挙げていることからも、医学モデルにより個別の障害や症状を認定し、その後に併合(加重)認定表によって複数の障害による等級を決定するという併合(加重)認定の域を超えるものとはいえない。

 

(4)  多数の障害手当金程度の障害が

障害手当金程度の障害がいくつあっても2級とならない。

強直性脊髄炎の診断書は、認定基準7節 肢体の障害により以下の程度であった。「1関節の用を廃したもの」は併合判定参考表8号とされ、これは他動可動域が参考可動域の半分以下となったものであり、本件の両手関節は参考可動域の半分以下だったため、これで8号が2つとなり、左足関節も参考可動域の半分以下であったため8号であった。「脊柱の機能に障害を残すもの」は併合判定参考表8号とされ、これは「脊柱の他動可動域が参考可動域の4分の3」とあり、頚部または胸腰部のどちらかが該当することが要件とされているところ、本件は頚部がこれに該当し8号であった。「1関節に著しい機能障害を残すもの」は併合判定参考表10号とされ、これは他動可動域が参考可動域の3 分の2 以下となったものであり、両股関節および右足関節がこれに該当し10号が3つとなった。「1上肢のおや指の用を廃したもの」は併合判定参考表10号とされ、これは指節間関節の他動可動域が参考可動域の2 分の1 以下のものであり、両上肢のおや指はこれに該当するため10号が2つとなる。これにより、本件は障害手当金程度が9つ(8号が4つ、10号が5つ)ある。これらを併合(加重)認定により、上記2(1)の②に当てはめて、併合(加重)認定表に入れ込んでいくと、順に10号+10号=9号、9号+10号=8号、8号+10号=7号、7号+10号=7号、7号+8号=7号、7号+8号=7号、7号+8号=7号、7号+8号=7号となり、結局73級にとどまってしまう。

最初から障害手当金とは別に37号が2つあるか、35号または36号が一つないと、障害手当金程度の障害がいくつあっても絶対に2級とはならない。つまり、障害手当金の程度ばかりの場合や、別の3級があっても71つの場合は障害手当金程度の障害がいくつあっても2級になることはないというのが、併合(加重)認定という認定手法にほかならない。

 

(5)  がん後遺症・障厚3級(1度は2級・障基支給停止)とうつ病

 胃がんによる胃全摘出後の後遺症によりダンピング症候群となり、吐気、下痢、体重減少、倦怠感等で稼得活動ができない障害厚生年金3級受給(障害基礎年金支給停止)中の事案に係る額改定請求について、診断書では一般状態区分がエ「しばしば介助が必要で、半日以上臥床、独力での外出不能」と評価されていたものの、不安感強く、精神科にも受診しているという記載により、一般状態区分の評価は請求傷病以外の精神障害の影響も含まれていると考えられるとして、障害厚生年金3級と認定された。精神障害(うつ病)で障害年金請求をして3級と認定されたとしても、内科的疾患と精神障害は併合(加重)認定により、併合(加重)認定表に入れ込むと、がん7号+うつ病7号=6号、またはがん10号+うつ病7号=7号で3級にとどまる。結局は、うつ病の等級で、受給する障害年金の等級が決まることになる[14])

 このように、精神3級と内科的疾患3級という2つの障害ある場合は、稼得活動ができない場合も絶対に2級となることがないというのが、併合(加重)認定という認定手法である。

 

(6)  脳梗塞での肢体3級との併合—言語3級と精神3

脳梗塞での肢体3級(一上肢一下肢の動作がやや不自由、併合判定参考表7号)の障害に適切な言語選択ができないという障害を併合する事案について、原処分は高次脳機能障害3級(併合判定参考表7号)と判断して、併合(加重)認定により、併合(加重)認定表に入れ込むと、7号+7号=36号と認定した。審査請求に対して、社会保険審査官は言語障害3級(併合判定参考表6号)と判断して、7号+6号=24号と決定した。同じ障害を精神障害とみるか、言語障害とみるかによって、併合後の等級がまったく相違することになる。この点も、併合(加重)認定という認定手法の重要な問題点を示している。

 

4.     併合して等級が上がる場合と上がらない場合

 上記3では実際に裁判で争われたケースと筆者が経験した事案についてみてきた。ここでは、併合手法の問題点を示すと思われる想定ケースを挙げていきたい。

(1)   2級が2つある場合—併合1級と併合2

 うつ病2級+線維筋痛症2級、肢体2級+腎疾患2級、頚椎症性脊髄症で肢体2(併合判定参考表4)+聴力80dB(5)、統合失調症2級+肝臓2級、視力2級+視野2級は、内科的疾患または精神障害同士ではないため、併合(加重)認定により確実に併合1級となるのに対して、慢性疲労症候群2級+化学物質過敏症2級、心筋疾患2級+不整脈2級、肝臓2級+透析2級、うつ病2級+脳梗塞による高次脳機能障害2級は内科的疾患または精神障害同士であるため、総合認定によって1級とならない場合が多々ある。

 

(2)  3級が2つある場合—併合2級と併合3

脊柱可動域半分(併合判定参考表6)+人工肛門(7号)、うつ病3級(7号)+両眼0.1以下(6)、人工肛門(7号)+一下肢2関節可動域半分(6)は併合(加重)認定により確実に2級であるのに対して、うつ病3級(7号)+眼瞼痙攣314号、人工肛門(7号)+人工関節(7号)は併合(加重)認定により確実に3級にとどまる。肝臓3級(7号)+腎臓3級(7号)は、内科的疾患同士なので、総合認定が適用され、認定基準上は2級と3級のどちらもある。

 

(3)  障害手当金が2つ—併合3級と併合障害手当金

以下は同一傷病である脳梗塞による障害であるとする。併合(加重)認定により、1関節の用を廃したもの(可動域半分, 併合判定参考表8) +言語機能に障害を残すもの(日常会話が互いに確認することなどで、ある程度成り立つ, 10号)、高次脳機能障害で労働に制限(8)1関節著しい障害(可動域3分の2, 10)、一耳聴力90dB(9)+視野半減(9)は併合3級であるのに対しては、視野半減(9)+言語機能に障害を残すもの(10号)、視野半減(9)1関節著しい障害(10)は障害手当金にとどまる。

 

 このような2つの障害により等級が上がる場合と上がらない場合の違いを合理的に説明することは可能であろうか。

 

III.  歴史的経過

 以下では、併合手法の歴史的経過をみていく。

1.     1985年改正前の厚年法

(1)  1955年認定基準[15])

厚年法の障害年金は、1954年改正で、それまでの2級制から3級制となった。このときには「障害年金の受給権者に対してさらに障害年金を支給すべき事由が生じたときは、前後の廃疾を併合した廃疾の程度による障害年金を支給する。」(48条)とあり、この障害年金の併合後の等級を決定する方法が認定基準に掲げられる。なお、同一傷病により複数障害がある場合も同様の方法が取られることになる。

この改正後、結核に限らずすべての傷病に関して初めて策定された1955年の認定基準には併合手法についての記載があり、そのほとんどを占めていた[16])。ここには、「原則として…併合した廃疾の程度が法別表第1…(包括条項[17])が列記 ※筆者補足)…に該当するかによってその程度を認定すべきであるが、実際上このように認定することは困難な場合も多いので、便宜上次の方法を併合認定の参考とする。」とあり、併合判定参考表により、2つの障害の号数を求め、その号数を行と列に配し交わった等級に認定するという表(1961年以降の認定基準の「併合(加重)認定表」)が掲げられた。この表は、現行の併合(加重)認定表とほぼ同様[18])である。

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   併合判定参考表はどのように策定されたのだろうか。

元々、厚年法の障害等級表(法別表)は工場法から始まる労働者災害補償制度の障害等級表を基礎にして作成されたものであった[19])。そのため、併合判定参考表のランク付けも1947年に制定された労働者災害補償保険法(以下「労災法」)の等級表(労働者災害補償保険法施行規則(以下「労災則」)別表1)に基づいている[20])。このことは、121項目の障害事項のうち、105項目が同一で、6項目が非常に近い障害事項となっていて、合わせると92%が労災の等級表に基づいて記載されていることで確認できる。労災の1級と2級を併合判定参考表1号に、3級を同2号に、4級を3号に、5級を4号がほぼ対応している。そして、併合判定参考表5号だけがこの認定基準において独自に設けられ、4号と6号の間に、視力障害および聴力障害に関する、労災法4級〜6級にあたる3つ障害事項を掲げ、6号以降は労災6級が6号、労災7級が7号…労災13級が13号と同一の番号となっている。

では、上記の表による併合等級の決定は何に基づいているのか。「5号と3号」は1級となるのに、「6号と3号」はなぜ2級のままなのか。「6号と7号」は2級になるのに対して、「7号と7号」や「6号と8号」はなぜ3級にとどまるのだろうか。「8号と10号」や「9号と9号」は3級となるのに、「8号と10号」、「9号と10号」や「10号と10号」はどうして障害手当金のままなのだろうか。これらについての説明はどこにも記載がない。

 

(2)  1958年認定基準[21])

3年の改正で、包括条項によって認定するという原則の記載はなくなり、併合判定参考表号数を表に当てはめる併合方法だけが記載されることになった。この基準で、初めて、差引認定と併合判定参考表各号数の労働能力減退率が初めて記載された。

この労働能力減退率は労災給付に年金が導入される前に一時金で支給されていた各等級の給付日数を遺族給付の給付日数1000日分に対する割合(%)にしたもの(併合判定参考表5号については4号と6号の間の数値)に過ぎず、それ以上の根拠はない[22])。そのため、上記1で提示した疑問に答えることはこの減退率を使用しても不可能である。たとえば、2級の最低号である併合判定参考表4号の労働能力減退率は79%であるのに、併合しても2級とならない「7号と7号」の減退率の和は112%、「5号と8号」の減退率の和は118%になる。一方、32つを併合して最低の合計減退率は「6号と7号」の123%である(1級の低い方の減退率である119%を超えている)。3級の最低の減退率は7号の56%であるのに対して、併合しても3級とはならない「8号と11号」は計65%、「9号と10号」は62%である。

 

(3)  1961年認定基準[23])

併合判定参考表の号数を行と列に入れこんで、併合後の等級を出す表は併合(加重)認定表とされた。上記12においては、障害が3つ以上あるときの記載はなかった。ここでは「三つ以上の障害が併存している場合については、併合判定参考表の「廃疾の状態」に該当する上位の障害二つにより加重認定又は併合認定を行う」とある。また、「内科的疾息の併存している場合については、それぞれの障害について加重認定又は併合認定はできないので、総合的に労働能力を判定のうえ認定を行なう。」との総合認定についての記載がここで初めて登場する。また、この基準で、併合判定参考表号数(労働能力減退率)と等級との関係が明記された。

 

(4)  1977年認定基準[24])

三つ以上の障害が併存する場合の認定方法が変更された。併合判定参考表の「障害の状態」に該当する上位の障害三つを対象とし、①併合判定参考表の「障害の状態」に該当する二位及び三位の障害について、併合(加重)認定表により併合番号を求める。②上記①の併合番号及び一位の障害について、更に併合(加重)認定表により併合番号を求め、認定する、とした。

併合については、1985年改正法が施行される19864月前まで、この認定基準によって認定されていた。

この基準における併合判定参考表と労災等級表との関係については、121項目の障害事項のうち、102項目が同一で、5項目が非常に近い障害事項となっていて、合わせると88%が労災の等級表に根拠があるものであった。

 

2.     1985年改正前の国年法

2つの障害や障害年金を併せて等級を認定する方法は、「総合認定」とされ、同一事故に基づく2以上の部位による障害を認定する場合、経過的に障害福祉年金を支給するようになる場合に2以上の障害(別傷病による障害の場合を含む)を認定する場合および併合認定の場合で前後の廃疾の状態を合わせて認定する場合に行われ、併合手法は以下の3通りであった。2級に該当する程度の機能障害(内部障害[25])による機能障害並びに精神の障害を含む。以下同じ。)が2以上あるときは1級と、②病状と機能障害が重複する場合又は病状が重複する場合には、単純に合算せずいずれか重度の障害の程度によるものとし、その状態が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものであるときは1級と、③機能障害又は病状が重複する場合(前記①の場合を除く。)において、その状態が日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものであるときは2級と認定する。

これは、国民年金の障害年金の対象がすべての傷病によるものに改正された最初の認定基準である1966年認定基準、その後改正された1979年認定基準によっても、ほぼ同じ内容であった。

国年には表に機械的に入れ込んで等級を認定するという、併合(加重)認定はなく、差引認定もなかった。

この国年の「総合認定」は外部障害や内部障害、精神障害という障害種別による区別をつけることもなく、「全般的活動制限・参加制約」の程度が、111号や217号に照らして判断するというものであったといえよう[26])

 

3.     1986年認定基準

併合手法についての基準は以下の3つの方法が厚年から採用された。上記II2で述べた①併合(加重)認定、②総合認定、③差引認定である。①と③のための併合判定参考表が、国民年金からの障害基礎年金(国年2号被保険者以外の被保険者期間中に初診日がある場合)の認定においても適用されることになった。「労働能力減退率」は「活動能力減退率」[27])に言い換えられた。また、②については、厚年法が等級認定のモノサシとしていた労働能力により判定(上記1(3))という文言が削除され、「単に総合的に判断して認定する。」と変更された(上記I-2-(2))。この点は、1級と2級については、国年法の包括条項がスライドしたため日常生活能力により認定することになり、3級と障害手当金は労働能力により認定するという2種のモノサシをここで表現することは無理があったためであろう。

これにより、外部障害が複数ある場合、外部障害と内科的疾患がある場合、外部障害と精神障害がある場合および内科的疾患と精神障害がある場合(以下「併合(加重)認定が適用される場合」)は、①により必ず1級となる一方で、旧国年の「総合認定」とは異なり、内科的疾患が複数ある場合や精神障害が複数ある場合には機能障害2級が2つあっても併合1級とは限らなくなった。

しかし、「併合(加重)認定が適用される場合」が逆にプラスに働かない場合も多い。この場合には「全般的活動制限・参加制約」による認定の余地がなく、機械的に併合(加重)認定表に入れ込んで等級を認定するため、2つの3級障害や多数の障害手当金程度の障害により稼得活動がまったくできない障害状態にある場合も、2級と認定される場合は非常に限定的となった(Ⅱ-3、同4-(2)(3))。

 

4.     小活

 厚年法は当初は、包括条項に照らして認定することが原則であるとしたうえで、それが「困難な場合も多いので、便宜上…併合認定の参考とする」として、控えめに記載された併合(加重)認定表による認定方法が、3年後にはその手法のみで、包括条項への該当性を判断することとされた。1961年からは内科的疾患同士の場合には根拠も明確でなく、一度決めた手法が、「便宜上の参考」を超えて、中心的な併合手法となったのである。

 国年は別の認定をしていて、総合認定という名称からも、2つ以上の障害を抱える障害状態が包括条項に該当するかどうかを検討するという柔軟な認定の余地を残していたものと思われる。

 しかし、1985年改正により、併合手法は完全に厚年より採用された。これがどうしてかはどこにも記録されていない。1級、2級が国年の等級表をそのままスライドさせ、一般的な障害の程度の説明(障害の状態の基本)も国年からそのまま採り入れた[28])。にもかかわらず、どうして併合手法だけは厚年から採用したのか。私見は以下である。それぞれの障害の程度を確定させ、機械的に併合(加重)認定表に入れ込むという併合(加重)認定のほうが、併合後の等級決定が事例によってブレることが少なく容易である。一方、「全般的活動制限・参加制約」の程度について、一人の「生」全体をひっくるめて日常生活に著しい制限があるかどうかを判定するのは困難性が大きい、というただそれだけの理由だったのではないか。

国年が総合認定で示していた機能障害や病状が重なる場合は、包括条項に当てはめ、日常生活に著しい制限を受ける場合は2級とする、などというのは、一人の人間が社会的存在である以上、障害が複数あれば、「全般的活動制限・参加制約」の程度が重なることは当然である。重ならないことは(ほぼ)ないというのはまさに解剖学的、医学的な見方である。しかし、それを厚年は採用していた。それが、日本の障害年金の大元にある医学モデルそのものであったという面もあったろうと思われる。

 

IV.   おわりに—併合認定の問題点

1.     障害をバラバラにする認定

日本の障害年金では、複数の障害がある場合に「全般的活動制限・参加制約」の程度により併合後の等級が決まることはない。包括条項への該当性ではなく、障害をバラバラにして、機械的に併合(加重)認定表に当てはめて等級が決定される。そのような手法によって、どうして、2級の法令による障害程度である「日常生活が著しい制限を受けるか、又は、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」に該当しているか否かを画することができるのか、という合理的説明を行うことは困難であると思われる。このことによって、稼得活動ができない状態であっても、障害年金制度から排除されることが多々ある。

このように一人の人の「生」に関わる障害や症状をバラバラにする認定は医学モデルといえる。これは、併合(加重)認定の場合はもちろんのこと、実は、「総合認定」の場合も、「全般的活動制限・参加制約」の程度によって適正に認定されるかというと、ここでも医学モデルによって、稼得活動ができなくても障害年金2級の対象とならないことは多い。複数の精神障害がある場合は診断書様式が同一なので、主治医が一人であれば、1枚の診断書で2つの障害による総体としての日常生活能力評価を記載することができる。しかし、主治医が一人で、2つの疾病や障害を診療しているケースは内科的疾患の場合はほぼない。精神障害が2つの場合も、数十年前から統合失調症で治療を受けている人が脳梗塞となり高次脳機能障害により記憶障害が生じたような場合には、それぞれの病気についつて主治医が別となることが一般的である。診断書が2枚となると、原則として、国はその原因となる当該傷病についての日常生活能力や労働能力の低下の程度について記載するように指示している。しかし、総合認定の場合には、明らかに稼得活動ができないという場合でも、それぞれの主治医は自分が治療している病気に関わる「全般的活動制限・参加制約」の程度しか評価しない。そうすると、2つの病気があって、全体としては「全般的活動制限・参加制約」の程度が介助や援助がしばしば必要で、自力での外出が困難となっている状態(一般状態区分でいうとエ)であったとしても、それぞれの診断書は「軽労働や軽い家事はできる」(一般状態区分でいうとイ)程度の評価にしかならないことは多い。そして、国は「軽労働や軽い家事はできる」という評価を捉えて、2級ではないと判断する。II-3-(2)の事例がまさにそのような事例であった。障害や症状をバラバラにみる認定は「総合認定」においても行われているのである。

 

2.     根拠なき併合(加重)認定

さらに、障害をバラバラにした後の次に併合(加重)認定表に入れ込む併合(加重)認定は医学モデルにもなっていない。併合(加重)認定表による併合認定には何の根拠もない。もっともらしく見えるだけである。それは上記Ⅱ-34で紹介した様々な事例をみただけでも明らかであろう。ということだけでも明確になっていると思われる。

労災法の併合規定[29])ともまったく異なる併合方法により、合理的説明もしえない方法で等級を画することが行われている。併合判定参考表における各号というランク付けは労災等級以外に根拠はなく、労災のランク付けも障害種別を超えた共通するモノサシが合理的に説明されてはいない。たとえば、同じ3級である「言語の機能に相当程度の障害を残すもの」が併合判定参考表6号であるのに対して、「精神又は神経系統に労働が著しい制限を受ける場合」は同7号であるのはなぜか。もう一つ37号があれば前者は2級となり、後者は3級のままである。これはもう一つ障害があるものにとって、天と地の違いがあるものの、このランク付けについての合理的説明はなされていない。その人の同一障害について、言語障害とみるか、精神障害とみるかで併合等級が2級と3級に別れてしまう(Ⅱ-3-(6))ことすらあるのである。

併合(加重)認定表に入れ込むことによる併合結果の相違がどうして生じるのかについても、合理的に説明しえないことは、II-34で事例に基づき、さらにⅢで歴史的経過をたどって、述べたとおりである。

 

3.     認定のあり方の見直しの必要性

このような併合認定によって、障害により稼得活動ができない状態であっても、障害年金が受けられない。国が説明する稼得能力の減退・喪失に対する所得保障という制度目的とはまったく合致しない認定が行われ、制度目的からすれば給付対象とされるべき、稼得活動ができない人たちが障害年金制度から排除されている。

複数の障害による併合手法の問題点は、日本の障害年金の認定の根本問題を顕著に示しているといえよう。日本の障害年金の認定を医学モデル(機能障害重視)による認定から、「全般的活動制限・参加制約」の程度による認定に根本から作り変える以外に、複数の障害による等級認定が制度目的に沿った形で、適正に行われることはないのではなかろうか。

 

 



[1]) 安部敬太「障害年金における等級認定〜その歴史的変遷(1)」『早稲田大学大学院法研論集176号』,2020,4-5頁。

[2]) 安部敬太・田口英子『詳解 障害年金相談ハンドブック』(日本法令, 2016) 615-631頁。このうちの①を厚労省通知3)では「加重認定」と表している。しかし、「加重」という文言に法令上の根拠はない。

[3])  厚労省通知「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準の改正について」(14315庁保発12)別添。

[4]) 年金制度基礎調査(障害年金受給者実態調査)令和元年,4「制度別・障害等級別・傷病名別 受給者数/受給者割合」により算出。

[5])  2つの障害がともに厚生年金加入中であった場合に、併合して3級の受給権が発生することは、厚年法47条の障害状態の原因となった傷病は一つに限ると書かれているわけではないので、複数の(初診日がいずれも被保険者であった)傷病による障害も含まれると解釈することも不可能ではないかもしれない。そうすると、併合して3級という受給権も発生しうるといえなくもない。ただし、同一部位に生じた複数の障害が生じている場合には、2017年に改正された差引認定によって後発障害が3級となることが多い(安部敬太ほか『新訂第2版 詳解 障害年金相談ハンドブック』(2022, 日本法令)710頁)。なお、1985年改正前の厚年法は48条で「障害年金の受給権者に対してさらに障害年金を支給すべき事由が生じたときは、前後の廃疾を併合した廃疾の程度による障害年金を支給する」としていて、複数障害がいずれも障害年金(3級以上)の対象となる場合は併合するものの、障害手当金の場合は併合対象とはならなかった(障害手当金の程度が2つあって、その結果現状が3級であっても併合されなかった)。

[6])  厚労省通知「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準の改正について」(14315庁保発12)別添。

[7]) この表は紙幅の関係で掲載ができない。年金機構ウェブサイト「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」で確認されたい。

[8])  認定基準第2の「認定の方法」に「第1章の第10節から第18節までの内科的疾患の併存している場合及び第1章各節の認定要領において特に定めている場合は、総合的に認定する。」とある。前者の11節〜18節は10節 呼吸器疾患、11節 心疾患、12節 腎疾患、13節 肝疾患、14節 血液・造血器疾患、15節 代謝疾患、16節 悪性新生物、17節 高血圧症、18節 その他の疾患、である。後者の「認定要領において特に定めている場合」というのが「8節 精神の障害」で、その個別基準に「精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する」とある。

[9]) 「天疱瘡は、自分の上皮細胞を接着させる分子に対する抗体により、皮膚や粘膜に水疱(みずぶくれ)やびらんを生じる自己免疫性水疱症で…尋常性天疱瘡と落葉状天疱瘡に分類され尋常性天疱瘡では、口腔を中心とした粘膜に水疱とびらんが生じ痛みを伴い、病変が広範囲になると食事がとれなくなることがあり粘膜優位型では粘膜症状が主体となり粘膜皮膚型では全身に水疱・びらんが広がって、皮膚の表面から大量の水分が失われたり、感染を合併する場合があ」る。「自己抗体の産生と働きを抑える免疫抑制療法を行い…副腎皮質ホルモン(ステロイド)の内服が中心的な役割を果たしてい」る。「ステロイドの副作用として、感染症を起こしやすい、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、胃潰瘍、高血圧などに注意が必要」とされる。難病情報センターウェブサイト「天疱瘡」。

[10]) 20191224日東京地裁判決, 判例集未搭載, ウエストロー・ジャパン, LEX/DB

[11]) 認定基準の「内科的疾患による障害」のほとんどの個別障害について記載されている一般状態区分は以下のとおり(要約)。「ア 無症状で社会活動ができ、制限を受けない」「イ 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業(軽い家事、事務など)はできる」「ウ 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居」「エ 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床し、自力での外出等がほぼ不可能」「オ 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床し、活動の範囲がおおむねベッド周辺」。「内科的疾患による障害」の個別基準の「例示」で2級はエまたはウを要件とする。

[12])  安部敬太・田口英子『詳解 障害年金相談ハンドブック』(日本法令, 2016) 596-598頁。

[13])  ただし、このような判断しないと国は審査請求の口頭意見陳述で説明する。すべて内科的疾患の個別基準では3級は傷病が治っていない(症状固定はない)ことを前提に、単に「労働に制限がある」(厚年令314号)との記載しかない。これを単純に併合判定参考表に照らすと10号となってしまう。これでは内科的疾患がいくつあっても2級とはならなくなる。なお、3級の決定通知(年金証書)は312号「労働に著しい制限」と14号が混在していて、それを画する基準はない、と国は述べる。

[14]) なお、本件はがんについて障害基礎年金の受給権があるので、うつ病での2級での初診日が国年2号被保険者中ではなく障害基礎年金単独の受給権が発生した場合であっても、国年法31条の併合により、障害基礎年金が併合2級となり、かつ、厚年法52条の21項により、障害厚生年金も2級に改定され併給される。安部敬太・田口英子『詳解 障害年金相談ハンドブック』(日本法令, 2016) 623頁。

[15])  「廃疾認定基準の設定について」(昭30 .9.15保険発204号)。これ以降の記述では、各期の通知による障害程度に関する認定の基準についても「認定基準」と表す。

[16])  1), 13-14頁。

[17])  たとえば2級は「13号 前各号に掲げるもののほか、身体の機能に、労働が高度の制限を受けるか、又は労働に高度の制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」、「14号  精神に、労働することを不能ならしめる程度の障害を残すもの」および「15              傷病がなおらないで、身体の機能又は精神に、労働が高度の制限を受けるか、又は労働に高度の制限を加えることを必要とする程度の障害を有するものであって、厚生大臣が定めるもの」

[18])  違いは、①3つ以上の併合のばあいの記載はないため2つの障害の併合だけを行うため併合結果は等級で示されていたこと、②併合判定参考表4号と5号の併合後の程度は現行は1 級であるのに対してこのときは2級とされていたことの2点である。

[19]) 1), 8頁。

[20]) 1), 8頁。ただし、労災法の等級表も、障害の部位や種別が異なる場合の各等級へのランク付けがどのようなモノサシによって行われたものなのかについて合理的説明はなされていない。労災法では労災等級表により労働能力喪失率表(「労災保険法第二十条の規定の解釈について」1957.7.2基発551号別表1, 3級以上は喪失率100%)を示し、これは自動車事故による損害賠償額を算定する後遺障害別等級表(自動車損害賠償保障法施行令2 条)としても準用されているものの、自動車事故の損害賠償に関する、岐阜地裁多治見支部判1978·5·26交民113763 頁等は労働能力喪失率の算定に科学的根拠がないことを批判している。

[21])  「厚生年金保険における廃疾の認定基準について」(昭33.6 .13保発40号)。『社会保険旬報』295(1958年)13 頁。

[22])  1), 16-17頁。各号と率は、1134%(区分によっては119%)2105%392%479%573%667%756%845%935%1027%1120%1214%139%

[23])   「厚生年金保険における廃疾の認定について」(1961711保発47号)添付。1965年の「厚生年金保険の廃疾認定について」(1965334庁保険発13号)によりごく軽微な補正がなされたものの、併合基準について変更はなかった。

[24])  「厚生年金保険及び船員保険における障害認定について」(1977715庁保発20号)。1979年に「厚生年金保険及び船員保険における廃疾認定について」(19791023庁保発30号),社会保険庁『厚生年金保険障害認定要領の説明 改訂4 版』(厚生出版社,1983年)により改正が行われているものの、併合基準について変更はなかった。

[25])  国年法認定基準にある吸器疾患、心臓疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液・造血器疾患、その他の障害の6つの障害種別を指すものと考えられる。国年法には、厚年法にはあった神経系統、代謝疾患、悪性新生物、高血圧症についての基準はなかった。

[26])  ただし、「全般的活動制限・参加制約」のうち最も重視されるのは、包括条項の書きぶりからして、稼得活動の制限ではなく、それよりも基礎的な日常生活における制限であったため、Iで述べた障害年金の制度目的とは合致しない認定が行われることは、厚年よりも多かったと思われる。安部敬太「障害年金における等級認定〜その歴史的変遷(3・完)」『早稲田大学大学院法研論集178号』,2021,7-8頁。

[27])  現行(2022.1.1改正)認定基準の併合判定参考表においても、労災等級表の影響はなお色濃い。併合判定参考表14号は、1985年改正により身体障害者福祉法由来の障害事項を中心に取り込んだ国年法1級と2級(安部敬太「障害年金における等級認定〜その歴史的変遷(2)」『早稲田大学大学院法研論集177号』,2021,2-4頁。)に差し替えても、なお、127の障害事項のうち、現行労災則とランク、内容ともに同一のものが68あり、内容的な近いものが161947年労災則と同一のものが4で、計88で、69%を占める。

[28])  国年から採り入れたのは、12級を国年からスライドさせただけではなく、厚年の認定基準には、各等級の一般的説明が皆無で、包括条項そのものの記載しかなかったということも影響したのではないか。厚年は説明しようとしていないから、説明している国年から採用したということである。ただ、厚年裏の包括条項は、1級常時介護、2級高度の労働制限と、国年(特に2級)と比べると詳しく説明する必要もなく、稼得活動ができなければ2級と一般的に了解しうるものであったという点も留意したい。

[29])  13級以上に該当する身体障害が2以上あるときは重い方の等級を1級繰り上げる、8級以上に該当する身体障害が2以上あるときは同様に2級、5級以上に該当する身体障害が2以上あるとき3級繰り上げる(労災則143項)。